第十四話:ヒルドレッドとのデート2
「いらっしゃいませ!ご客様は2名様でございますか?」
もうお昼の時間なので、俺はヒルドレッドを連れてレストランへ昼食を取りにきた。
「ああ、俺とこのお嬢さんに」
前に調べたんだけど、どうやらこの貴族街で評価が最も高いのはこの高級なレストラン、『ミルチェーシー』らしくて、昨夜の時点でここをランチタイムの場所に選んだんだ。
中へと入店しようとした俺達に、店員さんの若い20代女性が俺達の案内を担当してくれてるようだ。
「そのお姿、もしかして噂の『フェクモ人の学院生』でございますか?ほら、あの『新型剛力級』をお倒しになられたばかりの?」
「そうだけど?」
「わあー!嬉しゅうでございますわ!当店へお越し頂き誠にありがとうございました!素敵なご友人であるヒルドレッド様をお連れになられてるようですし、それならもっとプライベートな空間をお楽しみ頂けるよう特別席をご用意致しますね。こちらへ」
満面な笑みを浮かべながらレストランの奥へと俺達を招き入れた店員さんは黒髪なショートヘアを持っており、席につくなり俺の耳へと近づけ、
「ところで、この後はサインを頂けませんか?王都を救ってくれた英雄様でもあるオケウエー男爵様ともあろうお方の給仕がかりを務められるとは本当に光栄すぎて一生の思い出にしていきたいでございますよ~」
「うん、いいぞ?」
「やりましたねー!」
一旦俺の近くから離れると、
「では、ご注文は何にしますか?オケウエー男爵様とヒルドレッドお嬢様」
「また会いますね、ミリヌサン!まあ、常連のお客さんを忘れるわけありませんわよね?わたくしはいつもの物を頼んでおきますわ。オケウエーサン、王都にやってきたばかりなのに良くここを昼食の場に選ぶんですわね~?下級とはいえ貴族階級になったばかりの身として相応しく目が肥えてそうで何よりですわ。では、オケウエーサンは何にしますの?」
「満足してもらえて何よりだよ。さて、俺はとー、ふむふむ……」
テーブルに広げられたメニュー見下ろして見ていくと、
「う~んんん……やっぱり特大チーズピザにするよ!」
評判がいいとは聞いたが、他に馴染みのなさそうなものばかりが一覧に並べられてるので無難なものである俺の大好物のピザにすると、
「畏まりました!ご注文はそれだけでございましょうか?お飲み物は?」
「オレンジジュースをひとつ下さい」
「わたくしはいつものブラックコーヒーとお水を頼みますわ」
最後に飲み物の注文を終えると、
「お~ほほほ!ここでもオケウエーサンが人気者になるとは何よりですわね!」
「まあ、……普通だよ?俺ってそこまで英雄って実感がないので、できれば先日だった時に『あれ』を討伐したぐらいでこうチヤホヤされるの勘弁願いたいんだけど…」
恥ずかしいし、面倒くさいよね?...一々町へ繰り出す度に握手を求められてたりサインをせがまれるとか。
それでも照れだしてる俺に、
「観念なさい、オケウエー『男爵』サン~。もはや王都の立派なヒーローとなった貴方には周りからの注目を浴びること以外ありませんわよ?甘んじて受け入れた方が宜しいのではなくてー?」
「……それもそうか!じゃ、注文したものが運ばれてくる前にもっとヒルドレッドの事が知りたいんだけど、お前って確かに本家の実家は『オールドッス』地方の領地にあるんだっけ?ほら、実際に行ったことないけど、地理学で勉強したことあるあの【ウッドワイス湖】の北西部にあるんだよな?」
この前、少ししか聞いたことがないのでもっと聞きたくて尋ねると、
「そうですけれど?」
「実家が湖のすぐ前に立てられるってことは泳げるんだよね?」
「その通りですが、もしかしてご興味おあり何ですの?泳いでみたいとか…」
「うん!今度、春休みという長期休みになってたら、ヒルドレッドの実家へみんなと一緒に遊びに行ってみたいなぁって思ったんだけど、いいのかな?」
面白そうなので、聞いてみると、
「おほ~!オケウエーサンもやっと我がオールズティニア領にご興味を持ちになってもらってるようで嬉しいですわー!もちろんですわよ!オードリーとはライバル同士ですがわたくしの領地にたくさんのお土産を買って帰ると我がオールズティニア領の経済が弾んでいきますもの~!大歓迎の何物でもありませんわよー、お~ほほほ!」
「それなら決まりだな!でも、その前に―!」
「まずは、2週間後に控える、わたくし達『チーム・オケウエー』にとっての大難関であるー!」
「『氷竜マインハラッドの討伐』……だな?」
「ええ……。伝説級ですし、正直にいえば、わたくしも最初にその討伐任務の事を聞いた時、身震いしそうになりましたわ……。でも、参加するしかありませんわよね?だってー」
「ああ……参加しないと、俺が学院生として授業を受ける資格を失って、学院長との約束を守らなきゃいけない一環としてー」
「彼女の元で学院での一生の小間使いとして過ごすしかないんですって?」
「……そうらしい…。たとえ参加して俺が万が一負けてもー…」
本当を言うと、もし失敗して正真正銘に学院長の下で小間使いとしての一生を過ごさなければならないことになったら、『男爵の階級があるのに小間使いとして強制的な職務をさせられる』ってことになって、改めて考えるとなんか滑稽極まりない話だねー!
「それが本当なら何としても避けなければならない結末ですわねー!【愛の大聖霊】様をお持ちになっているオケウエーサンを抜けられると『チーム・オケウエー』自体は解散するしかありませんし。なにより、わたくしを打ち負かした事ある貴方にそんな未来を許すはずがありませんわ!ですから、明日からは放課後になったら初めてのみんなでの『チーム戦』を意識したチーム連携の戦術練習を始めてみないと、ですわねー!」
「そうだね!でも、その前に!」
「今日はとことん、遊びぬいていきますわね、おほ!」
それだけ誓って、決意を漲らせている俺達は注文した料理が運ばれてくるのを待つだけだった。
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それから、昼飯も終わって、町のあっちこっちへと一回り、行って来たりで楽しんだ後、
「今日は楽しい時間を提供して下さって感謝致しますわ、オケウエーサン!些細なお礼ですが、こちらはわたくしオールズティニア家が良く贔屓にした領地の高級店から取り寄せてきた『おまじない』みたいなものですわ。受け取ってご覧なさい」
午後4時35分、俺の屋敷の前でお別れの挨拶をする時に、ヒルドレッドに何かを手渡されたことがある。
「これはー!?」
ヒルドレッドが手渡してきたそれは、まさに『おまじない』そのものの品で、手元にフィットする黄金色の竜の小さな銅像が頑丈な糸で垂らされているそれは、左右へフリフリしたらペンデュラムみたいに揺れ出し、なんか不思議な印象を与えてくれる効果を持つ神秘的な雰囲気を醸し出しているようだ。
「オールズティニア領で年内に2品しか我が家が発注して作られてない優れモノですわよ。これさえ身に付ければ、どんな『反人力』がベースの攻撃を受けていても、ある程度のダメージ軽減ができるということらしいですわ」
「ほうー?『らしい』というのは?」
「だって、発注のお店、『グレンドールズ』にて、オーナーサンがこれを特殊な魔石と精霊魔術を合わせて作ったようなものだと昔からの前オーナーサンが教えてくれましたわ。さすがに詳細についてを聞いておいた先代の御爺様からでも頑なに製造の過程を教えてくれなかったそうでしたわね……企業秘密とか何だとか言って......ですから、どんな効果が正確に表れてるか、わざと世界獣にボコボコにされそうに身を犠牲にして試す輩が殆どいませんわ!(わたくしはあの時、奥義を習得する際に身に付けてましたけれど、どこまでダメージを軽減できたか把握することは難しかったですわね......)」
「なるほど…」
製造過程がどうであれ、俺にとって便利なものとなれるのなら使わせてもらう以外、道はなさそうだぜー!」
「では、わたくしはこれで……ああ、でも!その前に……」
ん?何だよ、ヒルドレッド?いきなり改まって姿勢を正して顔も真剣になって……
「わ、わたくし~!…オケウエーサンのお陰で、先日は決闘を通して、自分の力の限界を知る機会を提供して貰えるだけじゃなくて、そのぅ………」
なになにー?言いづらそうに俯きだしてる様子なんだけれど、どうしたものなのかなぁ……
「あの、わたくし~!オケウエーサンのお陰で、今日も初めて殿方との有意義な時間を共に過ごして頂いた経験を下さいましたので、誠にありがとうございましたわーー!で、……ですから~!」
ちゅ~!
顔が茹でた蛸みたいなヒルドレッドに、いきなり俺の頬を彼女の唇で触れられ、キスされたのであるー!
「お~ほほほほほほー!!それだけ言いたかったでしたわー!ではわたくしはこれで失礼させてもらいますわよ、お~ほほほほほーー!!」
まるで悪役が良く言う捨て台詞みたいなこといって、甲高い笑い声を残しながら嵐のように走り出して去っていったヒルドレッドがいるのだった!
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尾行していた残りの『チーム・オケウエー』と『チーム・リルカ』の場面に戻って:
「……さっき見えたのかいー?オケウエーの野郎、ヒルドレッド嬢さんに頬っぺたをキスされちゃったっすよねーー!?」
「…え、ええ………ま、まったくもう~!ヒルドレッドもなにやってんのよー!?初めて『デートごっこ』に付き合った途端、いきなりらしくもなく自分からあんな大胆な、…『余計』なことまで仕出かしておいたとわー!口づけっていうのはそんな手軽くやるものじゃないのに~~!(って、それいったらあの日の夜に私だって『友達の出来心』とはいえもっと凄いのをやっちゃってたのに、なんでヒルドレッドがやるのを見ると、こんなに胸がちくちく痛みながらオーバーな反応をしちゃうのーー!?)」
「私もオードリーに賛成です!本当にどうかしましたよー!ヒルドレッドさん!まだ正式に付き合っているわけでもなく、『友人のままのデートごっこ』の罰ゲーの最中でしたのに、なんて恥ずかしげもなく堂々と屋外の、誰かが見てたら勘違いするでしょう『あれ』っていう無責任な事をしちゃうんですかー!まったく、えっちィ過ぎですよ、ヒルドレッドさん~!……」
「まあ、まあ、ただの一時の遊びというか、気の迷いみたいなスキンシップといったふうな物のようだったし、そんな大げさに受け取ってしまってもあの二人を困らせるだけなのよー?」
オードリーとジュディの慌てっぷりを見てそんなこといって宥めようとしたクレアリスだったけど、
「……好きに反応させたら?…余計に落ち着かせようとすると、……ますます逆効果に」
エリスにそんなことを言われたクレアリス!
「わたしは別に良いと思いますよー?案外いつか本当に素敵なカップルになっていくんじゃないでしょうか?オケウエー殿とヒルドレッド殿が」
「だから、前にあたしも言ったじゃない~。お似合いのカップルになる日がいつ来ても不思議じゃないって…。あの二人、馬が合いそうだし、惹かれ合うってパータンがはっきりと伝わってきたんだよねー!」
さっきのキスの光景をみて、それぞれのリアクションを示している最中の7人。
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一方、同日の【ドレンドリー領】にて、オードリーの実家である【ドレンフィールド邸宅】にて:
「あのフェクモからの小僧、これから娘との進展がありそうだと思うか?先日、陛下から男爵の称号を与えられたばかりだと聞いたが、最下級とはいえ最低の条件『貴族同士でなければならない』をクリアーした小僧なので後は娘の心次第だと思うが、どういう見込みがあるんだい?」
「あら、お父様。それに関しては順調そうだと思うよ?この間、あたしを助けてくれた時も格好良く敵のプレシャーを意にも介さず、最良な気転であたしを救出できたし、そしてあの後、寮に帰ってきた時も、落ち込んでいた妹を見事に元気づけたそうだったし、実力すべてを重んじてきたうちのドレンフィールド家にとっての最高な相手だと思うのよ?」
「そうかあ……」
右手を髭に持っていき摩っているローバート・フォン・ドレンフィールド公爵に、
「嫌……なの?…その相手がフェクモ人であると…」
「冗談を言うんじゃない、ニールマ!うちのドレンフィールド家に出身地や血筋を考慮する習慣がないのを知ってるんだな?大事なのは二つだけ!『実力が十分に合うかどうか』、そして『貴族の階級』があるかどうか、という2点だけ。ルネヨー・フラックシスで起きたっていうかつてない謎の現象、『樹界域展開』の際に、異様に珍しくて桁外れな【最強な剛力級】とまで言われている【グリーン・ジャイガント・スイーパー】に命を脅かされていそうな我が娘を助けてくれたって聞いたこともあるので、実力の面で考えていても十分以上の素質を持っているんだ。ましてや男爵称号までも授けて貰ったというなら、フェクモ人だろうと関係ないのでな!それに、昔から天頂神様もずっと『フェクモ人と交流しちゃいけない』と代々の【聖母様】や【法王】にお言葉を授けられた事が一度もないのだからな」
「うふふ、ならお婿にきてもらう以外ないのよね?」
「それは本人達次第だぞ、 ニールマ!」
そんな会話を交わしていたオードリーの姉と父は同じ頃にランチを邸宅のダイニングホールにて楽しんでいる最中だった!
まるで、先日に大量な使用人や衛兵の兵士達を失ったことを意にも介さずっていうふうに……
さすがは『実力主義至上の家系』というだけあって、力のない部下の命は『実力のないゴミ』といったような扱いなのである!
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疑問をもってらっしゃる読者の方も多いとは思いますので説明をしますと、作者が書くこの物語の世界観は『中世時代のヨーロッパ風』ではなく、正確に言えば『革命期フランス』
モチーフの方が強いです。
どちらかというと、『フランス革命が成功する前の18世紀辺りのヨーロッパ風な世界観』あたりでしょうか。
だから、王族や貴族の階級が健在でありながらもどこか産業革命や近代に近い技術や電気製品を『魔道技術』に変換される機械や機器も多いって感じなんです。




