四話:イリーズカ先生
聖神歴895年、1月の11日:
キュルキュル…キュルキュル…
「キリリりーーーリリー――ン~~!!」
「ふあ~~ぁ!」
けたたましい魔道時計のアラーム音と小さな鳥の囀りで目が覚めた俺は眠気がまだ抜けきってないまま欠伸をして、上半身をベッドから起こした。
「うぅぅ...」
太陽がいつもに増して眩しい気がする。
やっぱり、南大陸フェクモよりも気候が穏やかでちょっぴり寒い方のここ、北大陸ギャラールホルーツだから陽光の暑さがもっと際立つ感じになるだろうか。
カチャ―!
窓を開けた俺は下の街並みを見渡す。
「綺麗だ……」
赤色と茶色の屋根を多く採用した何十件かの家屋がここの広~~い町にこっちからあっちまでと
所狭しと犇めいている。ある一軒はお店の役割を果たしていて、別の一軒は人と家庭が住んでいる【家】となっている様々な用途で使われている建物だ。
青い空から漂う新鮮な空気が肺に入り込んで、いっそうとこの光景をより美しいものとして見せてくれる。
眼下には多くてしっかりしている舗装されている道路がそこら中に敷かれていて、忙しなく行き交う住民が様々な目的と理由であっちこっちへと歩き回ったり走ったりしている様子だ。
重い荷物がたくさん積まれている馬車もいくつか見えていて、町の喧騒を嫌でも物語る一部分だ。
ここはレイクウッド王国の首都、【クレアハーツ】であり、俺が通うことになる【聖エレオノール精霊術学院】のある大都市でもある。
じゃ、初日になるので、早く制服に着替えようー!
【香気】も死霊魔術の一つの魔技なので、体臭を気にすることもないしなぁ。
というか、昨夜から寝る前に既に浴びてきたし、身体中の清潔具合は問題ないはず…
トーントーン!
「はい!ゼナテスだね?」
「ええ。『彼女』を連れてきたんだが、開けてもいいかいー?」
「どうぞ。着替えはもう済ませたから」
「では、君も入ってくれたまえ、イリーズカ嬢」
「ええー」
先に部屋へ入ってきたのは仮面の男、ゼナテスだ。ふと彼の姿を確認した途端、昨日にあった出来事を思い出してしまう……
昨日の十日は日曜日で、おじちゃんにあの【ミラクル・ピール】を呑ませた夜が経た翌日のことだった。おじちゃんに事情をすべて話した俺に、
「はっははー!じゃ行ってみるがいいぞー!初めての北大陸だろうーー!?きっとお前にはいい刺激的な体験になるだろうー!俺のことは心配せずに楽しんできてくれよ、オケウェーー!ぎゃはははー!」
それだけ言って嬉しそうに俺を励ましてくれた。
その日でここの精霊術学院への入学の準備をしていた俺は最初からもっと長い旅が待っているだろうと予想したのだが、ゼナテスがいきなり、
「船?そんなものに頼る必要は全くないのでね。何故ならー」
あろうことか、まだ荷物に私服と私物のすべてをまだ積み込み終えぬうちにに彼は【異空間収納】から小さな杖みたいなのを出してそれで俺二人を眩い銀色の光の柱で包み込んできたような魔術...(っぽいもの?)を杖から発動させた。
それで、一瞬でここの北大陸ギャラールホルーツへ転移できた(人気のない森で俺達が転移してきたんだけど、それから10分も満たない内に徒歩でこの首都へと辿り着いて来たって訳)
「ああ、言い忘れてしまったけど、確かに君は死霊魔術使いとしての技量と才能は史上で最強なのと確認できたが、ここは四元素魔術の最高探求地であると同時に、文明と科学レベルも上位な北大陸であり、忌避扱いの【あれ】の使い手を容易に発見できる技術力の高い最新な【魔道機器】を各所で設置済みのはずさあ!」
森の中でここへと歩いてくる途中にそんなことについてくぎを刺してきた仮面の男ゼナテスだったので、俺は憮然とこう答えた、
「じゃ、どうするんだよ?俺をここへ行けと勧めたのはあんただろうが」
「まあ、落ち着けてくれたまえ、記憶喪失ボイーよ!確かに【魔道機器】の類ならそういった物のセンサーはお前の体内に宿る【暗黒物質】である【死の息吹】を検知してしまうことになるが、別に対抗手段がない訳ではあるまい。なにせ、君は史上最強の死霊魔術使いであると断言できるからな!つまり要は、君はただ自分の中の【死の息吹】が体外へと微小粒子の一切も漏れ出てこないようにすればいいってことさあーー」
簡単に言ってくれるなー、この仮面ヤロウはーー!
「微小粒子の一切も漏れ出さないようにって、一体どういうふうにすればそう出来るんだよ?」
「けけけ……簡単なのさあー。君はただ意識して自分の体内の全体に循環している【死の息吹】をただ一箇所のところである、【心臓】の方へと集中して溜め込む感覚を想像するだけのことさあーー!そうすれば君の心臓に留まって肺にまで入らずに息として体外へ漏れ出てくることはまったくないであろうーーけけかかかっーー!!」
…………
なので、彼の言う通りに、森を出た昨日の俺達がここの首都にある宿屋で泊まってからこうして体内にある【死の息吹】を心臓のところへだけ集中して送り込んでからずっと押さえつけるような感覚をしてきたばかり。
聞けば難しそうかもしれないが試してみると、案外そう複雑なことでなくへっちゃらだって言える(まあ、俺だからそう簡単にできたかも?)
「失礼するわね~。まあ、坊やはオケウェー君っていう子なのね~?初めて見るけど、ゼナテスちゃんから聞いた通りに、南大陸フェクモの住民はみんな肌色が褐色から黒色までもがいるのだけれど坊やみたいなダークチョコはちょっとタイプかも~」
ゼナテスの後ろから続いて入ってきたのは20代後半の女性で、今までの人生の中で見たこともないような銀色の髪をしている(ちなみに、俺とおじちゃんはどっちも黒髪のアフロヘアで、仮面をつけたゼナテスの髪の色も黒髪だ)。
部屋に入ってきたところにこちらからは斜め方向でドアへと視線を向けられるので、後ろにあるロングヘアの髪を一つに束ねた女性がそれを三つ編みにしていることも確認できた。
豊満な胸を誇る彼女は長いローブを外側のブレーザーっぽく羽織っていて、中にある実際に肌を包み込んでいるメインの服装は本で見たことのある『ワンピース・ドレス』というような肩から太ももまでを一つの布で覆っているドレスのようなもの。
つまり、上半身を包み込むための服でもあると同時に、スカートっていう物の役割も同時に果たす服装のこと。
本から見たことある服だけど、実際に見てみると、綺麗だなぁ。丈がちょっと長めなため、太ももの上半は隠れてみえないけど、下半なら少しだけ見える。それから下は彼女の履いた長い革製のブーツが足までを覆っている。
それにしても……
「本当にお肌、雪のように真っ白いんだなぁ……俺のと真逆で..」
思わず彼女の外見について、そう声を漏らした俺だった。
だって、昔は肌が白い人間なんて幽霊みたいに気持ち悪い容姿ばかりしているものだと偏見な想像をしていたが、今は実際に見てみると予想を遥かに超えるような容姿端麗で目が離せないような超絶美人じゃーん!
「や~ん!チョコ少年に熱い視線で凝視されてるわ~~!自分のと真逆な色の皮膚してるきれ~~いなお姉さんを前にして心でも奪われるの~~?年齢に似合わず、エッチな子だね~坊や~?」
「イリーズカ嬢、冗談は程々にしてくれたまえ。今は彼を【聖エレオノール精霊術学院】の学生として入学させる手続きを済ましておく大事な日なのでな。気を引き締めておいてくれたまえ!」
「はい~~。じゃ~っ!詳細なことは下の食堂で朝食を取りながら説明するから、行こうね、オケウェー君~!」
「分かった」
それだけいうと、二人の後を追って階段を降りる。
…………
……
それから、学院への入学を正式的に登録するために、色んな書類にサインをさせられた俺は慎重にすべての項目と確認すべき要点をチェックしてからサインし、別の用事が出来るからと言ってどこかへと行ったゼナテスと別れ、今の俺はこの女性、イリーズカ・フォン・ゲルトルードと二人連れで、学院の敷地内へ入っていくところ。
「初めての学院生活になると聞いたけれど、緊張した~?」
「...少しだけなら、まあ......緊張したりはする..かな?」
これは事実だ。この学院の門を潜ってきて、最初に見えてきたのは清潔にしている舗装された道路と霧整えられた中庭での茂みや草。元女学院だったため、中庭を一見しても分かると思うが、ここでは花々の存在が嫌と言う程に強調され、色んなところで上品なアクセントを醸し出すために飾られまくりだ。
そして、確かにここは壮観にして美麗な意匠が確かめらる白と灰色の統合された配色で棟や塔といった様々な建物があるが、この居心地の良い環境でいながらもどこか胸の奥底に自分は本当は忌み嫌われる【死霊魔術使い】であるという事実を隠しながら通うことになる自体が後ろめたくて、緊張せざるを得ない状況だ。
ぎゅ~
ー!?
「大丈夫よ、ワタシがついてるから~」
どういう訳か、手を握ってきて安心させようというように微笑んでくれた。
「 イリーズカ先生……お気遣いありがとうございます。で、でも……ゼナテスがああ言ってるんだけど、本当にいいのかな?俺みたいな人間かここで通って精霊術を学ぶっていうのを……いくらおじちゃんのために精霊術を学ぶ必要があるのって……」
「平気平気~~!ゼナテスちゃんのいう通りに、【死の息吹】さえ隠し通せたら、誰にも気づかれることはないよー?」
「だといいんだが...」
ひそひそで声を抑えて登校してきた女子学生らしき者達に聞こえないように話し合っていた俺と イリーズカ先生。さっき宿屋の食堂で聞いたんだが、このイリーズカ先生は俺の教室、1年B組の担任先生となってくれる者らしい。
会話の一環で彼女はどういった関係でゼナテスと一緒にいるのか聞いたけど、どうやら彼女から教えてもらうと、仮面で顔を隠しているゼナテスは隣国の【ゼールドリッチ=ヴォールフガング帝国】から自称亡命してきた、いわゆる...勘当された元貴族のようだ。
で、持ち前の優れた魔力と天才級の【四元素魔術使い】の実力でもって、ここの国の冒険者ギルドにちょくちょくと登録されてない助っ人みたいな形で一時的に討伐任務に参加したりすることもあるらしい(正式な会員ではないので神出鬼没で現れては消えるらしいが)。
ゼナテスからギルドの皆へ話したことがあるが、どうやら彼は過去に俺達の南大陸へ行ったことがあって、そこで杖の形をしている【転移魔道装置】を見つけ出して、【四元素魔術】と【物理法則干渉魔術】がまったく使えない南大陸とここへでも自由に一瞬で行き来できることを明かした。
そして、活動を続けていく内に、成り行きでここのレイクウッド王国の【聖エレオノール精霊術学院】に教師として務めている伯爵家の出のイリーズカ先生と知り合ったってこと。
ちなみに、どういう訳か、この先生にも何かと昔から今日までグレイなことに手を染めたこともあるっぽいと会話の中で垣間見えるようなことを説明して貰ったってのもあるので、俺が【死霊魔術使い】であるとゼナテスの野郎が明かしやがってもまったく動揺しない先生だった。
そればかりか、ばれないように協力までしてくれると言い出してくれた。
ひそひそ.....ひそひそ……
周りからの女子学生の視線が痛い…
だって、見渡す限り、この道路とあそこの中庭で歩いていく者って、殆ど女子ばかりだからなぁー。
確か、ここは元々、女学院だったって聞いた。
だが、この大陸において極稀で数少ない男子の【精霊術使い】の総数が近年、上昇してきたという傾向に合わせるために彼らも一生徒として迎え入れようという理事長の意をくんだことから、この学院を男子の入学希望者にも解放した共学制のものにした。
「もういいよ、先生!手を放して!」
「まあ、気にしなくてもいいのに~」
「もう十分だ!子供じゃないよ、俺」
実際に15歳なんだしね俺、大人になるまでもう数年後だけ残ってるし。
「ふふ...(まあ、坊やにはまだ分からないけれど、おそらくアナタが注目されてる理由って、別にあるものだと思うわぁ...)」
イリーズカ先生の小悪魔的な微笑を無視した俺は真っ直ぐに前へと向き直って歩きだす。
「ちょっと待って~~オケウェー君~!サインしたばかりの書類を学院長室に持ってくんでしょ~!?迷子になっても知らないわよ~!」
先生の声を背に聞きながら、学院案内書に載っている地図に参照して、学院長室を目指す俺。
そのために、ここっていう中心棟の玄関をくぐり、正面にある階段を真っ直ぐ昇って岐路を目にしたら、左に曲がって真っ直ぐだ。
どうやら、そこへと辿り着くための道は殆ど一本道ばかりで、あっという間に近くまで辿り着いた。
すると、大きな金属製の分厚い両開きドアがあり、入っていく前にイリーズカ先生がやってくるのを待つ。
「もう~~!早歩きなイケナイ子なんだから~!でも律儀にドアの前で止まってくれたし、今回ばかりは大目に見といてあげるわ」
追いついてきた先生が俺の横に立つ。息を切らしているように見せるが、よく観察してみれば汗は出ないし、表情も紅潮しているようには見えないのでおそらくは疲れている『ふり』をしているだけ。
「待って、オケウェー君!入る前にこれだけ聞いてほしい」
「え?」
取っ手を握ってドアを開けようとして俺の手に自分のを添えて、そう注意してきたイリーズカ先生。
心なし、眉間にしわをちょっぴり寄せて緊張しているように見えなくもない。
いつもと違って、今度は真剣な表情と口調に切り替える先生。出会って1時間も経ってないけど、そんな先生を見るのが初めてだ。
「学院長のことなんだけど、実は…彼女は、...その...オケウェー君みたいな南大陸からの住民のことを...偏見な目で見ることになるかもしれないわ」
「はいー?」
目を見開く俺に、
「だって、ここの北大陸では普通に魔術が使える大地なのだけれど、オケウェー君のいた大陸って、【あれ】を除いての他の魔術はみんなまったく使えないんでしょう~?」
「つまり……」
「ええ...一般用語ではないけれど、ここの精霊術学院では【暗黙了解】で南大陸のことをこう呼ぶわ:
【呪われた大地】って」
つ、つまり、そこからの住民であるである俺を、……疎ましく思うことになるかもしれないと、そうほのめかしたんだな、先生?
………
________________________________________




