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第32話 採用面接再び④

「では最後の方、お入り下さい」


「邪魔するぜ」


田端の呼びかけに応じて3人目の男が入室した。



今までの2人よりもさらに背丈が高い。


おそらく190cm近くはあるであろう。


しかしなにより田端が目を奪われたのはその端正なスーツ姿であった。


クラシックな英国系テーラリングを強く感じさせる剣先襟のダブルブレストスーツに襟付きのベストを合わせている。


生地はチャコールグレーのピンストライプ柄。


ウエストがしっかり絞られ肩幅が広い。


深みのあるワインレッドのネクタイはワイシャツの襟ピンでホールドされ結び目が浮き上がっている。


おそらく礼和人でこれほどスーツ姿が様になる男はそういないであろうと思われた。



彼はハンドポケットでズカズカと歩き、応募者席にドカッと腰を下ろすと足を組んだ。


彼は無造作に流している白銀に近い長髪をかき揚げながら、意思の強そうな太い眉と鷹を思わせる大きな目で玉座をじろりと睨んだ後、面接官の2人に向かって「さあ… とっとと始めてくれ」と催促した。


(まあ…なんて横柄な方なのかしら。なのに気品と知性を感じさせる…それに強烈な美貌…)


和子は目の前にふんぞり返る不遜なはずの男に抗えぬ魅力を感じ始めていた。



伊集院いじゅういん 龍磨りょうまさん 27才の方でよろしかったでしょうか」


「ああ…それで合ってるよ」


田端は履歴書を持つ手がかすかに震えていた。



――帝京大学理工学部首席卒業


――大蔵省主計局 副局長勤務



(主計局…国家予算を握る最重要部だ…)


彼は唾をごくりと飲み込んだ。



「あ!この人テレビの国会中継で見たことある。伊集院総理の息子さんだ!」


タカシも彼の素性に気づき驚きが隠せない。



「あの…志望動機をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


田端は伊集院に圧倒されつつも、恐る恐る質問した。


「今いるところがつまんねえからだよ」


「え、大蔵省がですか!」


「ああ…バカばっかりだったから俺がシステムを全部改善して道筋を作ってやった。後はあいつらが適当にやんだろ」


(主計局は最上エリートの集まりのはずだが…それと礼和国の財政状態が急に良くなったのは…まさか…)


田端の額に大粒の汗が光った。


「他に質問は?」


「あ、はい。これは他の方にも聞いたのですが、先月の記念館の前年同期費比売上増分の額は、いくらぐらいと思われるか聞いてもよろしいですか」


「3億1200万」


(え!即答…先の2人でさえ少し考えたのに…しかも ぴったり)


田端は荒くなる呼吸を抑えるのに精一杯であった。


「ご…御明察です…しかし…何故…まだ決算の公開もしていないのに」


「そんなもの誰でもわかんだろ。記念館向けのディスティニーのグッズは特殊で出荷数はすぐ絞れる。周辺の交通機関の利用状況とか、来場者の数は毎日公開されてるし、その他諸々ちょっと計算すりゃあばればれなんだよ」


(な、なんて恐ろしい人…まるで神の頭脳…素敵…)


和子の両目がハートマークになりだした。



言葉を失った田端の横でタカシも驚愕していたが(でも何故応募先がうちなんだろう)と少し不思議に思い、半ば冗談で声を発した。


「伊集院さんのような方が今回応募されるなんて凄いです。やはり皇女様がお綺麗だからですかね」


ところがそれを聞いた瞬間伊集院の表情が一変した。


常に口角を少し上げ余裕の笑みを浮かべていたのに

それが全く消え去り、かっと目を見開いてタカシを睨みつけた。


(え!え!何?)


タカシは伊集院の全く想定外の反応に慌てた。


平九郎のパイ・フ―の耳がピク、ピクと動いた。



「ふっ」


しかし伊集院は笑うとすぐに元の表情に戻った。


「ここは皇女記念館だ。『和子様の元で働きてえ』じゃあダメかい?」


「いいえ!いいえ!とんでもないです!」


焦ったタカシは激しくかぶりを振る。



そこで咳払いの後、田端は面接の終わりを告げた。



「ほ、本日はこのあたりで…」




次回   3人の応募理由の真実が明かされる














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