9 アルバニア取材 南下作戦 vs ギャング
バルカン半島というのは、歴史的にみても第一次世界大戦のキッカケとなったサラエボ事件のように
いわゆる「ヨーロッパの火薬庫」と言われる。
そこに位置するアルバニアという国家は、地理的、歴史的に常に焦点があてられる。
そこで起きた経済&政治の混乱がアルバニア国家のネズミ講による内戦に至る。
ワタナベはイギリス人プロデューサー、そしてアメリカ人カメラマン、現地アルバニア人兄弟コーディネーターとともに、アルバニアの内戦激戦区である南部へ取材を求めた。アルバニア人兄弟のインチキベンツに機材を積み込み、一路南へ。
何せ国連軍がエスコートするという前日に先乗りで戦地に向かうのであるから、少々の危険は承知の上である。
そういうことを能天気に言っているから天罰が下る。
南部への一本道を走る我々の公称ベンツ車両の前に一台の2人乗りのバイクが躍り出る。
「マッドマックスかよ」と思う間もなく、和製メルギブソンのワタナベが乗るべンツっぽいものは停車を余儀なくさせられる。
バイクの二人は銃口を向け、ベンツ(と書かれた車)から降りろと。
銃が向けられることは日本でもあった。
こういう場合、とりあえずは従うしかないのである。
なにしろ、バイクの2人にはさらに後ろから迫ってくる仲間のバイク2人組がいる。
一本道だと狙いやすいよなあ、そりゃそうだよなあ、などと思いながら車から降りた我々に
ギャングは銃口を我々の鼻づらに向け、手を上げる我々の荷物を車から引きずり出して並べる。
荷物はカメラ機材など仕事関係ばかり。
ワタナベがホテルに置いてきたため、そこに彼らの目的の一つであったろう、エロ本は無かった。
※参照(https://ncode.syosetu.com/n7908kb/1/)
ギャングは、銃口を我々に突きつけて、一人一人にまずは「何者だ」と聞くのである。
(アルバニア語で)
しかし、それぞれギャングの銃口の前に、なんとなく意味を理解したようで、
「ブリティッシュ」「アメリカン」「アルバニアン」などと言い
自分も「ジャパニーズ」と答える。
ちょっとした驚きなのだが、その「ジャパニーズ」がまた「日本に対する理解」が浅いために
良くも悪くも相手に衝撃を与えた。
「ニンジャ!?」と言って相手は、怖気付いて一歩退いたのである ←本当
ああ、日本男児に生まれてよかった。
閑話休題。
このギャング団がお人好しなのは銃口を突きつけながらも
「お前ら何か言いたいことあるか」ときいたことである。
「無いです」「無いです」とスタッフが銃口の前で死を恐れて言う中、
ワタナベは片言で(恐らくギャングも分かる程度の英語で)
「このカメラ機材は置いて行け」と言った。
銃口を鼻づらに当てられて、死が目前の連中は「何も言うなー」「全部持って行ってくださーい」
「こいつは我々の仲間ではないです」と総ツッコミ。
しかし、言語が分からないというのは強い。
ワタナベはまた続けて一言。
「置いてけ」と。
結果、彼らは「エロ本」が無いことを細かに確認して、残念そうにまがい物ベンツをだけを奪って去って行った。
だって彼らには、カメラ機材なんて何の価値もないどころか、強盗の証拠にしかならないのだから。
そして後には、交通手段の無い多国籍の5人が、撮影機材を前に呆然と
立ち尽くしていたのであった。
しかしギャングたちは、ワタナベが首都ティラナに置いてきたエロ本が車内にあれば、エロ本もポンコツ車も取材機材も奪った上に、命乞いをする多国籍スタッフを皆殺しにしたであろう。
スタッフ死屍累々(ワタナベ除く)の覚悟で、命がけで取材機材を守ったワタナベはスタッフに感謝されこそすれ、恨まれる覚えは何もないのである。
それはそうと。
さて、どうしよう?




