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七話:生徒会長、エルヴィ―ナ・フォン・ミラクリーズと出会う

「ーー!?」

タ――――ッ!


殺気を察した俺は寸前のところで後ろへと飛び退った。


「ちぇーっ!」

彼女の放ってきた右ストレートを俺が回避したからか、舌打ちしたその少女。


俺の押し倒しから解放した金髪少女が自身の身体を起こすと、


「よくも私の身体をその汚い手で乱暴に触ってきたわね!人が親切にもあんたに私の撃ってしまった【氷弾アイス・ブレット】が当たらないように爆発させてやったのに一体なんの神経して私の大事な~!大事なところを触って来てんのよー!」


怒り心頭の彼女は俺に厳しい視線を向けながら、咄嗟に手を上へと掲げ、こう叫んだ、


「出でよー!我が愛熊ベネフォーロッスよー!」


「があおおーーー!」


金髪少女の召喚により、彼女の前には子熊な形をしている……動物?


少なくとも、禍々しい【反人力】のオーラをまったく感じない限り、絶対に【世界獣】の類ではないと断言できるが…


「絶対に許さないわー!あんたのような乙女の柔肌を何とも思わない男がこの学院にいていいはずがないわよ!覚悟なさいこの痴れ者!地獄の底へ落ちるがいいわ――!!」


シュウウーーーーーーー!!!


「グガアオオオオオオーーーーー!!」


おいおいおい!!本気かよ、あの女!


彼女の飼いの動物?である子熊の身体を中心に、空気が凍てつくような気流が発生し、まるで小規模な氷雲の竜巻が出来上がり、子熊の身体を完全に隠すようにしている。後ろにいる金髪少女もその白くて凍えそうな寒い竜巻に遮られこちらからはもう見えなくなったようになっている。


「やっぱ精霊か、あの子熊はーー!?」

だったら、対抗する手段がないな!あれと戦うのに、【それ】を使うしかないというのに、生憎とーー!


「く―ッ!やっぱり【あれ】を堂々と人目のありそうなここで使うべきじゃない!」

ピンチに落ちる俺に希望がまったくないと言わんばかりに、


「グラオオオーーーーーー!!」


一直進にこちらへと肉薄してきた竜巻に身を包み込まれている子熊がいる。


「勝てないーー!そればかりか殺されるかもしれない!」

どうする俺ーー!?


ズシューーーーーーーズシャーーーー!!!


「ーー!?」


ゴゴゴゴゴゴ…………


い、一体なにが起こったんだーー!?さっきの轟雷はーー!?


よく前方を見てみると、俺と竜巻を解除した子熊との間に割って入ったように真っ直ぐ一直線の上空から降ってきた雷で出来た穴がある。


パチパチパチ………


周囲には暗雲が立ち込めてきて、雷鳴が威光を惜しげのなく振るってきたかのようにその存在をここら一帯を空から睥睨してきた。


パチパチパチ……


「はいはい~そこまでにして下さいね、二人ともお!」


痺れるような空気と共に、優雅にこの訓練場へと入ってきた人物に目を向ける俺と金髪少女。


「喧嘩は程々にしないとぉ~さすがのボクも黙ってはいられないからねぇ?」

飄々といった体で悠然と歩み出てきたのは茶髪セミロングの子で、髪を横に一つのドリル状に結い上げた豊満な胸を誇る美少女だ。


「エ、エルヴィ―ナ会長……」


「ふふ...どうしたの、オードリーちゃん?もしかしてボクの雷に打たれそうなところを想像してしまい身震いしたあー?だったら、嬉しいんだねぇ~?未熟なボクでも不良ちゃんと不良くんへの抑止力になるのって」


やっぱり掴みどころが一切ないような屈託ない笑顔で歩んできたその少女。なんか彼女を見てると、こちらまで得も言われぬような不思議な感覚を覚えてしまい、戦慄を背筋に走っていくのを感じた。


「初めまして、オケウェーくん!ボクはエルヴィ―ナと言う者でね。ふふふ…でもフルネームも言わないと駄目かなぁ?オッケー、やり直しッ!ボクはこの学院の生徒会長エルヴィ―ナ・フォン・ミラクリーズだよ。ミラクリーズ家の長女にして次期当主の者でもある...らしいけどねぇ~?」


飄々としながらも貴族家の令嬢としての自覚がそうさせたのか、俺に向かって礼儀だしく恭しい作法で会釈しながら両手をミニースカートの裾を両側から摘まんでお辞儀している様子だ。


「は、初めまして、ミラクリーズさんー」


「エルヴィ―ナでいいよ、オケウェーくん」


「で、..でも...」


「エ・ル・ヴィ・ナ・でぇ!いいって言ってるんだよ~う?ふふ...」


「!?」


もう近くまで接近してきたミラクリーズ会長に 右腕を掴まれ、彼女のそれに絡まれてきた。


おおおう~~!か、彼女の胸が~!それも巨乳?の類のものがこうも直接に俺の身体へ~~~?


心が乱されバクバクいってる俺だったけど、直ぐに悪戯っぽい笑みをしている会長にウインクされ、やっと解放された。


「わ、分かったよ!エルヴィ―ナ会長でいいんだよね?だから、もうさっきみたいな心臓に悪い冗談はよして下さいよー!初対面なのになんてことしてくれたんだーー無垢の少年の純情を帰せよー!」


俺も彼女のフレンドリーで掴みどころのなさで触発されたのか、自分でも驚くほどに堂々と慣れないような冗談で言い返せたものだって苦笑した。


「はは~ごめんめんご~。さて。お遊びもここまでにして、ここから退散することを強く勧めて上げるよ二人とも!新学期早々で揉め事の件で休学処分を喰らいたくなければな...」


「そんなこと出来るわけないじゃないーー!会長!あの男は私に無礼を働いたわよーー!?それもこっちのプライドに関わるようなことをしてきただけじゃなくて私の貴族として尊厳をも踏みにじるような不躾極まりない破廉恥な接触までしてきたのよーー!?そうそう許せるわけないじゃない!」


なおも癇癪を起こして一歩も自分の主張を曲げない彼女へ、慌てて俺もさっきから攻撃を避けるばかりで出来なかったことを素早くしてみることに動いた、


「さっきは本当にごめんなさい、えっと…お、オードリーさん!俺が悪かったからもう許してくれないかな?事故であんたの胸を触ってしまったことは詫びよう!だが、俺がはじき返した氷弾で当たりそうなあんたを助けるために仕方なくやったことなんだ!どうか許してくれー」


「許すわけないじゃない!謝罪だけで許してもらえるなら警察は要らないわよ!だったら、然るべき罰を受けてもらうのが筋ではないかしら?もちろん、あんたの命でつぃー!」


「冗談じゃないぞ、 オードリーさん!俺には色々と大事な責任があって絶対に此処、【聖エレオノール精霊術学院】で精霊術の頂点まで極め、卒業する使命がある!それをあんたの不当で過剰な賠償請求で邪魔されるわけにはいかないんだ!だから、どうか俺の言い分も認め、謝罪を―」


「そんなのって言われても知らないわよー!あんたの事情がどうであろうと私がさっき感じたあんたの手による屈辱感は未だに拭えないー!だったら、私の名誉を返上してもらうためにはあんたに死んでもらうのが相応しき罪滅ぼしだと思うけど?」


「んな勝手な要求のむ者どこにるんだーこの傍若無人な少女ー!」


「あんただって恥知らずで横暴な乱暴少年よーー!恥を知りなさいよーー!この変質者ー!」


「何言われても屈しないぜ、横柄な金髪少女ちゃん!」


「この~~っ!人でなしの【南黒少年】~~!絶対にこの手で殺してやるからそこでなおれー」


俺達の口論だけで飽き足らず、もう耐えられないとばかりに自身の使役しているであろう子熊のことも差し置いて、実力行使で発現した通りに俺をその手で殺そうとするべく、一直線でこちらに向かって襲い掛かってきたオードリーだったが、


すーう

「なにー!?」


そう。俺にその手が届く前に、金髪少女ことオードリーの背後には既に一本の腕で力づくで動きを押さえつけている別の女子生徒の姿がどこからともなく出現した。


い、いつの間にーー!?まったく何も見えなかったぞ!


「会長のおしゃったことは絶対です、この学院には。もし会長の仰った通りに矛を収めて退散してもらわないと、相応な対応をこちらが行使することになるんですが、それでも構わないというんですか?オードリー・フォン・ドレンフィールドさん?」


「ちーッ!わ、分かったわよ!マーリエラ!手はなしてー!い、痛いわよ~!」


「物分かりのいい子で助かりますね、 ドレンフィールドさん。では、そこの貴方も『見物』ばかりせずにご退場願おう。訓練場の清浄時間が間のなく開始されます」


「わ、わかった。じゃ、先に失礼させてもらうよー」

素直にその銀髪ショートヘアなドリル型な女子生徒の提言したことに従うように、俺は出口である門の方へと引き換えしていく。


「ふ~ん!これで終わりだなんて思わないことね、南黒少年よー!絶対に目に物を見せてやるから覚悟しておきなさいーー!」


まだ闘志が衰えてない金髪少女のオードリーも真っ先にあっちの観客席のある方向へとこの闘技場を出ようとした。


「初日で散々な体験だったね、オケウェーくん」


「まあな。でも本当に助かったよ、会長さん。あんたの介入がなければ今頃あの氷の竜巻で氷漬けにされてたかも」


気さくに門を潜り終えた俺へ追いかける形で親切に話しかけてきたエルヴィ―ナ会長っていう茶髪の子。


心なしか、自分自身が出向いてくるまでに俺とオードリーを止めなければならなかった面倒ごとがあったばかりなのに、なんか嬉しそうな顔してるのなんで何だろう?


「それでもまだ諦めなさそうだったね、あの子。 マーリエラに止められちゃったけど、またちょっかいかけにくるかもよ?」


「まあ、その時はその時で考えるよ。どう対処すればいいか、いずれ分かることだと思うから」


「会長が場を収めに来られたから良かったものの、一応あの子、ドレンフィールドさんは貴方と同じく一年生で、B組の生徒みたいですよ?次にまた何か仕掛けられるかもしれないはずです」


「そうだね。 マーリエラちゃんのいう通りだ。でもあまり心配しなくてもいいと思うんだよ?彼女は一応、ドレンフィールドの末っ子で家の一員である自覚をいつも持っているはず。よほどのことが起こらない以上、彼女が法律に触れるような大事件を起こしたりはしないでしょうし」


「そう言い切れる根拠があるのか?」

会長の自信満々な予想に対してそう聞いた俺へ、


「あるよ。実は、さっきは喧噪の中でボクとまともに会話をかわそうとしないけど、去年、オードリーちゃんがまだ学院の一生徒になってない時期に王城の舞踏会でダンスをしていたオードリーちゃんと会話を交わしたことがあるよ。あの頃、確かに言葉遣いや仕草のひとつ一つ、どれをとっても淑女たらしめるものばかりだったんだよぉ?」


「なる程な。つまり、肩書と体裁だけなら大事にしてるって子だな」


「ええ、きっとそうだ。だから、またもきみに絡んでいくことになったら、絶対に無法な暴力によるものではなく、正式な【決闘】を挑みにくるはずだよぉ」


決闘かぁーー。本で読んだことがあるんだけど、勝負事を決める時に二人の参加者が戦うっていうあれだよな?あははは……またも面倒くさい物に巻き込まれたもんだ!


「まあ、そうなったら、受けて立つしかないってことさ。……それより、エルヴィ―ナ会長。俺達がやりあうになる寸前のところで止めにやってきてくれたんだけど、その際に雷みたなもんを上空の暗雲から下方に向かって打ち出したんだよな?」


「そうだったよ。それでぇ?」


「恐らく【精霊術】の類……だったんだよな?なにせ、【四元素魔術】には【火】、【水】、【風】、や【地】しか存在しないものだ」


「常識をいっても褒めてもらえないと思うけど?確かに【精霊術】を使っただけだよ?もしかして気になる?ボクがどういう精霊を使役してあれを放てるようになったのかって~?ふふ...」


「まあ、最後まで言わせてくれ。つまり...あんたの放ったあれが【精霊術】なら、なんでそれを可能にしたあんたの精霊の姿がどこに見えないんだー?少なくとも、あの金髪の少女...オードリーは、子熊の形をしている精霊をみんなの目に見えるような形で出してきたんだ。それをあんたの精霊だけが何にも見えないような姿をしていたから、見ることが出来なかった種類のものなのか?」


俺の問いに対して会長は、


「逆だよ、南黒のオケウェーくんッ~!『見えない姿』をしているのではなく『見せないようにしていた』だけだよ~んッ!」


「…そうか。まあ、予想の範囲内ではあるけど...。あ、あの...もしいいと言うなら、見せてくれてもいいかな?これからの俺が精霊を手に入れるまでの参考として知っておきたいってのもあるし」


「いいよ?じゃ、降臨せよ、【雷豹ゲンナドーリエル】よー!我が斧となりて吠えておきなさいー!」


「グロアアー――!!」

会長の呼び声に応じてくれたように現れてきた大型の豹だ。パチパチと眩い雷のような白い光を点滅しているそいつは俺を見るなり、咆哮を轟かせてきた。


「 雷豹ゲンナドーリエルだよ。この子の特殊な能力は【神隠し】だねぇ~、ふふ……自身の姿を隠せるだけじゃなくて、主であるボクの指定した『人物』と『物』を他の人の目に映れないように反射されそうな光そのものを吸収して見えないようにした【精霊魔術】だよ」


「やっぱりね。つまり、さっきオードリーを背後から押さえ付けていたそこのマーリエラって子の姿も見えなかったのがそれが理由のようだね。彼女はオードリーの走っていたところの位置まで見えないままで接近できたのって。絶対にあんたがマーリエラに【神隠し】を付与したことに違いない!」


「ふふ...そう導き出せるのは子供でも出来たことだよ~、オケウェーくんッ!しかし...きみも並々ならぬ人ではないようだねぇ?」


飄々とした態度を保ちながらも、次はどこか値踏みしてくるような声色で真剣な表情になってそう言ってきた。心なしか、目を細める程にシリアスな顔になってる最中なのになんでか不敵な笑みを小さく浮かべている様子だ。まるで何かを疑われているような気がして少しだけヒヤッとする。


「会長、それについてはワタクシから述べて頂けますか?自分は書記ですし」


「ぇえ~? またの~?いつもそうやって美味しいところだけ持ってくんだからぁ~!マーリエラちゃんのいけずぅ!」

拗ねる会長を無視したように、マーリエラが俺に向き直ってこう続いた、


「オケウェー・ガランクレッド。昨日ここの王都についてきたばかりの南大陸からの入学生希望者で、昨日になってからワタクシと会長が初めて貴方についての情報を聞いてきたばかりでしたが、どうやら貴方には謎ばかりに包まれている人で、全貌が未だに掴めそうがないようだ」


ぎくッ!


「貴方がこの学院に入学してくるかもしれないと学院長から聞かされた時点ではワタクシも会長も驚愕せざるを得ませんでした。何故なら、何故いきなり魔術が一切使えないはずの南大陸フェクモからこちらへ【精霊術】を学びにくる【南蛮人】がいますかって話ですっ!」


「そうだよね~?不自然にも程があるんだよね~?」


会長も目を閉じてうんうんと書記?であるマーリエラの言葉に賛成する。確か、昨日俺がここの王都の宿屋へ着いた頃のことで、仮面のやつゼナテスが俺の入学希望のことを真っ先に学院長へと伝えるためにこの学院に訪れたって聞いた。


だから、今日という日では俺が書類を届けに行くために、そして初めて学院長と面接をするようになったことは既に昨日の時点で学院長の把握済みのことだった。なので、学院長が既に寮生であるこの先輩達であろう(多分、そうに違いない)二人に俺の事について知る限りのことを話しても不思議じゃない。問題なのは、次にマーリエラの言おうとしていることだ。


「不自然だと思ってるならそれはそっちの勝手だろうが、俺は今話せないような個人的な事情で絶対に精霊と契約し【精霊術】を習得する必要があるんだ。だからここへそれを学ぶにやってきたんだが、まずは今日の夕方で行われる予定の入学試験だけ俺に受けさせてもらえる?受かってみせるから」


「いいえ、きみの入学時期とか人物像が怪しいとかだけならここまで問題視したりはしないよおー?」


「ーえ?」

はっとなった俺に、マーリエラがこう続ける、


「貴方の人柄が最大な問題ではなくやってのけた非常識なことにあるんです!何故なら、【歴史学】と【神知学】で教わった通りに、確かに南大陸フェクモは天頂神のお力により、【魔術】の使用が一切できないような大地になっているようです。ですが、【魔術】が使えないだけで別に生き物の体内に普遍的に宿るはずの【聖魔力】という生命力もしくは【力の源】までを天頂神様が持たせないようなことはお致しにならないはずです!」


「そうだよねぇ~。この世界じゃ聖魔力なしでは生けていけないしっ~。それに力の源でもあるし世界の理そのものだよなぁ」

会長もそう付け加えた後、


「つまり、貴方の体内にも聖魔力が宿るのは不思議なことじゃないし、辺にも思ったりはしません。問題なのは、貴方は今まで15年も生きてきて、その過程で一切の魔術を使わなかったような人生を過ごしてきたんですよね?なのに、さっき見せてもらった感じですと、何故か【聖魔力】を初めて【魔術】として使用できたばかりの貴方は、【聖魔力】をそのまま手に纏わせるような高度な【物理法則干渉魔術】までいきなり使えたのかって話ですっ!」


「ーー!?さ、さっきの一部始終を全部見ていたのかよー!?俺がやってきて驚いただろうからいきなりオードリーが撃ってきたとこから!?」


「ふふ..そういうことになるのかなぁ?まあ、なにせ学院の創設日以来はじめての男子編入生だけじゃなくてそれも珍しき【南黒人】の新入生とあっては尚更に監視させてもらわないといけないんだねえ?」


なんてことだ!


って、しまったーーー!自分が【死霊魔術使い】であるという事実だけを隠したくて、そしてさっきのオードリーっていう子からの攻撃を凌ぐのに必死だったから、全くもって手加減したり、自重したりするべきだってことに関して本当に忘れてしまったみたいだ!


「じゃ~ぁ、オケウェーくんっ?答えてもらえるよねぇ?なんで北大陸に来たばかりなのに【物理法則干渉魔術】まで使えるようになった程に【聖魔力】を長年【魔術】として変換できた経験があるような芸当みせられてぇー?それに、よく思い出してみるとぉ、」


これ、もしかして絶体絶命のピンチなのか、俺?


予感できなかった展開になってるからどう対処していいものかと考えを巡らせてみると、やっぱりこの危機的状況をやり過ごすためには一つの方法しか思いつかない!


「て、」


「え?」


「天才だからだー!俺のことが!きっとそうに違いないはずさあー!はっ!はっ!はーっ!」

もう自分でも信じられないように恥ずかしいこと言ってる自覚がある。でも、このままこんな調子で押し切ってとぼけてみせるしかない!


「考えてもみろよ!いきなり初の男子生徒を学院側が受け入れることになるんだぞ?神の思し召しでその男子がたまたま南大陸からやってきて飛びぬけて魔術使いとしての才能が抜きん出ているといったって別にいいじゃなかー!天才で悪かったな!」


「「………」」


俺の開き直りに対して、自分のうちにある本心を見透かそうかというような神妙な表情となった二人が、


「そう言われれば、返す言葉もないと……言えるけど、それをひとつとっても最後もあれだけはどう考えてもデタラメすぎでしょー!」


「って、今度一体何なんだよー?会長さん!?」

またも食い下がる会長に聞くと、


「だってだってぇ、最後はあの【近距離転移術エルノイーナゼフット】の【物理法則干渉魔術】までいきなり使えただなんて、1歳未満の赤子がいきなり学術上位級の一流な専門的講師になったようなものなのだよーお?今年3年生になったばかりのボクが訓練してやっと使えたのに、魔術を初めて使った君がそれを発動できたとかいくら何でも規格外過ぎィー!」


「あははあはは~~そうかな~?」

全くもってその通りだ。俺も無我夢中でオードリーに向かっていった氷弾を彼女に当たらせないために必死で近距離まで転移して救うために突き飛ばしたんだけど、傍がから見れば確かにめっちゃくちゃな神業だなー!こうなれば、話題転換だが有力だ!


「でも、俺がそうせざるを得ないほどに思わぬ事態が起こったからだよ!事件の最初に起こったことは金髪っ子のオードリーが俺に氷弾を撃ってきてんだけど、弾の爆発で飛び散った氷片を迎撃した後にまたも弾が飛来してくることなかったはずだ!彼女が撃つのを止めてくれたらしいから」


「でもいきなり2番手が襲ってきたんだったなぁ?」


「やっぱり見てたんだね!そうだ、いきなりすぎて咄嗟のことではじき返しちまったんだけど、本来は俺のありったけの手刀で弾が消滅させられても不思議じゃなかったはず!」

自分で言いながらなんか自慢したみたいで痛いんだが、’


「だがなんでか余裕を持ったようではじき返されたんだね、俺の意志に反して!」


「つまり、『何者かがその第二攻撃』をきみに仕掛けていき、オードリーのいる方向へはじき返されるように君の全力の手刀に耐えうるような実力者から撃たれたものであると、そういうつもりなんだい?」


「ええ、そうだ!」


よし!一応話題転換ができたけど、これもさっきから気になりすぎた疑問だ。一体なんの目的があって、そんなことをしたのか分からないがこれで、会長達さえ味方に出来れば、オードリーに対して俺がさっき押し倒してしまわざるを得ない原因を作ったあの張本人を捕まえられるかもしれない。


「……どうしてか問題点を挿げ替えたような気がしないでもありませんけど、確かに生徒同士の揉め事を誘発するようなことをした輩のことも野放しにする事も出来ません。そうですよね、会長?」


「まあ、そう考えればそうなるんだよねぇ……ふむ。んじゃ、そういう事ならそちらのことを先に解決しないと、だね!...良かったねぇ、オケウェーくん!きみの勝ちだよ、今回だけは」


「ほえー?」

あっさりと俺への追及を諦めてようなことを言った会長を俺が信じられないといったふうな顔と間抜け声を漏らすと、


「んじゃ、きみは確かに謎の多い南黒人の少年ではあるが今日のところだけは見逃してやるから有難く思ってねぇ~。それじゃ、マーリちゃんー」


「はい」


「戻ろう」


「はっ!」


それだけで短く言葉を交わした二人は俺を置いて先に急ぐように早足で立ち去っていった。


「執拗に俺の事について追窮してきたばかりだってのに俺が【ヤツ】の介入の事を指摘した途端あっさりと引き下がるなんて………」


益々謎が深まるばかりなんだが、この訓練場の門近くで長居しても仕方がないので早く寮へ自分の部屋を確認しに行ってそのまま休んでいくんだな。


「午後8:00時の夜で行われる【入学試験】も受けに行かなくちゃいけないし、さっさと俺の新天地へ赴いていくとしようー!」

タタタタ…


そう言うや否や、俺は寮の方向があるところを地図で確認しながら歩いていくのだった。


ああ、そうだ。学院長といい、さっきの会長達といい、なんか俺が【入学試験】を絶対にクリアーしていくというような認識で話を進ませたっぽいんだけど、俺がオードリーとの一件で見せてしまった芸当以前に、もしかしたら昨日からの時点で直ぐに俺の異常さを予感して【入学試験】などを俺が容易に受かる前提で俺との会話をしていたのかもね。


まったく、【死霊魔術】使いとしてもそうだけど、初めての【聖魔力】の死霊魔術以外の【普通の魔術】の使用する力量までずば抜けて桁外れ過ぎるとか、俺までもが自分の異常さを指摘され戸惑うぐらいだよー!一体なに者だったんだ、記憶喪失の前の……森でおじちゃんに拾ってもらった前のもっと昔の俺の事が!



……………


………


「やはり想像以上の成長能力だな、あの『南蛮人』の少年...」


「けけかかか!そうだろう、そうだろうー?だから我らの計画通りに、【それ】の復活に備えて今のところはよく彼を利用すべきだと提案したまでのことだ!けかか!」


オケウェーが寮へと向かっていくところに、遠くの上空で二つの人影が浮かび上がっている。下のオケウェーを睥睨するように見下ろしたその人影二人は、


「貴様のそういう楽観的な見解……悪い癖ではあるけれどたまには必要かもな。だが、くれぐれも気をつけるべきだな、道化よ。『あまりに火遊びをし過ぎると、身を焼くことになる』って」


そう隣の者に忠告をしたのは、ローブを羽織りながら赤色のスーツとズボンを一セットで着ている白髪ショートヘアーの30代らしき女性だ。


「けけけ...安心してくれたまえー!彼のことは我に任せてくれるといいさあー。」


上空にいるもう一人の人影、【仮面の男】がそういうと、


「なにせ、【邪なる渇望】を手懐けるのに大事な、大事な【黒羊くろひつじ】なのだからなあーー!けけかかかかかかかーー!!」


オケウェーの姿が遠くへと消えるのを確認すると、不気味なほどに変な笑い声を鳴らしたのだった。


………………


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