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啓徳は叶絵をひどい女だなんて思ったことはなかった。むしろこんな状態なので、別れを告げられてもしかたないと思っていたのだ。
それ以降も啓徳は自宅療養を続けることになる。大学は中退し、治療に専念することにした。
「せっかく頑張って国立受かったのにこんなことになっちゃってごめんなさい……」
啓徳が両親に謝ると、両親は「大学とかよりも啓徳の身体が大事! まだやり直しはできるから」と言ってくれる。啓徳は両親の言葉に救われたような気持ちになった。
最初は外出することすらできなかった啓徳だが、両親や弟2人の協力もあって次第に行動範囲を広げることができるようになる。外出できる範囲が広がるにつれて、啓徳は何もしていない自分への罪悪感が強まった。平日働いている社会人や通学中の学生を見ると尚更だ。みんな頑張って学校や会社に行っているのに、なんで俺はこうなったんだろう。そんな気持ちになることが多々あった。それでも休日は家族にショッピングモール、映画館、テーマパークなどに連れて行ってもらい、平日は図書館で本を読んで過ごす日々が続く。
***
適応障害と診断されて2ヶ月後、啓徳は自分もそろそろ社会復帰したいと主治医に話す。すると主治医は啓徳にまずはアルバイトから始めてみてはどうかと提案した。
「いきなり接客業とかは辛いと思うので、まずは工場とか人と関わらないところから始めてみてはどうですか?」
と主治医は、接客業よりは人と対面しないような黙々とできる仕事を啓徳に勧める。
「なるほど……わかりました。僕の性格的にも接客業は向いてないと思うので、黙々とできる系から始めてみます」
啓徳は主治医の話に耳を傾け、帰宅してから本格的にアルバイト探しをしようと決めた。
さっそく啓徳はアルバイトの求人を探すことにする。ーー接客業でないこと。黙々と集中して作業できること。ノルマとかはなく自分のペースでできること。誰かに監視されながらの仕事でないこと。これが啓徳の中での仕事に関する希望条件だった。そこで啓徳はクリーニング工場でのアルバイトスタッフ募集の求人を見つけて応募する。その日の夕方に担当者から電話でぜひ面接に来てほしいと言われたので、日程調整のち面接に行くことになった。
とはいえ啓徳は面接が得意ではないので、次男の高校2年生・葵に面接官役をしてもらいながら面接練習をする。家族なので多少の贔屓はあったものの、次第に「兄ちゃん、ハキハキ話せるようになってる」と葵から褒めてもらえるようになった。