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13 ルクソールテロ 親父は生きている

ルクソールテロの葬儀取材直後に、突如飛び込んできた、親父の危篤情報。

その電話が会社からだったのか、病院からだったのか、それとも母親からだったのか覚えていない。


今、目の前でルクソールのテロで亡くなった方々の現地葬儀があり、そして次は自分の親父の危篤連絡。


すぐにエジプト航空に連絡を取る。

「席を予約する」と。


しかし「満席です」と。


カイロから成田への直行便は満席であった。

当たり前である。

ルクソールテロの遺族が帰国するのである。


ただ、航空座席は万が一の状況が起きた時のために、必ず一席は空けておく。

それをワタナベは当てにしたのである。

その一席が、ルクソールテロの遺族のために提供されたのは当然のこと。

ワタナベの個人事情より優先されるのは当たり前田のクラッカー。←馬鹿


すぐさまカイロからロンドンヒースローへの便を手配し、妻と子どもと落ち合う。

カイロ~ヒースロー~成田は遠回りではあるが、親父が危篤となれば、生還を望むが、もしや命を落とすことになるのなら、意識のあるうちに会いたいではないか。


情報によると、大学教員であった親父は、授業の後、階段から転落し頭部を強打したという。

長いロンドンから成田への飛行、そして、入院先の福島県いわき市の病院に向かう。

すぐさま、成田からバスに乗り換え、いわき市の病院へ。


駆け付けたワタナベと妻と娘、

母と姉は親父のベッドの脇にうなだれていた。

既に意識は無かった。


姉によると父は、術式の前に、姉に何らか目でシグナルを送ったというのだが、それは姉の都合の良い思い込みではないかと思う。


勝手に危篤に陥った親父と、ルクソールのテロ被害者や遺族は、全く別な話で並べること自体がおかしいのは分かっているが、ワタナベには、ほぼ同時に起きた出来事である。


関係ない出来事であるのは分かってはいるのだが

それにしても、目の前に親父は横たわっていた。


親父については、親バカの逆で、子バカとして、綴っておこう。


親父は、その世代にしては、随分と革新的な人物で、結婚の際の儀式は「家同士が結婚するのではなく、個人と個人が結婚するのだ」という考えから否定的であったが、姉や自分が結婚する際の、両家の顔合わせや披露宴には子どもの顔を立てるためだろう、出席しそれなりの言葉を述べている。

ただ、昭和の「お嬢さんをください」というような結婚観には「女性はモノではない」という感覚から徹底的に否定しており、ワタナベもまたそうした「女性をください」発言は忌み嫌ってきたのだが、そのことについては、また後に記述しよう。


何より、自分が放送関係に就職し、報道に配属され、半年が経とうという時に、ニュースの生放送の編集室に、デスク(前述のアフガン取材デスク)が止めるのも聞かずに、「やあ、ワタナベ君」と乱入したのには驚かされた。

ニュース生放送直前である。

(というか、よくそこまで来れたよな)


ちなみに「ワタナベ君」とは、自分が「ワタナベ」と名乗ってエッセイを書いているからではなく、父は自分を幼少期は別として、その後は、外では名前ではなく「ワタナベ君」と呼んでいたのである。

不思議だが「お前もワタナベだろうがっ!」と突っ込んだことはあまりない。


父については、誰でもそうかもしれないが、近親憎悪的なものもあれば、限りなく尊敬する部分もある。


それは後述する。


ただ思い出に浸る間もなく、親父は様々なパイプと管、そして心臓や脳幹、呼吸器とそれを測定する装置につながれ横たわってた。


そしてそんなパイプと管と装置に囲まれる父の横で、

母は父が必ず意識が戻ると信じていた。

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