幕間:最終ラウンドに向けた医神の導き
(舞台がゆっくりと暗転し、音が消える。
次の瞬間、天井から差す一筋の光がステージ中央に降り注ぎ、そこに長杖を手にした人物の影が浮かび上がる。
黄金の蛇が杖に絡み、静かに揺れている)
あすか(驚きと敬意を込めて、声を落とす):
「……皆さま。ご覧ください。
この対談をずっと見守ってくださっていた存在が、ついにお姿を現されました。」
(静かに降り立つ白衣の神。
それは――古代ギリシャの医神・アスクレピオス!)
---
【アスクレピオス、語る】
アスクレピオス(響くような低く温かな声で):
「私はアスクレピオス――
医の原初に立つ者、癒しの神託を与える者。
今宵、汝らの対話を見届けてきた。」
(杖を軽く地に付くと、波紋のように柔らかな光が舞台を包む)
アスクレピオス:
「古代には、医とは神殿と夢と薬草のあいだにあった。
夢に神を見た者は癒され、薬草の精は身体に宿った。
だがやがて、秤と数式がそれを追い越し、人は霊と肉体を分けてしまった。
病は“数値”となり、祈りは病室から遠ざけられた。」
(観客の中に、胸に手を当てる人も見える)
---
アスクレピオス:
「しかし今日、汝らは語り合いながら、
“癒しとは何か”を再び一つに結ぼうとしていた。
科学と信仰、東と西、医と看護、言葉と沈黙……
それらが分断ではなく“橋”となる様を、私は確かに見た。」
---
【神からの問いと導き】
(アスクレピオスが対談者たちの方に向き直る)
アスクレピオス:
「ならば、我が問おう――
“本当の医学とは何か?”
それは肉体の延命か?魂の救済か?社会の制度か?愛の表現か?
汝らの“癒したい”という祈りは、いま、何を目指すのか?」
(対談者たちが静かに立ち上がり、それぞれがアスクレピオスの言葉を胸に感じている)
---
ヒルデガルト(うなずきながら):
「“医学とは祈りである”……あなたの姿がそれを証明してくれました。」
パラケルスス:
「神と医が同居するなんて、皮肉な気もするが……
俺はようやく、“科学だけじゃ足りない”理由が、腹に落ちた気がする。」
ナイチンゲール:
「癒しは、統計では測れない“人の在り方”に根ざしている――
そう思い出させていただきました。」
華佗:
「神であれ、人であれ、“癒したい”という心がある限り、医学は迷わぬのでしょう。」
---
(アスクレピオスはそっと杖を掲げると、黄金の蛇がそのまま光となって天へと昇る。
姿は次第に薄れ、舞台には穏やかな静けさが戻る)
---
【ラウンド4への導入】
あすか(敬意を込めて):
「医神アスクレピオスの言葉が、私たちの心の奥にある“問い”を静かに照らしてくれました。
今こそ、対談の最後のテーマに向かいましょう。
――『本当の医学とは?』
それは、科学でも、霊性でも、制度でも、情熱でもない。
私たち自身が、これまで歩んできた“すべて”の先にある答えかもしれません。」
(静かに照明が落ち、最終ラウンドへと舞台が切り替わる)