第五十話:ジュディの動揺
「それで、オケウエー様がフェクモに住んでらした頃、どんなことをやっていたのですか?…確か、あそこは魔術が使えないはずだったのですね?」
戻ってきて、ダイニングテーブルに腰かけているみんなと夜食を取る俺とイーズは自分達の分のローストビーフを頬張りながら上品にスパゲッティを口に運んでいるリーリスに聞かれると、
「色々やってたよー?まあ、俺は『オールグリン王国』の民こそ籍をおいているが、町に住んでなくてずっとおじちゃんと森の中で暮らしてきたからあまり人付き合いがなかったなぁ……だから、やることといえば、【シンドレム森林地帯】に立てた家で普通に暮らしてて、普通に、…食料になれそうな動物を一杯狩っていたってだけだ。後、暇の時はおじちゃんが集めている本と書物を読むぐらいかな」
「ナるほどな。キミのイーズベリアくんがアタクシの頭の中に意識体で潜っていた時、確かに『オールグリン王国』にも聖魔力を通すことなくても『油』という原動力の資源で起動できる【地面を這う車】がそれなりに一定数で町を走っていることを見ていたんデスが、森の中で住む選択をしたキミらの方は割と原始的な生活をしていたようで、戦いの最中でアタクシがキミに抱いた野性的な印象があると思うのはそこが原因かー。がちゃがちゃー!がちゃー!」
クリス先輩の大好物なのか、チーズナチョスを愉快に噛み砕きながらそう言ったので、俺は、
「野生的と言えば確かにそうだが、生憎と『南蛮人』のはずの俺が先輩から蹴られた時、『黒光りするお腹がアタクシの白い足に清められながら汚い黒色肌を白く染まっていきつつありがたく味わえ』って言われていても、最終的に俺の肌が白くなってないんだけど、もしかしてあの時のクリス先輩の足の『白く浄化する能力』ってたまたま不発に終わっちゃっただけかー?」
「ぷー!って、クリステイーナって本気でそんなことを真顔で言ってたの―?」
「あ~はは!男嫌いだった時の姉者らしいといえばそうなのですね~!」
「うっす!まるで何かのブラックジョークみたいで面白いっすー!」
「ふふふ~。足で蹴られて肌の色が蹴った方の肌寄りに変わるなら、多分うちのこの雪のような肌がもしもそこの【漆黒の魔王】君に蹴られた暁には自分の肌も褐色になっちゃいそうなのよね、うふふ…」
「意外と幼稚なんですわね、クリステイーナセンパイ。多分、オケウエーサンを煽るために言った言葉とはいえ、もっと現実的な挑発の内容にして下さいな―」
『イエース。……イーズも、ヒルドレ姉ちゃんの意見に……賛成……」
「あ~ははははは……クリステイーナ先輩って変なこともいう人なんですね……」
口々に皆がクリス先輩をいじりながら試合中に口走った先輩の発言について意見を述べ合うと、
「モ、もういいデスぞよー!ソんなの!過ぎたことデスから、今更アタクシが弁明したところで、失言に関してだけは、なかったことには出来ないから、ヤれることと言えばただオケウエーくんに謝罪するだけ。……では、オケウエーくん!」
「はいー?」
改まって居住まいを正して俺の方を向いてきた先輩なので彼女の方を見返すと、
「ス、……済まないな、あの時……。べ、別に、キミの肌色に対してそんなに嫌悪感を感じたという訳でもなく、耳が痛いながらもさっきそこのヒルドレッドくんが言ったようにただの挑発のつもりで言ってみただけデシタから、そんなに真に受けてチョコレート肌を持つこと自体について自己卑下する必要はないと思うんデスぞー?」
なんとなく優しくフォーロしようとするクリス先輩がいるので、俺も、
「あ、ありがとうな、先輩…。そんな励みの言葉をかけてくれて」
戦っていた時、あんなにぴりぴりしていて物騒な言葉ばかり並べ立てていたクリスだったが、今はすっかり丸くなって俺の自信と自尊心に関して心配をしてくれることが確認できるなんて、……嬉し過ぎていまでも先輩の手の甲にキスしたくなる程に尊く感じてしまう。
ん?
「……」
なんか横を向いてみれば、ラムチョップの半分だけ食べてそれ以上は食べきれないといったように俯いているジュディが何かを考え込んでいるのか、さっき会話に参加したことも控えめだったのに加えて、今はさらに大人しくなりすぎていて、沈黙までし出していて何も言えずにほんのりと頬を赤くしている様子なのだが、ああー!
も、もしかしなくても、『さっきのキッチン』で起こったことをまだ引きずったままに頭から離れない程の刺激的な光景だったのかー?
そう、俺がこのダイニングルームへ来る前に、まだ拳骨をイーズに見舞いしてやったばかりの時に、
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…………………………
『しくしく……イーズはただ、オケ兄ちゃんのためだと思って、……提案してあげただけなのに、……決めるのはオケ兄ちゃんであって、……なにも殴ることないよ……」
ん?
今回はまだそういう拗ねた態度を引っ張って憮然としたままのイーズがそこの床でちょこんと女子座りだけして起き上がる気もなさそうで、夜色と赤色の混じった素敵な制服を着ながらイーズの可愛いくて子供っぽい顔を見てみると、目元が潤みそうに、今でも泣き出そうとしているのを見たので、それにつられてこっちまで悲しくなった俺が慌てて、
「ああ~もう!分かったよ、イーズ!俺が悪かったー!俺が悪かったよー!ただ丁寧に、親切に提言してくれただけで、別に俺をすぐにリーリスとキスしろだなんて押し付けようとした訳じゃなかったのに、大人気もなく(いや、俺は15歳でおとなじゃないんだが)イーズに怒って頭を殴ってしまったことはごめんー!」
今まで、悲しみで涙一滴も零すことなかったイーズなのに、俺の所為で悲しませたことになるだけは絶対に嫌だ―!
イーズは俺の仲間であり、大事な相棒なのだ!
だから、心を締め付けられた俺はすぐに彼女のことを立ち上がらせるように両手を彼女のいる斜め下へと伸ばすと、
『しくしく……』
ぐい!
よし!
イーズの両肩に両手をおいて、なにも抵抗する反応がないので、いっきに立ち上がらせて抱きしめるんだ!
「イーズ!本当にごめんね?もう衝動だけで怒らないから、殴ったりもしないから、だから、機嫌を直してくれよなー?ねー!?」
やっと、イーズのことを立ち上がらせることができた、その瞬間で、
『ちゅーっぷ。ちゅっ~』
「んむふ~!?むふ~んっ?」
どういうことか、いきなりイーズに口づけをされたのだったー!
『んふ~む!ちゅっぱ!』
「んむふっ~~!?んんふむー?」
接吻が深くなっているところに、そこで『彼女』がキッチンに入ってきてしまったーー!!
「ああー!……お、オケウエーさん…、イーズベリアさん………」
「……」
『……』
固まった俺とイーズが振り向くと、そこにはジュディの姿があったー!
キッチンの入り口で突っ立っていて、片手を口元へと持っていくほどに驚いた顔をしている様子だ。
そりゃー無理もない話だ。
いきなり知り合った友人である一人の男の子がこうも貪欲そうに自分の人型の姿を顕現できる【契約精霊】と熱烈そうなキスを交わしているのを目撃したら、普通の女の子の感性を持っているジュディならびっくりするだろうと、刺激的な光景に映るだろうということ自体は予測済み。
だからー!
「ジュ―、ジュディー!こ、これは違うんだ――!いー、イーズの奴が、悪戯心で、単に俺をからかうために自ら口づけをしに俺を強引に引き寄せて、そして実際にこうやって唇を奪ってくるから、お、おれは別に望んで、強制しながら喜んでイーズとこんなー」
タタタタ―――――!
『あ。……ジュディ姉ちゃん、……行っちゃったよ?……』
「い、行っちゃったね」
もう、どうなってるのこれー!?
ジュディが誤解したまま戻っていったので、その後の俺達も慌てて彼女に続いて、ダイニングルームへと戻ってきたんだが、状況はこうして進展もなく、一人っきりでジュディと説明の会話をする機会もなく、今はそのことを思い出している最中か赤面しているジュディが見えたのだ。
そういえば、ジュディって、確かに【チーム・純粋なる淑女】のクリス先輩と戦った時に、先輩に蹴り飛ばされてジュディへと衝突した後、押し倒してしまってキスしそうになったのをジュディが猛烈な拒絶反応を見せて突き飛ばしてきたんだっけー?
前に、ジュディが昔に王国に暴れていた魔神と何かあったのかって言わんばかりな嫌悪感丸出しの態度をみせて、ずっとそのことについて打ち明けようとしてくれないから、俺としても力になりきっていない感じなんだけど、いずれ話すだろうと思い放置しておいたので、今はそれを引きずったままのジュディが俺達のキス現場を目撃して複雑な気持ちになってるって訳!
「ところで、オケウエー様。貴公の大聖霊イーズベリアはもう見させて頂きましたから、今度はリリも姉者の契約精霊も見てくれませんかー?どっちも面白くて、素敵な【真体姿(トゥ―ル・フォーム)】を持っているので、きっと目を奪われる程にオケウエー様と皆様のご一興になると思うなのですよー?」
「チょっと、リリ!イきなりなんてこと言うんデスかー?確かに、【ネトロファイッス=セデロ】は気性のおとなしい精霊で、コこで顕現させてやっても構わないが、キミの精霊ときたらそうでもないデショウー?ドっちの方の『人格』が目覚めて登場してくるか、分からないんデスぞよー!?キミの【ベリヘリアヤール】はなー!」
「大丈夫、大丈夫なのですよ~~姉者ー!『荒れるんだったら』、ちゃんとリリが責任を持って、被害を最小限までに抑えてみせますからー!なのですよ~!」
「クっ!キミはいつも自分の契約精霊を自慢したがる時、ソうやって周りの事が見えなくなるから、暴走しそうなところをいつも見張ってきているるアタクシが面倒を見てやらないといけなくなるんデスぞー!」
「ごめんなさいね、姉者!迷惑をかけてしまって。でも、どうしてもオケウエー様達に自分の【ベリヘリアヤール】を一度は紹介して上げたいので、姉者はいつも通りに見張って下さいねー!有事の際に備えるように、そして人様の家の中にいるという点を踏まえて気を抜かないようにー?」
「ウむ!デは、オケウエーくん!戦った時の【武器化した状態】じゃなくて、皆に紹介してやるために我々イルレッドノイズ姉妹は自分達の【真体姿】の契約精霊を今すぐ召喚するんだが、構わないのデスなー?」
確認を取るように俺の方を見てきたクリス先輩なので、
「ええ、構わないよー。前に、他のメンバーから既に先輩の【ネトロファイッス=セデロ】がどのような姿をしていたか、過去のニュース報道と資料を通して知るようになったメンバーたちが教えてくれたんだけど、俺自身も大半のメンバーもまだ実際に自分の目で見たことがないので、早く先輩達の精霊がどんな【真体姿】をしているのかワクワクする感じもあったから、召喚してもいいぞ?」
「助かるぞ!デは、家の主の許可も出たということで、行こうな、リリー!」
「はい、姉者ー!」
意気込んだ姉妹二人が舞い上がった気持ちのまま、それぞれが片手を天へと伸ばすのだった!
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