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ぴよちゃんず初出前

 大阪に住まいを構える山田家。


 今日も、ここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。


 リビングの窓際、夕日が射し込む、日当たりのいい場所。


 彼らはそこにある黒ゴマ色ソファーの上で、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーを寄せ合い座っている。


 いつもと同じ位置。


 右から頭に1本の毛を生やす、長男で優しくてしっかり者の長男のぴよ太。


 2本の毛を生やす、次男で頭が良く要領のいいぴよ郎。


 3本の毛を生やす、三男の甘えん坊で泣き虫なぴよ助の順に。


 そんなひよこたちの前には、ホイップクリーム色のタブレットが1台置かれていた。


 なぜ、タブレットが置かれているのかだが、理由はとてもシンプル。


 山田夫妻の2人の帰りが遅くなる為だ。


 いつもは、どちらか片方が夕飯時には帰宅して、ひよこたちのご飯を準備するのだが、今日はそのどちらも早く帰れず、彼らの夕飯を作ってあげることが叶わない。


 この事を予想していた山田夫妻が、あの有名な宅配アプリのインストールされたタブレットを置いていった。


 しかし、そのタブレットを前に、ひよこたちは頭を抱えていた。


 彼らが頭を抱える理由は、モフモフふわふわボディーのせいで、お腹が先に当たって自分の思うように操作ができないことだ。


「困ったぺよ……注文しようとしたら、ぴよちゃんのお腹当たるぺよー」


 甘えん坊ぴよ助はタブレットの手前で、アプリを操作しようと手足ひょこひょこと動かしている。


「任せてぺよ!」


 しょんぼりする弟の肩を叩くのは、しっかり者のぴよ太。


 ぴよ太は、タブレットの上で打ちひしがれるぴよ助の手を引き、黒ごま色のソファーの上へと戻してあげると、自分の案を試した。


「んしょ! もうちょっとで届くぺよ!」


 画面を踏まないようにつま先を忍ばせて、めいっぱい手を伸ばす。


 ぴよ太の案は、YouTubeで見たシルクハットとジャケット姿が印象的な国際的アーティスト真似。


 とても簡単な案だが、これによりお腹が当たるギリギリまで画面に近付くことができるのだ。


「も、もう少しぺよ!」


 ぴよ太は必死に手を伸ばす。


 それを兄弟たちは真剣な表情で見守っている。



「「「あっ!」」」



 3匹の声が重なった瞬間。



 ――ぽにょん。



 タッチの差で、画面に当たるお腹。


 注文画面どころか、まだ商品すら選べていないのに、無謀にも画面はロック状態へと切り替わる。


 タブレットの前で、頭の毛を下げて落ち込む長男ぴよ太と、ソファーの上で膝を崩す三男ぴよ助。


 そんな兄弟を前にして、今度は頭の切れる次男ぴよ郎が立ち上がった。


「ぺよ! ちょっと待ってぺよね! ぴよちゃんが必ず注文しやすくするぺよー!」


 ぴよ郎はいつになく張り切っていた。


 タブレットを見つめる視線は、試合前のアスリートのように鋭く、小さな手足をぱたぱたさせたり、頭を振ったりしている。


 次男ぴよ郎は、難しいことやできないことのある方が燃える性格なのだ。


「んじゃ、いくぺよー!」


 ぴよ郎は、自分の体の3倍はあるタブレットを掴むとずりずり引き摺り、黒ゴマソファーの背もたれがある箇所まで運んだ。


 そして、頭に生えた2本の毛を揺らしながら、タブレットを押し上げた。


「これで見やすくなったぺよー!」


 そびえ立つタブレット。


 ぴよ郎は、それを2本の頭の毛を立て満足そうに見つめている。


 そんな次男の後を追って、ぴよ太、ぴよ助もソファーの上を走ってきた。


「やったぺよー! これでおててを使って注文できるぺよー! ぴよ郎ありがとうぺよー」


 初めに着いたのは、甘えん坊の三男坊ぴよ助。


 元気いっぱいに短い手足を広げてピョンピョン跳ねている。


 少し遅れてしっかり者のぴよ太も辿り着いた。


「ぺよー! ぴよ郎助かったぺよ! それにしても食べ物のこととなると、ぴよ助は速いぺよね!」


 そういうとぴよ太は、ぴよ郎とぴよ助の頭を撫でる。


 ぴよ郎は、自分の案を評価されたことが嬉しいようで、2本の頭の毛を小さく揺らしていた。


「えへへ、ぺよー!」


 隣にいるぴよ助も嬉しそうにくちばしを動かし、ほっぺたをいちご色に染めた。


「ぺよー! なでなで嬉しいぺよ! 食べ物は大事ぺよからね」


「確かに大事ペよ! いっぱい食べないと大きくなれないぺよからね」


「ペよー! ぴよちゃん、いっぱい食べておっきくなるぺよー!」


「その意気ぺよー!」


「ぺよペよ! それよりもぺよ? みんな、なにを選ぶぺよか? 早く注文しないとお店を選べなくなっちゃうぺよよ?」


 ぴよ郎は、タブレットの前でお喋りに夢中となっている2匹に尋ねる。


 注文する時間が遅くなってしまうと、選べるお店が減ってしまうことを、ぴよ郎はちゃんと知っていたのだ。


 ぴよ郎のもっともな言葉を受けて、2匹のひよこはそれぞれに思い悩み始めた。


「うーんとぺよねー、ぴよちゃんは……」


 ほっぺたに手を当て、首を傾げるのは、甘えた三男坊のぴよ助。


 その頭の中には、もっちり食感のカスタードプリン、口溶けのいいアイスクリーム、揚げたてのさっくりとした生地が売りのドーナツが浮かんでいた。


 だが、食べ物自体が好きなぴよ助には、決めることができず、スクロールしてはタブレットの前でしかめっ面をし「ぺよよ……」と腕を組むを繰り返している。


 そんな仁王立ちをしているぴよ助の右隣に立っていたぴよ太も目を細めて真剣に考え込んでいた。


 ぴよ太の頭に浮かんでいたのは、春巻き、ハンバーグ、唐揚げ、フライドポテトなど、色んなおかずが乗ったパーティセットや、ピザやお寿司といったみんなで分けることができるものだ。


「ぺよ、みんなでやっぱり分けれる方がいいぺよよねー」


 しかし、その優しさのせいで、決めきれないでいた。ぴよ助と同じようにタブレットの前で、スクロールしては考え込むを繰り返している。


 その様子は、まるでお餅つきのようだ。


 ぴよ助がスクロールして考え込み→ぴよ太がスクロールして考え込む。といった感じに。


 そんな中、2匹の後ろからぴよ郎の鶴の一声が響いた。


「分けれるのも大事だけどぺよ、あんまり高いのも良くないと思うぺよ! たこ焼きなんてどうぺよ?」


 実のところぴよ郎は、優しい長男、食べ盛りの三男。

 2匹が決め切れないことをわかっていたぴよ郎は、前日からネットサーフィンをして、みんなが納得できる物をセレクトしていた。


 それは、価格も良心的でみんなで分けるのに適した外はカリカリ、中はトロトロ、タコが入った大阪のソウルフード。


 その名もたこ焼き。


 山田夫妻も大好きな物で、ぴよ太の案もぴよ助の気持ちを汲み取ったメニューでもある物だ。


 ぴよ郎の言葉により、悩んでいた2匹の表情は明るくなっていく。


「ぺよー! たこ焼きー! 食べたいぺよー!」


「ぺよぺよ! それならみんなで食べれるし、パパさん、ママさんも喜ぶぺよー!」


「「ぴよ郎、ありがとうぺよー!」」


 2匹は声を揃えて、少し照れて下を向いているぴよ郎に抱きついた。


「ぺ、ぺよ……どういたましてぺよ……」


 抱き締められたぴよ郎は、ほっぺたをいちご色に染めて、頭の毛をピンと立てている。


 そんな次男を取り囲み「ぺよぺよ」と上機嫌な様子のぴよ太とぴよ助。




 ☆☆☆




 この夜。


 リビングにはたこ焼きを食べながら、談笑する山田夫妻の声と、たこ焼きのようにまん丸となった、ひよこ3匹の楽しそうな鳴き声が響いていましたとさ。




 ぺよぺよ

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