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そこで叶絵が「あれ? あの時の子じゃない?」と近づいてくる。啓徳が「知り合いですか? フラフラ歩いてきて突然倒れたんです」と状況を説明した。近づいてきた女性が叶絵本人であることにはまだ気づいていないようだ。
「多分ODか急性アルコール中毒だと思う。この子乃亜ちゃんっていうの?」
叶絵が乃亜の状態を見て推測する。啓徳が「そうですね……」と言うと、叶絵も「乃亜ちゃーん、聞こえるー?」と大声で呼びかけた。しかし乃亜は未だに反応しない。
啓徳が119番通報し、乃亜は救急車で病院へ運ばれていく。救急隊員にどういう状況かと聞かれ、啓徳が説明した。「多分ですけど、ODか急性アルコール中毒な気がします」と叶絵は言う。
救急車を見送った後、啓徳は「もしかして叶絵? なんでここに……?」と尋ねた。叶絵に似ている人だろうかと思ったけれど、本人かどうかを確認したかったのだ。
「私いま看護師してるし、私で良ければ助けたいって思って」
そう話す叶絵に啓徳は「今までどうしてたの? 俺はずっと、ずっと会いたかった……」と本音を漏らす。
「啓徳を見捨てたのは私だし、私はもう啓徳と顔を合わせる資格はないって思ってたのに、なんで……」
「あのことはもう気にしてないよ。病気だから捨てられても仕方ないって思ってたし、高校生の叶絵には荷が重すぎるって思って、身をひこうか悩んでたんだ」
驚く叶絵に啓徳は当時のことを振り返りながら話した。それから叶絵は、啓徳に看護師になった経緯を話し始める。
「啓徳のことがあって、看護師になったの。誰かを救える人になりたいって思って。啓徳には言ってなかったんだけど……」
話の続きはあるの、と啓徳は叶絵から話を引き出した。
「私、夏に結婚して九州に行くんだ。新しく家族ができるの。だからもう、啓徳とのことは良い思い出として取っておこうと思う」
叶絵はついに、結婚予定であることを啓徳に伝える。そうか、叶絵もついに結婚か……。相手はどんなひとなの? 聞きたいけれど、啓徳は聞いても良いのか悩んでしまう。俺が大学中退して夜間専門学校に行って公務員になったように、叶絵も大学卒業後は看護師になって結婚して九州に引っ越すんだな……ーー。
「叶絵もついに結婚か……。幸せになれよ」
啓徳が言うと、叶絵は「ありがとう、啓徳も幸せになってね」と言って立ち去っていった。
啓徳は心にポッカリと穴が空いたような気分だった。叶絵と会えなくなったとしても、啓徳は啓徳で自分の人生を前向きに生きようと思えたのだ。