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公爵令嬢はシン婚約者宅に送られる

 人生において信じられないようなことは、しばしば起きる。


 元王太子婚約者リネット・セナケリア公爵令嬢は白い馬車から降り立つと、新しい婚約者の住居であり、これからは我が家となる邸宅を見上げた。金髪に緑の瞳の貴族らしい整った顔立ちをした色白肌の令嬢。彼女が細い体にまとっているのはウエディングドレスである。しかし、花嫁にしては浮かれた様子が一切ない。その知的な輝きを放つ緑の瞳は、目前の建物を吟味するように眺めていた。


(立派なお屋敷だこと。さすがは王弟殿下のお屋敷ね。ここが今日から私の家となるのかしら……)


 時は春。薔薇咲き乱れ、新緑は輝く季節の朝である。晴れた空から降り注ぐ陽の光を受けて、手入れの行き届いた屋敷は窓枠まで輝いて見えた。窓ガラスに至ってはキラキラと煌いて宝石のようだ。


(臣籍降下のご予定と言っても、粗末に扱われているわけではないようね。立派なだけでなく、手入れも行き届いている。敷地はとても広いのに。なんて素晴らしいのでしょう)


 リネットは春の日差しを受けて輝く屋敷を目指すべく、スッと背筋を伸ばす。二十歳の公爵令嬢であるリネット・セナケリアは、金の髪に緑の目の美しい娘だ。貴族らしい振る舞いで白いドレスの裾を引きながら優雅に歩を進める。肌の色は抜けるように白いが、透ける血の色で淡いピンクに染まっていた。細い体に纏っているドレスは、真っ白なウエディングドレスだ。しかし、公爵家の令嬢がまとうにしてはいささか安っぽい。

 

(ドレスまであるとは用意のよろしい事で。ただ、このドレス。サイズが合っておりませんわ)


 細いリネットには大きめのドレス。そのウエディングドレスは、よく言えばフワッと、悪く言えばズルズルといった印象を与える。


(こんなモノまで用意して。ケンドリックさまは、どれだけ私が邪魔だったのでしょうか?)


 セナケリア公爵令嬢は、王太子であるケンドリックの婚約者であった。それなのに王妃教育も済んだ二十歳の令嬢が、なぜ婚約者を変えられてしまったのか? それには理由がある。


(確かに……レティシア・スカルノ男爵令嬢は、魅力的ですわね)


 ケンドリックはリネットに難癖をつけて婚約破棄したうえ、王妃教育により国の秘密を知る彼女を囲い込むために、新たな婚約者も勝手に決めてしまったのだ。


(レティシアさまの赤い瞳は魅惑的ですし。艶やかな赤い髪も、日に焼けたような濃い肌色も、グラマラスな胸元と相まって、紳士方の目を惹くのでしょうけれど)


 声高に文句をつけるつもりはない。けれど、納得はできない。


(魅力的な令嬢だからといって、王妃に迎えて良いとは限りませんわ。男爵令嬢ならば側妃や愛妾でも良いと思いますのよ、私。それをわざわざ婚約破棄をしてまで、なんて)


 溜息をグッとこらえて背筋を伸ばす。リネットの公爵令嬢としての矜持を示すためには、無様な姿をさらすわけにはいかない。


(婚約破棄されて当然の令嬢だ、などと言われてしまったら私……耐えられませんわ)


 考えれば考えるほどケンドリックの仕打ちには腹が立つし理解に苦しむ。


(公爵令嬢との婚約破棄をした上、自宅に帰ることも許さずに新しい婚約者の元へ送り込むなんて……ケンドリックさまは、何を考えていらっしゃるのかしら? 私は、そんなに嫌われていたのかしら?)


 リネットは少し考えてみたが、思い当たる節などない。そもそも王族と貴族の結婚なのだから、好きも嫌いもないはずである。


(私自身、好きとか嫌いとか。考えたこともありませんでしたわ)


 幼少時から決められていた婚約は、リネットにとっては義務である。ケンドリックのことは、好きでも嫌いでもない。そもそも物心ついた時には始まっていた王妃教育に忙しく、冷静に考えている暇など無かった。


(だからといって、婚約者としての義務をおろそかにした覚えもありませんわ)


 ケンドリックとの関係をおろそかにしていた覚えもないのだ。月に一度の婚約者同士親睦をはかるためのお茶会には欠かさず出席していた。王妃教育で忙しいにも関わらず学生時代には生徒会の仕事を手伝い、卒業後は公務の手伝いもした。


(これ以上、何をすればよかったのかしら? 何が気に入らなかったのかしら?)


 リネットは有能だ。学生時代の成績も学年トップの座を誰にも譲ったことはない。頭の良さには自信があるのにケンドリックの思惑が全く理解できないことが、彼女を戸惑わせた。


(トラブルを避けるため、成績は男女別になっておりましたし。私が学年トップの成績を収めていたと言っても、ケンドリックさまの面子に関わるような問題はなかったはずですわ)


 痩せてはいるが体力もあり、王妃教育を受けながらも学園を休むことは殆どなかった。手伝いを怠るようなこともなく、恥をかかせるようなこともしなかったというのに何が気に入らなかったというのだろうか。


(そもそも、私たちの婚姻に愛情など必要ありませんわ。王妃にふさわしい家柄で王太子と年頃の合う娘が私しかいなかった、と、いうだけの話です。私に落ち度などないはず、ですわ……)


 歩みを進めながらリネットは、人生を変えてしまった昨日の夜会を思い返していた。



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