12 ルクソールテロ緊急と親父の危篤
事件は1997年11月に起きた。
事件を聞いたワタナベはとにもかくにも即エジプトに飛んだ。
ルクソール事件、死者64人、うち日本人10人の被害を出したテロである
ルクソールはピラミッドも望めるエジプトにおける大観光地であり
ラクダに乗れるなどの体験もできるため日本人にも人気であった。
しかし、中東では、反政府テロ組織も活発に活動を続けており、エジプトもその例外ではなかった。
事件発生の報を聞き、即座に向かったルクソール。
そこでは既に被害者の人数が報じられ、葬式を待つだけの状態であった。
実際、自分が出来たのは、事件の際の目撃者の話の取材などではない。
それらは、我々より先に、ロイターやAPが報じている。
ただ、現地で行われる葬儀とその遺族を取材し、映像編集をして
東京に送るばかりという状況であった。
ワタナベは取材を終え、東京への伝送も終え
遺族の方々には大変申し訳ないことではあるのだが、
現地のカメラマンと音声さんとエジプトのカフェでコーヒーなんぞで
一服していたのであった。
テロ犠牲者の葬式直後にも関わらず
ピラミッドがどうの、ラクダに乗ったらどうのと言っているから、
この際、バカは不幸になるのである。
カフェで体を休めるワタナベに電話が鳴る。
「お父さんが危篤だそうです」
「!!!」
今のいままで、被害者遺族の現地での葬儀を取材していたワタナベは
すぐにエジプト航空に電話をかけた。
今すぐ日本に帰るのだ。
親父の意識のあるうちに。
不謹慎だとは思いながらも
「人は死ぬもんや」
https://www.youtube.com/watch?v=Ni8VFJqYXRs




