第17話 皇女 映画化される(ハリウッド編②)
その日、ハリウッド制作による映画『koujo』が、全世界同時公開を迎えた。
元敵国アメリアナが制作し、第二皇女・和子の生涯を描いたこの作品は、公開前から大きな注目を集めていた。
忠国皇女記念館の正門前には、早朝から報道関係者や招待客が集まり、館内には普段とは異なる緊張感が漂っていた。
正門に掲げられた大型の宣伝幕には、英語で映画の原題が記され、その下に「本日公開」の文字が添えられている。
三階大観覧室は前回の倍の人数が招待され
通路は身動きが取りづらいほどの混雑となっていた。
高揚感と期待が群衆全体を包み込み、場内は常にざわめきが途切れることはなかった。
「ぐはははははは!アメリアナの者共が 殿下を崇拝する様をとくと拝んでやるとするか!」
平九郎の大きな声がする。
(さあ。いよいよ始まるのね)
ワクワクが止まらない和子。
開館時間が近づくにつれ、館内の照明が順に消灯していく。
そしてほぼ同時刻、世界各地の映画館でスクリーンが暗転し、最初の字幕が映し出された。
《これは、実話に基づく物語である》
重々しい英語 のナレーションと共にプロローグが流れ出した。
《Imperial Capital Outskirts — Reiwa Empire(礼和皇国帝都郊外)》
ビクッとするほど大きな音量で多数の戦車がキャタピラーで粉塵を巻き上げながら爆進する姿と、それに付き従う大量の歩兵の様子が映し出された。
平原を突き進む軍団のシーンが大迫力で観客を圧倒する。
戦車《M45パットン》の車長ハッチから上半身を乗り出したR・リー・ジャーメイが演じるゴードン将軍が大声で兵士を鼓舞している。
『いいか!あいつらを人と思うな!奴らは魔法を使う化け物だ !1匹残らず叩き潰せ!分かったな!』
歩兵は一斉に『イエッサー!』と答える。
そしてその戦車が向かう数百メートル先には、瓦屋根に土塀のバリケードが長城の様に築かれている。
その土塀の前にカーキ色の詰襟軍服姿の数百人の将兵が正座で並んでいる。
彼らは微動だにせず、迫り来る戦車軍団を凄まじい目つきで睨んでいる。
その正座で並ぶ将兵の列のど真中に、赤い詰襟に胸元に金の飾緒があしらわれた軍服姿で敵をまっすぐ見据えて立っているリー・チャンチ― 演じる和子の様子が映し出された。
表はカーキ色で裏地が真っ赤なバラの刺繍が入った軍用ロングコートを羽織っている。
下半身は乗馬ズボンに10cm ピンヒールのエナメルの黒光りするロングブーツを着用している。
表情は冷静で凛然としており、姿勢は直立不動。
地面まで届く長い黒髪に、耳には肩まで届く桜とピンクダイヤがあしらわれた華麗な耳飾りが揺れ、軍人でありながら皇族的な気品を漂わせていた。
長く豪華な軍刀を正面に突き立て、柄頭に両手を載せていた。
左右には2人の男性が立っている。
右脇には、筋肉ムキムキで傷だらけの上半身裸の、肩に大剣を担いだ三船敏夫が演じる東郷 平九郎が豪快に笑う。
『グアッハハハハハハ!こいつはまた、大層に押しかけてきましたなあ、殿下!』
和子は敵を見据えたまま口がにやりと笑う。
左脇には透き通るような腰まである銀髪で、左右が赤と金色のオッドアイ、黒の燕尾服姿の斑目 慎之助(浅井忠信)。
『放ちますか?』と ボソッとつぶやく。
『暫し待て!』和子が凛とした声で制す。
アメリアナの戦車軍団は礼和軍から数百メートルのところで一斉停止すると、戦車の砲身を和子らに向けた。
『発車!』
ゴードン将軍が叫んだ。
地響きがするような轟音と共に全車一斉射撃が開始された。
しかし 砲弾は礼和軍の手前に見えないバリアがあり、全て弾かれてしまう。
『Oh My God!』ゴードン将軍が愕然とする。
その時に和子が静かに右手を差し上げた。
それと同時に慎之助をはじめとする将兵全員が飛び上がり空中で停止した。
そして全員が両手の手のひらを戦車部隊の方に向けた。
『放て!』
和子が号令をかけると、魔導士軍団の手のひらに真っ赤な炎が灯り、灼熱の火の玉が連続で発射された。
火の玉は轟音と共に戦車に命中し、その全てが破壊された。アメリアナ軍は混乱の極致に陥った。
『今ですぞ!』
平九郎が叫んだ。
和子はばっとコートを脱ぎ捨てると 、刀を鞘から抜き出し両手で柄を握ると 『イヤ―!』と叫んで敵に向かって突入した。
その後ろを大刀を持った平九郎が続いた。
アメリアナ歩兵は一斉に機銃掃射で応戦したが、なぜか2人には当たらない。
敵陣に突入した2人は逃げ惑うアメリアナ兵をバッサバッサと切りまくった。
(わたくし…めっちゃ戦ってる…)
和子は目眩がした。
『オーノー!私は夢でも見ているのか…』
ゴードン将軍は両手で頭を抱えた。
破壊され 煙を上げる戦車群とその周りに無惨に横たわるアメリアナ兵の姿が写され、静かな鎮魂の旋律が流れる――
ここまでで観客の1/3は口から泡を吹いていた。
言葉を失い アングリする和子。
しかし容赦なく映画は続いていく。
シーンが変わってアメリアナの大統領官邸が映し出される。
執務室に呼び出されたゴードン将軍が青ざめて立っている。
クリントン・ウエストウッド演じるトールマン大統領が両手を背中で結んで無言で窓の外の景色を見ながら言葉を投げかけた。
『将軍、君は当初この戦争を3日で終わらせると言ってなかったかね』
『は、はい!その……』
大統領は眉間にしわを寄せて振り向いた。
『まあそれはいい…しかし帝都を目前にして世界最強であるはずの我がアメリアナ軍を持ってして一向に攻略が進まないように見えるがそれは何故なのかね?』
『………』
無言のゴードン将軍。
『君で無理なら彼にやらすしかないのじゃないかね』
『彼!や、奴は駄目です!あいつはこれから軍法会議にかける人間です!』
トールマン 大統領はパチンと指を鳴らした。
両脇を屈強の黒人兵に抱えられ、両手に手錠ははめられたジム・クルーズ演じるライゼンバーグが執務室に連れてこられた。
『俺に一体何の用です!』
ライゼンバーグは叫んだ。
トールマンは感情の抑揚のない声で質問した。
『君は沖島戦線で指揮を取り、少人数且つ短期間で素晴らしい働きをした。しかし勝利を目前にして急に全軍を撤退させた。それは何故かね?』
『あの島は敵兵と軍需施設しか無い筈じゃなかったのか!女、子供がいるとは聞いてなかった!』
『なるほど。君の言いたいことはわかった。だが戦場では想定外の事態はよくある事だ。そこは重要ではない。問題なのは君が軍令違反をしたことだ。君の後任で作戦の指揮を取ったバークレー准将は反撃にあって戦死している。また陥落させるまでに多数の兵士を失った。誠に残念なことだ』
『俺に一体どうしろと言うんです!』
『君にもう一度チャンスを与えよう。皇女を生け取りにし、帝都を陥落させるのだ。そうすれば君の罪は白紙に戻そう。進駐軍の指揮を君に委ねても良い』
『嫌だと言ったら?』
『君は軍法会議にかけられる。おそらく処刑になるだろう。君の妻子を罪人の家族にしたくないんだ。賢明な判断をしてくれたまえ』
『くっ!』
ライゼンバーグは渋々承諾し手錠から解き放たれた。
そしてついに彼は帝都に向かう。
皇女と直接対決する為に。
次回 ハリウッド映画編 クライマックス!




