第24話 皇女 映画化される(夢と魔法の世界編⑤)
翌年の春、蒸気を濛々と吐きながらアメリアナの艦隊がレイワ国に向って航行していた。
旗艦《グレートタイタニック号》の艦首デッキに立つ2人。
アメリアナ大統領トールマンと護衛軍司令官ライゼンバーグの姿である。
『おお!レイワがうっすらと見えてきたな!』
潮風の中、目を細めて感慨深げにつぶやく大統領。
『はい!到着は間近です…ですが…1つご質問をしてよろしいでしょうか』
『何だね?』
『閣下は、何故この度の訪礼を御決断なされたのですか?』
『訪問の理由?そうだな…二つ有る』
『二つ?』
『ああ。一つ目の理由は若き日に我国に学んだエンペラーヒサヒトが統治し、又アメリアナ人であったダイアナが后として嫁いだレイワがどんな国か興味があった事』
『はい』
『そして2つ目は外交特使だったゲーリックが非常に熱心に訪問を勧めてきたのだ』
『何ですって!』
『あの男の熱意はすごかったよ。だから私も決断したんだ』
『そうですか……』
なぜかライゼンバーグの脳裏に斑目慎之助の怪しい笑顔が浮かんだ。
彼は徐々に近づいてくるレイワ国の島影を不安そうに見つめた。
一方、到着間近の大統領訪問団を迎える為に慌ただしい様子の皇城。
離宮では一生懸命メイクと衣装を整えるカズコ。
それを手伝いながらも浮かない顔のパイ・フ―。
『全く…あんな軽薄な野郎のどこがいいんだか…』
『大統領の訪問は一大国家イベントだ!手抜かりのないようにな!』
玉座にて自ら家臣に熱心に指示を行う皇帝。
そこにふらりと斑目慎之助が現れる。
『慎之助!この忙しいのに一体何の用だ!』
『陛下。もうすぐ訪問団が上陸します。その時に 大統領を捕らえましょう』
『お、お前!一体何を言っている。』
『大統領を人質にしてアメリアナに降伏を促すのです。あの大国の全てが手に入りますよ。陛下の御威光が全世界に轟きます』
『何を馬鹿な事を…うぐっ!』
慎之助の中指の指輪が怪しく光っている。それに呼応するかのように皇帝の指輪も光り、その目は赤く光り正気を失った。
『ソウカ…アメリアナガテニハイルノカ…』
『ええ。その通りですよ。軍令を御出し下さい』
『ゼングン二メイレイセヨ…ダイトウリョウヲトラエヨト…』
慎之助は にっこり笑った。
『ハァイ。かしこまりました。』
身支度を終えたカズコが義国と共に港に向かっている途中、物々しい軍隊が同じ方向に進軍しているのを目撃する。
『何なの…あの軍隊?一体何の為に…』
最初、怪訝な面持ちだったカズコは『まさか!』
と叫んで城に向かって走リ出す。
『あ!皇女ちゃま!待って!』
義国も慌てて後を追う。
パイ・フ―はカズコの頭にしがみついている。
玉座の間に入ったカズコは真っ赤な目で仁王立ちする皇帝に追いすがって必死に懇願するダイアナの姿を目撃する。
『陛下!どうか軍を御納めください!』
『グウ…ヨハ…アメリアナヲ…シハイスルノダ!』
『お願いです!大統領を捕らえるなどとバカな事はおやめください!』
『ナニ…バカナコトダト…ダマレ!』
皇帝はダイアナを突き飛ばした。
玉座の上段から落ちかけたダイアナを間一髪で受け止めるカズコ。
『お父様!やめて!どうしてしまったの!』
『皇女!あの指輪が怪しいぜ!』
パイ・フ―が皇帝の中指を見て叫んだ。
『義国!お父様を動けなくして!』
カズコはとっさに叫ぶ。
『え!陛下を!もう!わけわからないわん!』
戸惑いながらも義国は皇帝に飛びかかり後ろから羽交い締めにした。
『ウゥ!クソ!ハナセ!』
カズコは身悶えする皇帝に飛びかかり中指から指輪を外した。
皇帝の目から赤い光がすっと消えた。
一方港の桟橋に停泊した旗艦《グレートタイタニック号》のタラップを笑顔で手を振りながら降りてくる大統領。
盛大な軍楽とはためくアメリアナ国旗の中、出迎える斑目慎之助。
大統領とその後ろに続くライゼンバ―グと護衛兵が彼に歩み寄ったその時、慎之助は薄気味悪い笑みをうかべ右手を挙げた。
その瞬間彼の後方左右から黒装束に鉄砲を持った軍団が現れ、大統領一団をあっと言う間に取り囲んだ。
ライゼンバ―グと護衛兵はとっさに大統領の周りに布陣し護衛の体制を組んだが、多勢に無勢の状況。
『抵抗しても無駄ですよ!観念して下さい』
慎之助が大統領に言い放ったその時であった。
『そこまでだ!慎之助!』と後方の高台から声がした。
慎之助が振り返ると、正気に戻った皇帝、カズコとパイ・フ―、義国に支えられたダイアナの姿が有った。
皇帝は『全軍囲みを解き、慎之助を捕らえよ!』
と厳かに命じた。
急な変更に戸惑いながらも兵士は慎之助に銃を向け直して取り囲んだ。
全く動じる様子も無く、妖しい笑みを浮かべて立つ慎之助。
『指輪…外しちゃったんだ…バカだなぁ…僕の言う通りにすれば大国の支配者に成れたのに…』
『何故だ!慎之助…余はお前の事を信じていたのに…』
『何故って…こんな世の中刺激が無きゃ面白くないでしょ?』
『刺激だと!』
『そう。僕、退屈が嫌いなんだよね。アメリアナの軍事力が手に入ったら世界中に戦争を仕掛けるんだ。エキサイティングで最高のショ―!面白いと思いませんか!』
『狂ってる…』
ダイアナが呻いた。
『慎之助…お前の企みは終わりだ。観念しろ!』
『仕方ないなぁ…本当は人間同士が殺し合うのを見たかったんだけど…』
慎之助はそう呟くと、懐から金色の装飾物を取り出した。
それを見た パイ・フ―は仰天して2つの目がビョイ~ンと飛び出す。
『あ!あれは白虎金環!』
『そうだよ。200年前、君から拝借したものさ…今返すよ!』
慎之助はそう叫ぶとブーメランの様にパイ・フ―に向かって金環を投げた。
金環は綺麗な弧を描いて飛び、パイ・フ―の首にシャキーンとはまった。
金環には蛇の刻印の指輪が通されていた。
首にはまった瞬間、パイ・フ―の体がみるみる巨大化していった。
『うぐおおおお!』
苦しそうに体をくねらせながら巨大で禍々しい白虎の姿になっていく。
その眼は邪悪な赤い光を放っていた。
『パイ・フ―!』
カズコはその信じられない様子を見ながら絶叫した。
巨大化を終えたパイ・フ―は、凄まじい勢いで旗艦
グレートタイタニック号まで駆け抜けると、あっという間に艦橋に上り詰め、そこで天地が震えるような咆哮を上げた。
『グオオオオオオォーン!!!』
『ヒィィ!』
『化け物だ!』
愕然とする兵士達。
『素晴らしいよ!パイ・フ―!虫どもを蹴散らして!』
慎之助が命じた瞬間、パイ・フ―は凄まじい咆哮を上げながら兵士たちに襲いかかった。
レイワの兵士達は雲の子を散らすように逃げ惑う。
パイ・フ―は踵を変え、アメリアナの兵団に襲いかかった。
兵士たちは 一斉射撃したが、パイ・フ―には全く通じず、鋭い爪で蹴散らかされる。
その爪が、茫然としている大統領をも引き裂こうとしたその時、間一髪でライゼンバーグが覆い被さっり2人共はじき飛ばされた。
大統領は無事だったが、ライゼンバーグは背中の服を引き裂かれうめきながら倒れた。
『ライゼンバ―グ!!イヤぁ!』
目を覆うカズコ。
『そうだ!皇女様…余計な事をしてくれたね…
パイ・フ―!彼女を楽にして差し上げて!』
慎之助に命じられ皇女の方に振り向くパイ・フ―。
後ずさりするカズコ。
次回 ディスティ二―映画編 完結!




