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8 「ネズミ講」内戦取材で国連を裏切る

 1997年ヨーロッパの小国アルバニアでは経済的混乱が、内戦にまで発展する事態を招いていた。

 国家が「ネズミ講」を黙認した末に起きた悲劇である。 


 内戦の最中に、ワタナベは日本人ただ一人、勇躍取材に乗り込むのだが、

強盗に遭うは銃撃戦に巻き込まれるは、散々な状況。

 まずはネズミ講について。


 ネズミ講は自分が会員として勧誘した人間から例えば現金100円をもらい、その勧誘した人間はさらに誰かを下位会員として勧誘し現金100円をもらう。100円を払って儲けを得るためには、2人以上を勧誘し200円以上を得ることが必要となる。

 その繰り返しでできた巨大ピラミッドは

 1→2→4→8→16→32→64→128→256→512→1024

一日目に最初の一人が2人を紹介して、2日目にその2人がそれぞれ2人を紹介すると

10日目には下位会員だけでも1024人に膨れ上がり、30日後には下位会員は10億人を超えて破綻する。

「ネズミ算」を語源として「ネズミ講」と言われる所以である。

だから「ネズミ講=無限連鎖講」は法律で禁止されているのである。

 

 しかし、このシステムは現在のマルチ商法ではさらに巧みに取り入れられている。

 「商品を仲介させること」で、子ネズミ(=下位会員)を作り、法規制を免れているのである。

 まあ、商品を販売するネットワーク作りとしては優秀な手法であるが。

 

 さらにこれを利用しているのが、社会問題となっている「情報商材」である。

その「商品」の内容とは「この情報商材を販売すれば、一世代下位の売り上げだけでなく、さらに二世代三世代下位の売り上げさえも、上位会員が獲得できますよ」という情報である。商品すら介在しないのである。


 と、今回はまあウンチクばかりなのであるが

そうしたネズミ講ごときを国家が黙認したばかりに国民の半分が参加してしまい

内戦に陥ってしまうというアルバニアの話。


 それをロンドン支局ジュリアンプロデューサーに「面白い話ありまっせ」と

ネズミ講もうけ話同様の上手い誘い文句にほだされ、ワタナベは取材に行ってしまうのである。

俺をだましたジムモリソン自身、後日ひどい目に遭うのでざまあみろ。

(ジュリアンについては後日語る機会があるだろう)


 アルバニア首都のティラナに到着即日、我々は「国連が明後日に、プレスを南部の戦闘地域に案内する」という情報を得る。

 国連としては「プレス保護」なのだろうが、この護送船団に乗ってしまっては、本当に取材出来るものが取材できないかもしれない。国連が到着する日にはアルバニア南部の両武装勢力は戦闘をおとなしくしているのかもしれないのである。


 そして我々は、イギリス人プロデューサー、アメリカ人カメラマン、

現地アルバニア人コーディネーター兄弟2人とともに翌日、つまり国連ガイドの前日に

南部激戦地に向かうことを決定した。


 これが悲劇の元であった。


 だが、これは英語もアルバニア語も分からないワタナベを尻目にほかの4人で決めたことである。

彼らの謀議の最後に「ワタナベOK?」と聞いたアメリカ人カメラマンが自分の返事を聞いて

「オー、ワタナベセズYEAh!」と騒いだ。

その後に自分が「『イエー』ではなく『いやいや』と言ったんだが」と否定する声すら遮り、

翌日の戦地取材が決まった。

 後に「トランプに日本人の操り方を教えたのは俺だ」とこのカメラマンが言ったとか。

 ならば大谷に野球を教えたのも、浅田真央にスケートを教えたのもワタナベなのである。


 ともあれ、そのアメリカ人カメラマン、ロバートは、この時ワタナベを言いくるめたテキトーな判断が、

後に自らの命が風前の灯火になることを知る。

 天網恢恢疎にして漏らさず。


 後にアフガニスタン取材でワタナベの同僚記者と会った際に

「お前らの同僚に『ワタナベ』というクレージーがいるだろう」と

散々、こぼしていたらしいが、何がクレージーはお前だ。

 とまれ、生きて帰れただけ、彼はワタナベに感謝しなければならない。


 しかしその時点では、ワタナベも、このアルバニア内戦が、後のコソボ紛争やユーゴ空爆につながるなどとは思っていなかったのである。


 そして上記の通り、ワタナベには以降の強盗被害やら銃撃戦やらの混乱には何の責任もないのである。


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