エピローグ:癒しの余白にて
(照明が少しずつ落ち着いた温かみのある光に変わる。
舞台中央の円卓はそのままに、対談者たちはそれぞれ椅子に背を預け、やわらかな余韻に包まれている)
(あすかが静かに立ち上がり、会場を見渡す)
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【司会・あすかの振り返り】
あすか(ゆっくりと語る):
「今夜、私たちは時を超えた対話を通じて、“癒し”と“医学”という言葉の奥深さに触れました。
病とは何か、癒しとは何か、科学と霊性は共存できるのか――そして、
“本当の医学”とは何か。
その問いに対する答えは、一つではなく、誰か一人だけが持つものでもない。」
(少し間を置いて、対談者の方を見ながら)
あすか:
「だからこそ、ここに集まってくださった皆さまが、互いの声に耳を傾け、
時にぶつかりながらも、歩み寄ってくださったことに――心から、感謝いたします。」
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【ヒルデガルトの感想】
(ヒルデガルトが立ち上がり、両手を胸の前に重ねて一礼する)
ヒルデガルト:
「この場は、まるで祈りのようでした。
声が交わるごとに、心が澄んでゆきました。
私の中で、医学とは“神の声を聴く術”ですが――
今夜、それが“人の声を聴く術”でもあると、気づかされました。」
(ナイチンゲールが微笑む)
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【パラケルススの感想】
(パラケルススは立ち上がらず、椅子に深く座ったまま、腕を組みつつつぶやく)
パラケルスス:
「ふん……面倒くさい時間になると思っていたがな。
悪くなかった。
俺は相変わらず“理”を信じる。だが……心が、理より先に動く時もあるってことは、
今日はちょっと、認めてもいい。」
(彼の隣で、華佗が静かに笑う)
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【華佗の感想】
華佗:
「医術をめぐる対話が、これほど“心”を通わせるものだとは思っていませんでした。
私は昔、戦乱のなかで多くの命に触れました。
あの頃、こんな風に“言葉”を交わせていたら――もっと多くの命を救えたかもしれません。
……ありがとう。とても、静かな時間でした。」
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【ナイチンゲールの感想】
(ナイチンゲールがすっと立ち上がり、手帳を閉じながら語る)
ナイチンゲール:
「統計や記録だけでは、人の痛みを完全には捉えられません。
今日の対話は、“数値にならない人間性”を可視化する試みだったと感じます。
私はこれからも、科学の力を使いながら、
人を“数字”ではなく“存在”として見る看護を信じていきます。」
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【対談者同士の言葉の交差】
(ふと、ヒルデガルトがナイチンゲールに向かって微笑みながら)
ヒルデガルト:
「あなたの看護の中には、神の優しさが宿っています。
あなたこそ、この時代の修道女です。」
ナイチンゲール(少し照れたように):
「私は、あなたのように神と語ったことはありません。
でも、患者と向き合った瞬間に、確かに“祈り”は生まれます。
その感覚は、きっと私たちの間でつながっているのだと思います。」
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華佗(パラケルススに向かって):
「あなたの“火”が、私の“静けさ”をかき乱しました。」
パラケルスス(苦笑して):
「お前の“静けさ”が、俺の“火”を鎮めたよ。」
(互いに小さく頭を下げる)
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【あすかによる結び】
あすか:
「皆さま、本当にありがとうございました。
この場は、たった一夜の出来事かもしれません。
けれどここで交わされた言葉は、
医療にたずさわる者だけでなく、誰にとっても、“癒しとは何か”を問うきっかけになるはずです。」
(観客席に灯りが戻り、聴衆の表情が静かに浮かび上がる)
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【最後の言葉】
(舞台が徐々に暗転していく。その中で、アスクレピオスの声が、遥か上空から穏やかに響く)
アスクレピオス(回想のように):
「癒しとは、分かたれたものが再びつながること。
それが、医学の原点にして終着点だ。」
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(完全に暗転し、舞台に浮かび上がる一文)
> 「すべての命が、癒しの光のもとにあるように」
(静かな音楽と共に、幕が閉じる)