第28話 《ガングロ皇女》記念館②
その男はこれまでタカシが見た事がないような姿だった。
顔は真っ黒で彫りが深いが、人懐こい笑顔を浮かべている。
分厚い唇から覗く白い前歯には様々な色の宝石が埋め込まれて光っている。
頭には赤、黄、緑の横縞で彩られたラスタ帽をかぶり、そこから溢れこぼれるような長いドレッドヘアーが腰まで豊かに垂れていた。
真っ白の T シャツの胸の部分には巨大なライオンの顔がプリントされ、首には安っぽくてド派手な首飾りが幾重にも掛けられている。
下半身はダボダボのバギーパンツと金色のサンダルという組み合わせ。
彼は玉座のガラスの仕切りの前に立ち、観覧者に向かって大声で語り始めた。
「イヤ―マン!俺の名はシャカ・ランクス!はるか遠いジャマイカのキングストンからやってきたぜ!アイリ―!」
ざわめく観覧者から怒号が飛ぶ。
「何者だ!お前?」
「皇女の前に立つな!見えないじゃないか!」
「みんな!クールダウンだ!これを見てくれ!」
シャカ・ランクスは紐で首に掛けている名札を高く差し上げた。
《記念館公式案内員》と表記されている。
オオ―!と観覧者から声が上がった。
(ええ!あんな奴…居たかな?)
混乱するタカシ。
「いいかい!遠いジャマイカから来た俺とレイワのみんなが出会うことは奇跡なんだ。これはジャ―(神)の導きによるもの。今この時はとってもスペシャルでスピリチュアルな事なんだ。この神聖な場で俺は誓う。皇女の真実について語る事を!」
(またこの手の人が現れたわ…)
和子はジト目になっている。
「なんだ ?真実の物語って!」
「ジャマイカ人のお前が知ってんのか!」
観覧者がまたざわめく。
「落ち着け 。ブラザー&シスター!これから俺が語ることはとても大切なことなんだ。じゃあ始めるぜ」
シャカ・ランクスは右手を高く差し上げて語り始めた。
――A real tings(真実の話)その①――
「皇女が生まれて最初に喋った言葉は『アイ&アイ』。」
「一体どういう意味なの?」
混乱する観覧者にシャカランクスは厳粛な顔で答える。
「I and I = 君と僕 / 僕と神 / すべては一つなんだ。
僕と君は別の存在じゃないんだ。
人間と神(ジャー/Jah)も一体。
すべての存在はつながっているんだよ。
これは世界の真理を表す言葉なんだ」
(何を言ってるのかさっぱり分かりません…)
ハテナに囲まれる和子。
――A real tings(真実の話)その②――
「皇女一番のお気に入り料理は《ジャークチキン》」
「そんなの初耳…」
「どんな料理なの?」
胡散臭いと思いながらもだんだん興味に惹かれる 観覧者達。
「辛くて甘くてスモーキーな最高の鳥のグリルだ。タイム、にんにく、生姜、玉ねぎ、ライム果汁、ブラウンシュガーで味付けだ。スコッチボネットペッパーも使って激辛だが皇女はこの刺激が好きだった」
(わたくし辛い料理は苦手です…)
――A real tings(真実の話)その③――
「歌好きの皇女が音楽で一番大切なものを聞かれ《バイブレーション》と答えた」
「それもよく分からない…」
「OK!バイブレーションとは振動のことだ。心臓の鼓動と合わせたリズムのことだよ。ハートビートだ。このリズムが人間にとって一番ぴったりなんだよ。ラガマフィンスタイルだ!ザッツオールライト?」
( NOT ALRIGHT…)
――A real tings(真実の話)その④――
「皇女はこの世を良くするにはどうしたらいいか聞かれ『バビロンを倒すこと』と答えた」
「何?バビロンって!」
「バビロンはヴァンパイア!植民地主義、奴隷制、人種差別、白人中心の西洋近代文明・資本主義社会。そいつらをひっくるめてバビロンシステムだ!皇女はそれをとっても憎んでいたんだ!」
(え!………)
和子は一瞬絶句した。
――A real tings(真実の話)その⑤――
「皇女の遺書には『 大丈夫よ!すべて上手くいくわ』と書かれていたんだ」
(それって……………)
「話はこれで終わりだ!最後に皇女が大好きだった歌を唄うよ。《ライオンの戦士》!」
シャカ・ランクスはリードギターを弾きながら歌い始めた。
ライオンの戦士 ドレッドをなびかせて♪
ママアフリカから連れ去られ ♪
アメリアナへ運ばれた ♪
彼らは生き延びるために戦った♪
ママアフリカから連れ去られ ♪
アメリアナへ運ばれた♪
彼らは戦った 誇りを守るために♪
自分の歴史を忘れるな♪
大事な事に気付くはずさ♪
そして理解するんだ♪
自分は一体何者なのか♪
ライオンの戦士は死んで行った♪
自分達の誇りを守るために♪
ライオンの戦士はドレッドをなびかせ♪
そして今も闘っている ♪
自分達の誇りを守るために♪
しかし歌が終わらぬうちにタカシが真っ赤な顔で 飛び込んできた。
「このインチキラスタ!説明員を調べたけどお前の名前なんて無かった。その名札は偽物だろ!」
「オ―ノ―!グッドボーイ!この名札が本物かそうでないかは重要じゃないんだ。大切なのはスピリッツ。ア―ユ― アンダスタン?」
「訳の分からない事を言うな!インチキばかり喋りやがって!皇国警察に連絡したからな!」
それを聞いてシャカ・ランクスは飛び上がった。
「ポリスマン、Come!!そいつはやばい。ランニング アウェイだ!」
シャカ・ランクスはダッシュするとあっという間に姿を消した。
(あいつ…オリンピックに出たら 金メダル取れるんじゃ…)
タカシは半ば呆れながらその様子を見送った。
その夜。
「ああ!腹が断つ。和子様についてでまかせをばら撒くのは本当に許せない!」
まだ怒りが収まらない様子のタカシ。
しかし、ガングロ和子は微妙な表情だった。
「ええ…確かにあの方の話は全部出鱈目だったけど、何か自分の気持ちを言い当てられてる様な気がして…単なる偶然なのかな…」
何故かシャカ・ランクスの話が頭から離れない和子であった。
次回 職員採用面接第2弾。
全員タイプの違う超絶イケメンで和子のテンション爆上がり。




