1
「あ、辰巳先輩だ!」「辰巳先輩って本当イケメンだよね」「彼女いないって聞いたけど、なんで彼女いないのか不思議」
女子生徒たちからの黄色い声が響いてくる。高校3年生の辰巳啓徳はいわゆる「イケメンの先輩」として学内では有名人だ。3年間でのべ16人の女子生徒ーー先輩、同級生、後輩などさまざま。同じ女子生徒から3回告白されたこともあったーーから告白されてきたけれど、啓徳はその都度断ってきた。
「1年生の女の子から告白されたんだって? お前本当にモテるよなあ」
「辰巳また断ったん? 10人以上に告白されてもいい子いなかったわけ? そろそろ誰かと付き合おうとか思わんの?」
男友達からそういったことを言われたこともあったけれど、啓徳は「もう目立つのは良いわ。平和に学校生活を送りたいだけなんだ」と返す。というのも、告白されるたびに「どうせ俺の顔にしか興味がないんだろう?」という気持ちになっていたのだ。俺はみんなが思っている辰巳啓徳じゃないし、実際は人見知りな性格なのに。そう思っていた。何しろひとを好きになるのに普通の人以上の時間を要するので、俺には恋愛は向いてないんだろうなと思っていたのだ。
そんな時、啓徳は同じ卓球部に所属する1年生の平沢叶絵のことが気になり始めた。叶絵はショートヘアで、竹を割った男勝りな性格なので同学年の女子生徒から慕われている。平沢さんは恋愛とか興味ないんだろうなと啓徳は考えていた。だが部活で何度か叶絵と話すうちに、「高校生になったし青春したいなって思うんですけど、私見た目も性格もこんなんだからモテないんですよ」とおちゃらけながら話す彼女に啓徳は惹かれていく。
部活が終わったある日、啓徳と叶絵は一緒に帰ることになり、恋愛の話で盛り上がっていた。
「周りの子は彼氏と記念日〜って楽しそうにしてるのに、私は記念日とかあんまり興味なくて……。こんなんだから彼氏できないんだよって感じなんでしょうけど」
と笑いながら言う叶絵に啓徳は
「俺も記念日とかよくわかんないや。誰かに喜んでほしい気持ちはあるけど、人見知りすぎて何したら良いかわからなくて」
と返す。「辰巳先輩も人見知りするんですね! 私も実は中学時代は人見知り激しすぎて不登校気味だったんです」と話す叶絵に、啓徳は平沢さんも人見知りすることがあるなんて意外だと考えた。それと同時に、性格が似ていた叶絵に啓徳は親近感を覚える。こんな俺でも良ければ平沢さんの彼氏になりたい。啓徳はそう思っていた。