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第26話 皇女 映画化される(夢と魔法の世界編⑦)

《Princess Kazuko》の上映が終了し観客がざわめきと共に退出していく。


「うぅ~!」


背伸びしたタカシに平九郎が腑に落ちない顔つきで 語りかけた。


「のう…山田男。この映画は我が国と殿下がモデルと聞いておったが……」


「はい」


「どこに出番が有ったんじゃ?」


「え!」


「黒人の女や、目つきの悪い猫 、女男みたいな奴は出てきたがのう…よくわからん…」


しきりに首をひねる平九郎に対しタカシは愕然とした。


映画に対する皮肉でなく本当にわかっていない様子なのである。


(真剣に気付いてらっしゃらない…礼和がモデルだって知ったら荒れるぞ…)


タカシは得体の知れぬ不安が胸をよぎった。




この映画の上映後、制作サイドからスタッフや声優のコメントが発表され、各種メディアで流された。




監督:ジョン・オスカ―


『今回の映画は非常にチャレンジャブルな試みだった。舞台が今までの様な西洋の童話の世界でなく、ほんの数十年前に戦争した東洋の国がモデルだったからね。しかし私はレイワの歴史と文化をとてもリスペクトしているんだ。今回はそれをできるだけ 忠実に映像化しようと思った。そしてディスティニーの新しい世界を広げる事に成功したんだ。それを是非劇場で体験してほしい』


音楽:アレン・メンケン


『今までの私の音楽人生の中で最高にエキサイティングな経験だったよ。オリエンタルな雰囲気を再現する為に、ジョンとは何度もディスカッションを繰り返した。その結果従来のオーケストラだけでは不十分な事に気付いたんだ。そこでレイワのコトやビワといった伝統楽器を組み合わせて東洋の神秘的な旋律を表現してみた。礼和人スタッフにも太鼓判を押されたよ。迷いが確信に変わった瞬間だった』



カズコ声優:ボヨンセ


『歌手の私に声優って最初は何のジョークかと思ったわ。でも私はこの役にすぐに夢中になったの。カズコはとっても強くてキュートな女の子よ。黒人差別を乗り越えて 2つの国の架け橋となるの。きっとみんな好きになると思うわ』



パイ・フ―声優:エディ・ マーシャル


『パイ・フ―はまったくクレイジーな奴さ。守り神のくせに見栄っ張りで大食らいなんだ。そんなところは俺とそっくりなんだが、顔はあのヘイクロウと瓜二つだぜ!スタッフは今から夜逃げの準備をしておけ(笑)』



ライゼンバ―グ声優:ティム・ キャリ―


『バ―グは最初は謹厳実直な軍人の役だった。でもそれじゃあ面白くないから《もっとノリのいい奴》を俺が顔真似して提案したんだ。それがスタッフに受けてあんなキャラになった。でも最後はバッチリ いいところを見せるよ』


義国声優:ミゲル・ジョイ・ロドリゲス


『私のキャリアにとって、とてもスペシャルな時間だったわ。ヨシクニは男女の性別を超えたアメージングな存在。この作品はカズコやパイ・フ―が目立っているけれど、本当の主役はヨシクニだと確信しているわ。そしてこの作品を通じて私は歴史の真実を知ることができたの。』



しかし 上映後ほどなく《Princess Kazuko》はアメリアで大論争を巻き起こした。



①一般観客(最大多数)



「カズコとライゼンバーグが結婚って無茶苦茶だろ!」


「《パイ・フ―》に題名を変えろ!」


「シンノスケがついに本物の妖怪になってしまった…」


「ヨシクニの『プンプン』を聞いて泣けてきた…」


「プリンセス和子を黒人にする意味があるのか?」


反応:もはや呆れしかない



② 進歩派・リベラル層


「LGBTQの勝利」


「人種差別だけでなく性別も克服した映画の金字塔」


「ディスティニーは今後のエンターテイメントの正しい方向性を決定付けた」


反応:絶賛



③ 保守派・軍事層


「アメリアナ軍はあんなに弱くない。我々が本気を出せばパイ・フ―などひとたまりもない」


「大統領を先に下船させて後から護衛が続くのは セオリーとして有り得ない」


「ライゼンバーグをレイワに婿入させたのは暗にアメリアナの屈服を示唆」


反応:不満の続出



④ 学術・評論・メディア


「行き過ぎたポリコレがエンターテイメントを破壊した好例」


「原点である《皇女の自己犠牲による救国》というテーマが一切消失した只の恋愛ドラマ」


「四聖獣のコミカル化はレイワのみならず東洋全体の感情悪化を懸念する」


反応:問題点指摘の渦


⑤ その他


「パイ・フ―をもふもふしたい!」


「シンノスケの笑顔にぞくぞくした!」


「ヨシクニの青髭を撫でたい」


反応:一部キャラ人気


しかし大多数のアメリアナ人の反応は下記の言葉に集約される。


「俺達は《ジト目》でしかこの映画を見られない…」





初春の満月の夜。


タカシが夜勤の為入館した時、帰り際の館長に声を掛けられた。


「タカシ君。シネマ旬報の春号に今回の映画の特集が組まれているよ。私のデスクの上に置いてあるから興味があったら読んでみて」


「ありがとうございます」


タカシは礼を言ってから事務室に入り、シネマ旬報を手にとってページをめくり始めた。


「中々アメリアナでの評価も厳しいな。映画の出来は悪くないんだけど…何しろ設定がなあ…」


そう言って雑誌を置き、作業に向かおうとしたところ平九郎と出くわした。


「おう!山田男!今日は夜勤か?」


「はい。顧問はこの時間にお珍しいですね」


「仕事は少し早く終わったのでな。殿下にご挨拶申し上げようと思って立ち寄ったのじゃよ。うん?」


平九郎は デスクの上に置かれてあるシネマ旬報の表紙に目が行った。


(あ、しまった!)


タカシは血の気が引いた。


「むう…皇女のディスティ二―映画特集とな…ふむふむ」


雑誌を手に取りパラパラと読み始めた平九郎の顔がみるみる紅潮して鬼瓦みたいな表情になっていく。



「な、な、なんと!なんとな!あの猫が儂じゃと!黒人の編み上げ女が殿下じゃと!そしてあの女男が義国…ぐぬぬぬ!」


「あわわわ…」


指先を銜えるタカシ。


「ディスティ二―めが…舐めおって…」


平九郎は憤怒の表情に染まっている。


「お、落ち着いてください …顧問!」


いくさじゃ…」


「え!?」


「ディスティ二―と戦じゃあああああぁ―!!」


平九郎絶叫。


(不味い…これは不味いよ…)


軍刀を抜いて振り回す平九郎を見てタカシは焦った。


このまま皇室庁や政府と連絡を取られたら大事になると直感したタカシは、ある手段を思い立ち観覧室に走った。



「ぬう!山田男め!どこに行きおった!まあ良い!これから皇室庁に戻って緊急招集じゃ!」


興奮醒めやらぬ平九郎が事務室からホールに飛び出たその時であった。


カツ-ン、カツ-ン、という歩行音に気付いた。


背後に振り向いたその瞬間驚愕の表情となり、その場で膝を下ろして平服した。


平九郎の目線の先には、自分の生首を右脇に抱えた和子が威厳と優雅さを纏って立っていた。


和子の額には依然も使用した《降霊の札》が貼られていた。


「平九郎。一体何の騒ぎです」


「殿下!その御札は?まだ中秋ではない筈…何故…」


和子に付き従っていたタカシが口を挟んだ。


「実は《降霊の札》はもう1枚有りまして…初春の満月の夜だけ使えるのです。それで皇女様をお呼び致しました」


「お…おお…そうであったか!ならば調度良い。殿下…わたくしめはこれから我国と殿下を恥ずかしめた不埒な輩を成敗したく存じます!お許し下さる様お願い申し上げます」



和子は静かに答えた。


「平九郎。わたくしはそなたに似ているあの白虎が好きですよ」


「ええ!」


平九郎は口をぼかんと開けてプルプルと震えた。


「平九郎は海軍提督時代にウラジストック艦隊を殲滅して護国守護神と言われた。パイ・フ―も皇家の守護神。わたくしは2人を重ね合わせていました」


「おお!そ…それは恐悦至極…なれど………殿下をあの黒人女になぞらえたのは我慢出来ませぬ」


「アメリアナは移民による多民族国家。単一民族の礼和よりも人種的に複雑な事情を抱えています。

今や同盟国であるアメリアナを理解する上でこの上ない教材と思いませんか?」


その和子の言葉を聞いて平九郎は涙を流し始めた。


「さすがは殿下!表面に囚われず、常に冷静に物事を見つめて居られる…わたくしめは真に恥入る次第。この度は大人しゅう致しましょう」


ほっと息をつくタカシ。


「ありがとう平九郎。ところでお願いがあるのですが 、私くしの顔に墨を塗り髪を編み上げて欲しいのです」


(ええ!あうぅ!和子様の 悪乗りがまた始まった…)


虚ろな目になるタカシ。


「うぐっ!!顔に墨でございますか…」


狼狽する平九郎に和子はたたみかける。


「1ヶ月だけでいいのです。ディスティニー 上映特別企画と銘打つのです。アメリアナからも多数の来場が見込めますよ」


「………御意に………御座います……」


平九郎は半泣き状態。


後ろのタカシにウィンクする和子。






平九郎がうなだれて去っていった後の観覧室。


「皇女様。この度は名誉顧問の暴走を止めていただき誠にありがとうございました。」


「いいえ。お札を思いついたタカシさんもさすがです」


「とっさに思いついたのがあれぐらいしかなくて… でもこのやり方は度々は使えないと思います」


「そうね。これ以上やるとさすがに怪しまれるかもね」


「ところで皇女様」


タカシは顔を引き締めた。


「あの黒塗りのメイク…本当になさるんですか…」


「ええ…どうして?可愛いじゃない。」


「僕は…気が進みません…」


「タカシさん…私は展示物としてマンネリを避けたいのです。たまには《ガングロ皇女》もよろしくなくて!ウフフフ!」


(僕は今、名誉顧問と激しく気持ちがリンクしている)

がっくりする タカシ。



街路樹の桜はつぼみが膨らみつつあった。





次回 《ガングロ皇女》波紋を呼ぶ





















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