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カフェを出た後、啓徳と敦子は手を繋いで周辺を歩く。それから人の少ない公園のベンチに座り、啓徳は敦子に告白した。
「今日会ってお互いをもっと知っていきたいと思いました。付き合ってください」
敦子は「え、嘘、私でいいの……?」と目を丸くする。啓徳は「敦子がいいんだ」と返し、敦子は「はい、ぜひよろしくお願いします」と言う。これで啓徳と敦子は恋人同士になった。敦子にとっては初めての彼氏で、啓徳にとっては高校時代以来の彼女だ。
敦子と付き合い始めて、啓徳はたくさんの思い出を作る。カフェでのお茶や食事はもちろん、嵐山に紅葉を見に行ったことも。敦子はディズニーランドに行ったことがないとのことだったので、来年敦子が20歳の誕生日を迎える際にディズニーランドに行こうという話もした。付き合って1ヶ月記念日には映画を観に行き、ハンバーグレストランで食事をし、イルミネーションを見に行ったこともある。これだけ見ると、普通のカップルと変わらないと啓徳は感じた。
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敦子は可愛いし、一緒にいて楽しい。しかし啓徳にはどこか違和感があったのだ。食事する場所は毎回おしゃれなところで(敦子はガヤガヤ騒がしいのが好きではなく、ゆっくり話せる場所が好きだそう)、たまにはラーメン屋や親子丼屋はと言うと難色を示される。話題の提供はいつも啓徳からで、敦子はあまり話す方ではない。またデートスポットの提案もいつも啓徳がしており、敦子から「ここに行きたい!」という言葉は聞いたことがない。しかし会計時には財布を出し、支払う意思を見せてくれる。
結局これって、俺が楽しませる前提なの? 俺はホストかガイドで、敦子はお客さんなの? 啓徳はそういったことを考えるようになる。しかも、啓徳はそこまで敦子を好きだというわけではないことに気づいてしまった。可愛い見た目は好きだけれど、それ以外に敦子の好きなところはと聞かれても、パッと思い浮かばないのだ。
啓徳は悩みに悩んで、敦子にLINEで話を切り出す。1ヶ月以上付き合っているのに、自分の気持ちが敦子のそれに追いつかないこと。そんな気持ちなのに、恋人でいるのは誠実じゃないと思うこと。可能なら敦子とは友達に戻りたいということ。
送った後、啓徳は自分の身勝手さに気づく。マッチングアプリでお互い恋愛前提で知り合っている以上、友達期間なんてないし、友達に戻るだなんて無理な話なのだから。結局啓徳と敦子は2ヶ月という短期間で破局した。友達に彼女と別れたと言うと、「早っ!」「なんで?」「まだ2ヶ月でしょ?」と言われたけれど、啓徳はもうこうするより他はなかったのだ。なんだかんだで叶絵への未練が完全には消えていないこともあり、やはり自分には恋愛は向いていないと啓徳は悟った。




