表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート8月〜3回目

花びん係

作者: たかさば

 あや子は、毎日がゆううつでたまりません。

 なぜなら、花びん係になってしまったからです。


 花びん係というのは、先生のつくえの上にある花びんの水を替える係の事です。

 花びん係は、一番人気のない係でした。あや子は掲示板係がよかったのに、じゃんけんで負けてしまったのです。


 あや子は、朝の会のはじまる前に、花びんを手洗い場に持って行って水の入れ替えをしなくてはいけません。火曜から金曜まで毎日です。それがいやでたまらないのです。


 4年2組では、月曜日に担任のみやぎ先生が花束を持ってきます。

 先生が活けた花は、一週間ずっと、教卓の上に飾られることになっています。


 1組は、担任のさとう先生が花粉アレルギーなので、花びんがありません。

 3組は、おおしま君が新学期そうそう花びんを割ってしまったので、花びん係はいません。

 4組は、かごに入った造花のパキラが飾ってあるだけなので、花びん係はいません。


 どうして、私のクラスだけ…。あや子は、毎日とてもいやな気分になるのです。

 花びんは重いし、前日に入れ替えた水はくさいし、友達と話す時間が無くなるし、何一ついい事がありません。


 六月、学校で校内写生大会が開かれることになりました。

 あいにくの雨だったので、校舎の中、教室、体育館、屋内で絵を描くことがきまりました。


 あや子は、花びん係の仕事をしていて、一緒に絵を描く約束をすることができませんでした。そのせいで、なかよしのあゆみちゃんは、あや子を置いて、まきちゃんと一緒に武道場に行ってしまいました。


 クラスメイト達がいろんな場所に出かけて行きましたが、あや子は教室から出る気になれませんでした。どこに行ったとしても、いい絵が描けるとは思えなかったからです。


 あや子は、にくたらしい花びんを描くことにしました。


 こんなものが無ければ、良かったのに。

 こんなものがあるせいで、一人ぼっち。

 こんなもの、だいきらい。


 花びんと花をにらみつけながら、えんぴつで線を描きました。

 花びんと花をにらみつけながら、絵の具をベタベタと塗りました。

 花びんと花をにらみつけながら、フェルトペンでぐりぐりとりんかくをなぞりました。


 校内写生大会で、あや子は金賞をもらいました。


 毎日花びんの水を替えていたので、手触りや形を覚えていました。その質感を、しっかりと表現することができていたのです。

 毎日いろんな花を花瓶にさし直していたので、葉っぱや花びらの数、色、形などを覚えていました。こまかく観察していた特徴を、しっかりと描きこむことができていたのです。


 あや子は、今日も花びん係の仕事をがんばっています。


 相変わらず、花びんは重いし、水はくさいし、友達とおしゃべりする時間もありません。


 でも、二学期も花びん係をやってもいいかなと思っているのです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 心が温かくなる作品でした。 好きではなかった花びん係をちょっとしたきっかけで好きになる。 子供の頃にこうした体験をすることは、大人になっても生かされていくのでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ