第9話 皇女の首盗まれる
深夜も日付の変わる頃。
皇女記念館敷地の斜め前の路上に1台の黒いワゴン車が駐車していた。
中には黒ずくめのジャージを着た2人の男の影があった。
二人とも サングラスをかけている。
補助席に座っている出っ歯で痩せぎすの男が、運転席に座っている チリチリ頭の小太りの男に喋りかけた。
「兄貴!そろそろですかね」
「おうよ!俺の調べに抜かりはねえ。もうすぐ奴が出てくるはずだ」
チリチリ頭が答えた。
やせギスの男の名は骨村 小助
チリチリ頭は油 万治
2人は窃盗団の一味であった。
「この時間になると一人しかいねえ清掃係が腹を空かせて晩飯を買いに外に出る。記念館の中にはこの時間に飯を食えるところはねえ。必ず外のコンビニに弁当をあさりに行きやがるんだ。その時がチャンスだぜ」
「ええ、分かってやす」
へっへっへと 小助が笑った。
「しかし 兄貴、皇女の首なんて本当に高く売れるんですかねえ…」
万治はハンドルにもたれかけて記念館の方を注視しながら 答えた。
「ああ。間違いねえ」そう言うと ドリンクホルダーにあった缶コーヒーを一口ごくりと飲んだ。
「ブローカーのやつが言ってたぜ。さる欧州のとてつもねえ金持ちがいて、そいつの趣味がやばいらしい」
「へえ…どうやばいんで?」
「欧州は土葬だから王族や名族の墓が調査の為とかで発掘されて死体がよく出てくるらしい。だいたいミイラ化してるか、骨になってるらしいがな。それを手段を厭わず手に入れてコレクションにしてるんだとよ」
「ひぇ~!本当ですか?」
「ああ。だがそいつの一番の夢は皇女の首を手に入れることなんだ」
「手に入れて一体どうするんで?」
「応接間にでも飾るつもりらしいぜ。飾り付けてな」
「ハァ~、怖ぇーこぇー。金持ちの考えてるこ
とはわからねえ…」
「しっ!出てきたぜ」
2人が目線を写した先は 記念館の裏口であった。
そこからタカシが寒い寒いと言いながら出て来た。
「よし!今だ!」
彼がコンビニに向かって歩き去るのを確認して2人は飛び出した。
裏口の前に駆け寄ると 、あらかじめ用意していた記念館の鍵でドアを開け、中に忍び込んだ。
「皇女の居場所は 3階だ!」「へい!」
二人は素早く駆け上がると観覧室に入り込んだ。
そこには豪華な玉座に座り 、自分の頭を右脇に抱えて静かに佇んだ和子の姿があった。
「ひゅ~!」
骨村はその静謐な美しさに一瞬目を奪われた。
「バカ!何を見惚れてやがる!急ぐぞ!」
2人はガラスケースの右端にある扉から中に侵入した。
(え!泥棒さん!)
和子は2人の姿を見て驚愕したが表情を変えることができない。
「へへ、悪く思うなよ 。皇女様」
そう言うと 庄助は唐草模様の風呂敷を和子の頭にかぶせてそのまま和子の手から取り上げた。
(や、やだ!戻して!私の頭を戻して!)
彼女は焦ったかが、声に出すこともできずされるがままになってしまった。
二人は記念館から脱出すると、車に素早く乗り込みそのまま走り去って行った。
タカシが記念館に戻ってきたのは その10分後であった。
たかしは鼻歌まじりで観覧室に入ったが、そこで買っていた弁当を床に落とした。
そこには首のない和子の胴体が、行儀よく両手を膝の上に置いて座っているのみであった。
(殿下の首がない!!)
タカシは激しく狼狽した。
しかしすぐに記念館の事務所に非常時マニュアルがあったのを思い出して、皇国警察に連絡を取った。
皇国警察はすぐに駆けつけ、 現場検証を行った後、速やかに捜索活動を開始した。
タカシは記念館で待機するように言われていたが、いてもたってもいられず「皇女様!」と叫んで飛び出してしまった。
一方 和子は風呂敷にくるまれたまま運ばれたため、どこをどう動いたのかさっぱりわからなかった。
アジトである古ビルの一室に到着してから窃盗団の2人は和子の頭を唐草模様の風呂敷からから取り出してテーブルの上に置いた。
「兄貴、うまくいきましたね」
「全くだ。あの清掃係 びっくりしやがるぜ」
ガハハと笑いながら二人は雑談で盛り上がり、ブローカーとも連絡を取り始めた。
この内容に耳を立てていた和子は事態の深刻さを理解した。
(この2人、私を売るつもりなのだわ!い、嫌よ!富豪の家の飾り物になるなんて!絶対いや!)
和子は火のように焦った。
そして思い悩んだ末思い切った手段に出ることを決意した。
和子はすーっと息を吸うと、きっと決意して二人に向かって喋りかけた。
「うふふふ。ごきげんよう。お二方」
その瞬間 2人は硬直した。
「あ、兄貴!生首が!」
「ひ、ひい!喋りやがった!」
和子は妖しい笑顔で二人に語りかけた。
「まぁ、悪い方達ですね。わたくしの頭を盗むなんて」
「こ、皇女に意識があるなんて聞いてやせんぜ!」
小助が半泣きで叫んだ。
「う、う、う、うろたえるな、小助!こいつは首だけだ !何もできやしねえ!」
「うふふ 。そうはいかないの 。あなたたちは大変なことをしてしまったのよ。」
「い、いってえ何が大変なんだ!」
後退りしながら万治が絶叫した。
「私の体を不死身にした魔導師は、魔法をかけると同時にきつーい呪いもかけたの」
「の.呪い!」
「そうよ。私の胴体から頭が奪われた時、私の怨霊が首に宿るようにね。うふふ」
「兄貴、怨霊だって!」
「そう怨霊。首を切られて死んだ人間の怨念ってマンモスきついのよ!平将門公の話も知ってるでしょう!私すごくこじらせちゃってるの」
「ヒィィ!こじらせちゃってるらしいですぜ!」
「うるせえ 小助!情けねえ 声を出すんじゃねえ!」
そういう 万治も 恐怖で顔が引きつっていた。
(ここが勝負どころね!)
「さあて、そろそろ祟っちゃおうかな!」
ひい!と2人は 抱き合った。
「元に戻してくれないのなら、きつ~い 呪いで祟っちゃおうかな!」
2人は号泣しながら 土下座して叫んだ
「許してください!戻します !すぐに戻します!」
そうして2人は慌てて和子の頭を風呂敷で包むと記念館に向かって車を走らせた。
到着すると都合のいいことに 誰も不在だった。
2人は急いで観覧室に入ると 、玉座に座っている和子の胴体に首を渡した。
「ハァハァ!こ、これでいいんだろう!」
「あら、残念!私あの世に戻らなくっちゃ!さよなら~」
二人を抱き合ってふぅ~と安堵のため息をついた。
その時であった!
ちょうど 捜索に出ていた皇国警察とタカシが戻ってきたのだ。
「やや!? 貴様ら!何者だ!さては 犯人はお前らか!」皇国警察官が叫んだ。
「え、えへへ。違いまさあ。わしら盗んだけど盗んでないんでございますよ」
「何を訳のわからないことを言っている!話は署でじっくり聞こう!」
「そんな!殺生な!」
泣き叫ぶ二人は連行されて行った。
「殿下!ご無事で良かった!」
タカシはその場で泣き崩れた。
(全く大騒ぎになっちゃったわね…)
和子はやれやれ と思った。
騒動がひと段落した観覧室の夜。
「すいませんでしたー!」
タカシが思いっきり 90度に腰を曲げて頭を下げた。
「今後は絶対 外に買い物に行きません!」
「でもあそこのコンビニは、深夜でも作りたての弁当が買えるのでしょう。気にしないでもよろしくてよ」
「で、殿下!」
タカシは、わっと号泣した。
(また さらわれたら『こじらせちゃったら』なんとかなるかもね)
和子はペロッと舌を出した。
次回 和子に更なる災難が降りかかる。




