第十六話:狼狽するオケウエー男爵
翌日の月曜日、午前6:00の聖神歴895年、1月の25日の学院寮にて:
バンバンバンー!!バンバンバンー!!バーーンーー!!!
「オケウエー君~~、もう起きてるのーー!?大変なお知らせがーーー!!」
んー?誰だー?こんな朝っぱら早くからー?
って、さっきの声ー!?イリーズカ先生のー!?
あまりにも大きなドアをノックする音が続いているばかりなので、昨日ヒルドレッドとのデートを経て心地よい眠りに落ちていた俺が否が応でも微睡みから覚醒させられた!
カチャー!
ドアを開けると、
「オケウエー君!大変だわ~!フェクモの東部地域の海岸にて 、【ゼールドリッチ=ヴォールフガング帝国】の軍隊が船から着陸したわよ~~!!」
「--!?な、なにーーっ!?」
ロングヘアの銀髪を後ろで一つに束ね、ポニーテールを三つ編みにしているイリーズカ先生に告げられた言葉が衝撃的すぎて、声を張り上げてしまったー!」
「ど、どういうことだ、先生―!?」
「詳しくは学院長がすべて話してくれるそうよ!早く―!」
「あー!」
タタタターー!!
「ごめんね!【中距離転移術】を使いたかったんだけど学院敷地内では発動すると校則違反になるから~!」
「構わないから早く走るぞ!」
確かに、【近距離転移術エルノイーナゼフット】 と違って【中距離転移術】の方は距離が2キロメートルから10キロまで術者と術者が指定した人物を行ったことある場所に転移させられるが、先生の言う通りにここでは学則で禁じられてるんだ。
許されるのは戦闘向けの【近距離転移術エルノイーナゼフット】ってだけ!
でも、いくらここから学院長室までには転移できる範囲内にあるとはいえ、【近距離転移術エルノイーナゼフット】だけが【転移したい位置を直背的に『目が見える範囲内の目測が捉えられる位置まで』にしか発動することができないので、自然と残っている選択肢が【中距離転移術】という魔術だけになる。
急いで早朝の学生寮を出ていった俺と先生が二人揃って、他のことを脇に置いてまっすぐに校舎の本棟に入って学院長室がある3階へ昇っていって、入ると、
「学院長ー!イリーズカ先生に言われたんだけど本当かー?フェクモに―」
「大声出して喋るな、南蛮人少年。イリーズカに貴様を連れてくるよう頼んだが、貴様が聞いた通りのことだ。つい数時間前、空がまだ暗かった時にフェクモの東部海岸にゼールヴォール帝国海軍の船から、一大隊ほどの兵が降りて崖の下にある通り道を抜け、大陸内部へと進軍する情報を我が『ミョーセラ』が掴んだのだ!」
それを一気に知らせてくれたイルレッドノイズ学院長の手に、いきなり眩し過ぎながらも光ってるのが一瞬だけですぐに閃光が消えてなくなったそこに、一匹の奇妙な爬虫類っぽい生き物が出現し、学院長の手の甲に足をつけているようだ。
「テロダクティルーー!?でも、本で読んだら確かにその鳥とも蜥蜴とも取れる動物は遥か昔の【神話時代】に絶滅したって本で読んだのだぞー!一体全体なにが―!?」
よくよく見れば、本の挿絵より首が長くて、目も愛玩動物みたいに愛くるしくて、顔がもっと可愛く見えるんだよねー!鱗と身体全体の色は黄金色なので、なんか王様って感じの色してるな。
「無礼を詫びろ、南黒蛮人少年!これは動物ではなくわたしの『契約精霊』、噂に名高いはずの、誕生してから10年も経っていない、古より存在していた【3体の大聖霊】よりも遥かに圧倒的な力を持つとされている、【太陽の大精霊王、ミョーセラ 】なのだぞー!」
「---!?何だとー!?大精霊王だとー!?」
「あら、オケウエー君?まだ教えてなかったっけー?次の【精霊術学】の授業で教えたかったのにね~~。仕方ない~!簡潔に言うとね、最近はすべての精霊と大聖霊の上に立つべくして誕生させられた【大精霊王】なるものが2体も存在するようになるって言われてるわよー?そこの【ミョーセラ様】こそがそのうちの1体。そして、今日から4,5年も前からだったのか、…ある日のを境に、それを学院長が手に入れられたらしいわよね~!」
「な、なるほど……」
道理でとてつもない聖魔力の波動をあの小さな身体から感じ取っているのだ!
ってことは、つまりー!
「そうだ。今のわたしはこのレイクウッド王国だけじゃなくて、この北大陸【ギャラ―ルホールツ】における一番最強の精霊術使いということになるな。だがー!最強とてすべての場面において無敵ではないのだから、わたしの慢心につけ込んで油断させられると思わないことだな!」
ふむ、やっぱりそうかぁ……いくら最強の大精霊王であろうともイリーズカ先生みたいな上級精霊3,4体が発動してる『軍用クラス精霊魔術』から同時に狙われたら、すべての攻撃を捌ききれずに最後は学院長自身が聖魔力量が尽きて敵攻撃に当たって死ぬってことも在り得るってことなんだろうな!
前に精霊術学の授業で学んだことあるんだけど、帝国の方は昔に魔神に国内を荒らされたことが一切なかったので、今のレイクウッド王国よりも60倍以上、遥かに多い『軍用クラス精霊魔術』を使える手練れがいっぱいいるって聞いたので、それらを学院長一人でどうこうすることも出来ないって訳なんだろう。
なので、そんな最強な精霊を持っている学院長でも各国の勢力分布を狂わせられるほどのものじゃないってことなんだろうね!
「って、そういうことはもうどうでもいいー!フェクモに帝国の軍隊が着陸し、内部へと進軍を開始してるってあんたが言ったんだったが、まさかうちの【シンドレム森林地帯】まで進んでいくって訳じゃー」
「ないはずだぞ?『ミョーセラ』が言うにはその帝国軍大隊の目的はただフェクモに、未だ残っているだろう【世界獣】の痕跡に含まれる【反人力】の残滓を調べるために向かっていったってことらしいんだ。だから、貴様のおじさんが住んでいる『オンボロ木製小屋』まで進行する訳がないだろう……それに、【南地不干渉条約】の署名国でもある帝国なので、不用意に現地のフェクモ人との接触を控えるはずだぞ?」
【世界獣】だとー!?でも確かにフェクモには樹界脈が流れてなくて、昔に俺が戦ったあれでも…うん?
そうか、またもあのクレガーキールのヤツが樹界脈をあの時フェクモに伸ばしてきたのかーー!?最近だけじゃなくて、昔のあの日だった頃にでもー!?けど、『残滓』ってことは……誰かが討伐してくれたっていうのかー!?…俺達がこの王都で世界獣の群れと戦うわ、イリナと戦うわで忙しかったところに良くも…
それに、世界史といか…歴史学の授業で習った【南地不干渉条約】っていう署名国である帝国についてだが、
「そ、それは……で、でもー!最終的には『あぁ、やっぱり奥まで進軍するわ』ってなっておじちゃんの家まで攻めていかない保障がどこにもないじゃないかー!やっぱり、おじさんのことが心配だから、一旦フェクモへちょっとだけ帰っていきたいので、一瞬であそこへと転移できる、あの仮面の人の杖―」
「呼んだのかいー?」
ズ―ッ!
「--!?」
どこから現れたのか、いきなり学院長の側に立っていたゼナテスが出現したー!
黒髪の尖ってる髪型で、顔の上半だけを覆っている仮面をつけているのだから、あいつが微笑を浮かべてることぐらい確認できた!
「お前―!今までどこで何してたんだよ――!?俺を『あの訳の分からない杖』でここの大陸まで転送してきたんだろう、一瞬でー!なら、今はじちゃんの安否を確かめたくて俺をあそこまでー」
「いいえ、それには及ばないはずさあー!」
「なんでだよーー!?」
「もう既に君のおじさんの護衛の任務につかせた『優れている部下』を我が配置済みなのさあ!故に、君自身が一時的に帰るまでもないさあー!けけけ……」
「たとえフェクモに【天頂神からの大いなる定め】の影響下で魔術や精霊術がまったく使えなくても、微々たる聖魔力量を通すだけで魔道兵器のみ使えるそんな環境下での巧みな熟練度高めな活用により、彼の部下が魔道兵器だけを使っても単独に大隊800人の帝国兵を撃退できると聞いたぞ?」
ゼナテスの説明に学院長もつられて保証すると、それでも不信のままの俺はー
「そんなの分からないじゃないか―!どんな【魔道兵器】にもよるだろがー!だって、近接戦闘向けの魔道兵器なら、もしも帝国兵に遠距離から射撃できる【魔道銃】とか【魔道大砲】や【魔道榴弾砲】などで攻撃されてたらひとたまりもないだろうがよ――!だから、俺が―!」
「オケウエー君!落ち着いて下さいよ~~!」
ぎゅっと~!
「~~!?」
あろうことか、イリーズカ先生が俺の後ろに回り羽交い絞めしてきて、ってか胸が~!胸ガ~~!!?そんな柔らかく気持ち良い、ってじゃなくてー!
「先生ー!放してくれよー!俺はおじさんの安全が心配で、今すぐ一刻も早くー」
すー!ぎゅむ~!
パーーチ!
「~~~!??」
………
一瞬、何が起こったか脳内で認識することが出来なかった。
……でも、よくされていた感覚に意識を集中すると―!
痛いー!
そう、どうやらついさっき、羽交い絞めを解けた先生が俺を彼女の方に振り向かせるよう身体の向きを強引に回していって、正面から俺の頬に力強いビンタをくれていたのだったーー!
「……せ、せんせい……」
ぎゅ~っと!
今度いきなりハグされたー!
「痛くてごめんね、オケウエー君~!だけど、アナタを活かせる訳にはいかないの~!だって、確かにオケウエー君の【愛の大聖霊様イーズベリア】はお強い方なのだけれど、もしオケウエー君がフェクモに戻っていっても、四元素魔術はおろか、イーズベリアの力を引き出すことさえも一切出来なくなってるわよー!忘れた訳じゃないでしょー?オケウエー君が生まれてきたあの【南大陸】の特徴の【呪い】みたいに、っていうか………その影響で、アナタが……」
「………だ、だからってー!俺にー!……どうしろってんだよー!?おじさんのために!ここまで~!」
【死霊魔術】があるのでフェクモに戻っても何とかそれを使ってでも帝国兵を皆殺しにできるんだけど、学院長の前で禁じられた魔法について話す訳にはいかないので、ぐっと口を噤む!
おじちゃんのケクル病を『新魔術』で治すより、先に帝国軍の兵士達に殺されでもしたら本末転倒だし!
そうなったら、俺は何のためにここでヒーロー紛いの功績を~~!?一番大切なおじちゃんひとりの命も救えないままに、なんだって大勢の赤の他人の命をーー!?
「けけかかかー!だから言ったではないか、精霊術勉強熱心なボイよー!我の部下にかかれば、帝国軍なんて朝飯前の鼻ホジに等しい程度の『お掃除』さあー!なので、『彼』に任せて安心してくれたまえー!」
「……で、でも……」
それでも、名残惜しそうに食い下がろうとする俺が弱く声を漏らすと、
「おい、イリーズカ!貴様はあの南蛮人の意気地なしに性根から叩き直してくるよう、『彼の部屋』に戻ってみっちり指導してやってくれー!」
「はい~!」
それだけ答えた先生は、俺の腕を掴んでズルズルと連行していくのだった!
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