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年末、啓徳は福徳マネージャーに「4月から京都の専門学校に行くので、3月末で退職したいです」と話を切り出す。有休消化の交渉も行う。福徳マネージャーは「ついに辰巳が退職か……。寂しくなるけど新天地でも頑張れよ」と言ってくれた。その後はあと数ヶ月という短い期間だけれど、できることを一生懸命頑張ろうと努める。
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そんなこんなで啓徳の最終出勤日となる。朝礼で福徳マネージャーが啓徳の退職を知らせると、パートの女性陣からは「えーっ?」「嘘?」などと驚きの声があがっていた。というのも啓徳は退職について、福徳マネージャー以外には誰にも言っていなかったからだ。啓徳も「福徳マネージャーからのお話通り、僕は今日で退職することになります。あと1日ですがよろしくお願いします」と挨拶をした。
その後大原さんが「啓ちゃん4月から何するの?」と啓徳に質問し、「京都の専門学校に行きます」と啓徳が答える。「あらそうなの。頑張ってね」と大原さんは言ってくれた。啓徳の後輩である男子大学生の八木さんも「え、辰巳さんやめるんすか? 寂しいっす……」と言ってくれる。こんな俺でも寂しがってくれる人がたくさんいるんだな。そう思うと、啓徳は嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになる。しかしここを離れるのは辛かった。
やめた後に何をするかと聞かれて、辞める職場だしYouTuberになるとか結婚するとか適当に答えても良かったかなと啓徳は思う。しかし地元であること、スタッフに恵まれたことを考えると嘘はつけなかった。いよいよ啓徳の退勤時間となり、「また地元帰ってきたら遊びにきてね!」と女性陣に言ってもらう。啓徳は福徳マネージャーに「今までお世話になり、ありがとうございました。帰省したらまた遊びに来るかもしれません」と挨拶をする。それからクリーニング工場を後にした。
有休消化中に京都への引っ越しを完了させ、いよいよ4月から夜間専門学校に入学する。啓徳と同年代の20代前半の人は他にいないけれど、啓徳がクラスで最年少ということで20代後半から30代後半の人たちに可愛がってもらえた。2歳上の松田弘と仲良くなり、他の20代の人たちとも友達になる。それからみんなでボウリングやカラオケや飲みに行くようになった。
日中は京都のクリーニング工場にて9時から17時まで・週に5日アルバイト(前職で3年間経験があると話し即採用された)することになり、前職と仕事内容は似ていたので仕事をすぐに覚えて啓徳は即戦力となる。ここでもパートの女性陣と仲良くなり、昼休みや休憩中にお菓子をもらうこともあった。