四十話:友達(過去)と『友達』(現在)の対峙
「ふざ……」
「ぁあ?」
「魔神のための生贄に?ーですってー!?ふざけないでーーーー!!!!私のお姉様をあんなにした張本人に対して、女性を数多く攫っていたあの外道極まりない、神の風上にも置けない男のために誰が犠牲になるっていうのよおーーーーー!!!?……はぁ……はぁ……」
声を荒げた私は沸き上がった怒りを抑えるのに苦労して深呼吸を整えていると、
「別にならなくてもいいよ?でも、その前に、まずはこれら三つの出来事を見てから決めても遅くないぜー?」
「え?」
「はは!」
ビュウーーーーン!!ビュウーーーーン!!ビュウーーーーン!!
彼女がそう言い終えたら、ホールの天井近くの宙に浮いている三つの魔法陣が出現すると、そして一陣からは、
『キイイイイーーーーーーーーーーーーーンンン!!パチーーーーーーン!!!きゃああーーー!!世界獣のクイーンアントだーー!!門の外へ見ろ――!!大通りにいてこっちを見てるわーー!!』
「樹界脈の可視化ーー!?私の時みたいにーー!?それに、あ、あれはレイザリアー中等学院の門だわーー!!そして、外にはクイーンアント一匹がーー!?」
どうやら、【映像動画再生円陣魔術】を使っているみたいで、事前に取った動画を魔術を通してどこでも再生してるようだ!魔法陣で!
「はははー!!そうだとも!今でもてめえの古巣だったレイザリアー中等学院へ可愛いクイーンアントが遊びにやってきてるんだぞー!!そしてーー!!」
パ―――チ!!パ―――チ!!
『いやあああーーーーー!!!助けてーー!!?世界獣が学院の中へ入ってきてるわーーー!!』
『野郎どもーーー!!今度こそ俺達第2旅団の根性を奴らに見せる瞬間だーーー!!だから諦めるなーーー!!!』
「う、うっそ!」
あれはレイクミリアムの中での悲惨な光景!
そしてもう他には【ケルノット平野】らしき広い地帯にて町の門のもっと前方に展開された陣形を成した我が王国軍があって、向かってきた数多くの世界獣の大群と交戦を始める最中の光景だったわ!
「あ、あんたらがそれらをやったっていうのーーー!!?世界獣をあっちこっちへ呼び寄せたのーー!世界樹で世界中へと流れて行ってる分脈達もあんたらのボスが世界樹( ワールドツリー)の心臓部を乗っ取って規定量以上の聖魔力気を送り込んで、そして最終的目標地点に向けて分脈を伸ばしてきてるのでしょーー!?本来、樹界脈が一切ない場所でも伸ばしてんでしょーー!!あんたをけしかけたリーダーがー!制御下においてる心臓部で樹界脈すべての動き、行進方向と成長率を自由にいじってるんでしょーー!!」
本来、『樹界脈』は霊的な物体みたいなの。それが実体を得、見えるようになって強力な闘志級の群れや剛力級の世界獣を顕現させたのなら、起源である世界樹から黒幕が何かしたのかと思うのは合理的な推察なの。オケウエーの愛の大聖霊イーズベリアに真相を知らされる前でも簡単に推測できることなのよー!
「ほう?それも知ってるとは…やはり、『あの黒い男』の大聖霊から聞いた通りの情報だったんだなー!?ええ、そうだともー!!アタイも確かに、お前達ドレンフィールド家が憎くて憎くてしょうがなかったんだけど、よく考えてみればお前の家は実力者勢ぞろいの家系で、復讐を成し遂げるのが困難だって判断したこともあったんだよなぁ……だが!クレガーキール様がアタイに力を貸しているから、こうも上手くすべてが作戦通りに順調で遂行できてるんだよー!」
「クレガ…クレガーキール…?一体誰だったのよ、それーー!?」
「あれ?まだ言わなかったっけー?クレガーキール様っていうのはね、まさしく世界樹を乗っ取っている張本人なのさー!そして、アタイに『すごすぎる力』を与えてもらって、てめえらに復讐してやる手助けもしてくれた恩人のことなのだーー!そう、お前の屋敷へ侵入して、コイツを攫ってきたのもクレガーキール様すべての手柄だぞーーー!」
………………………………………
今日の明朝、午前6:55時のドレンフィールド邸宅にて:
メインの屋敷の中へと続く大型な門にて、門番を担当している熟練度の高すぎる剣術も肉弾戦も魔術の心得も達人レベルの兵士二人に、近づいてくる人が見えた。
その人は全身の皮膚を覆い隠すローブを着ており、頭すべても金属製の仮面で覆われてる彼は帽子も被っていて、両手や両足にはグローブと分厚いブーツを履いていて、肌が露出する箇所がどこにも見当たらない様子だ。
仮面もどこか冷たい印象を受けていて、ゼナテスがいつもつけていたものとは違う様式のようだ。
「って、おい!何物だ貴様!ここ、どうやって先の庭園の門を警報も当番兵士も動きを察知されず、見つからないままでここまで抜け出してこれたか分からんが、この先への立ち入りは禁止なんだぞー!侵入者めーー!!大人しく縄につかまり、投降しないとーぐわあーーぁっ!?」
「な、なんだこれーーー!!?ひぎゃあーーーーーーーー!!?」
「オールドウィンーー!?くっ!貴様、彼に何をしたーーー!!?」
言い終える前に、兵士の胸の辺りに大きな穴が開いた。それを受けて、たちまち身体全体が徐々に砂になっていて、鎧と着ている服すべてを残して、
カチャ―――ン!カチャ―――ン!!
身体中全部、砂になって崩れ落ちて、着ていたものだけがそこで転がっている様子だ。
「貴様――――!!!どんな魔術を使ったか知らんがもう許さねえから覚悟しやがれーーー!!」
バサーーーーーーーーーー!!!!
抵抗もむなしく、剣を抜き放った残りの兵士も切りかかってみたけど、仮面の男からの鋭い聖魔力が纏われた手の一振りではじき返され、そして両断された!
「他人の振りをするのは如何に面倒なことか、つくづく思い知らされたこの瞬間で、けけけ…」
屋敷に入っていった彼に、そんな声が漏らされた。
そして、中が大惨事になった後、ニールマリエーお姉様が連れ去られたとイリナが話した。
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「だから、クレガーキール様と契約を結んだって訳!彼は魔神を復活させたいがために清らかな乙女でありながら一流の精霊術使いの生贄がほしい。そしてアタイはお前とお前の家に復讐したい。利害が一致してるなら、彼の計画の一環に乗ったってのは道理さー!」
「……だ、だからお姉様をあのクレガーキールとかっていう男に拉致させたのよねーーー!!というか、あの男って一体何者だったのよーーー!!?うちの門番の一番強い兵士のオールドウィンをああも一瞬で殺せたのってー!?」
「企業秘密だ。さて、アタイの目的も伝えた以上、次はこっちの条件を呑んでもらう番がきたんだな。それ!」
ター!
「え?」
何か小さな小銭みたいな物体をそこの床に投げ出してきたイリナなのだけれど、あれはー!?
ぱちー!
イリナが手指を鳴らすと、小銭みたいな物体が前方の床に転がってるままでいきなり物体が閃光を帯びたような爆発をした後、魔法陣が浮かび上がったと同時に円筒形の小さな魔術的な柱がその床の魔法陣からせり上がってるように形成された。
って、その魔術の反応ーー!!
明らかに聖魔力の類ではなく、8年前に魔神アフォロメロ がよく発していた魔神特有の『力の源』である【混沌の波力】そのものだわーー!!聖魔力と反人力も少し混ざってそうな反応を感じるけれど、もしかして複合系の新魔術ー!?そもそも、あの三つの『力の源』は混在させては反発し合うものだって認識してたから、ああも調和性のとれた一つの『魔術的柱』で構成させられるものなのーー!?
「柱の中へ入りな。10秒間だけ数えるぞ!0まで数え終わったらまだ中へ入らないんだったら、お前のコイツを頭から真っ二つにしてやるぞー!」
「………分かった…わ」
お姉様を人質に取られる以上、従うしかなかったの。せめて、オケウエーが間に合って、駆けつけてくれることを祈るしかない。
彼なら、なんかこの絶望的でなんにも出来ない状況でさえどうにか打破して、最後は私もお姉様もここから助け出せるって気がしたのよね。
「9-!」
タタタ………
「7-!」
柱の中を近くのここから除いてみると、確かに魔神っていう種族の神が有する【混沌の波力】を感じ取った。聖魔力も反人力も少し混ざっているようなの。
人間はそもそも、8年間の『最悪な一年』の頃を除いて、魔神そのものと接する機会が殆どなかったから、他の『力の源』と混合してるとはいえ【混沌の波力】に身体を漬けさせるとどうなるのか分かったものじゃないのよね。前例があまりにも探すの難しいから。
「2ー!」
タ!
「入ったわよー!これでいいでしょうー!?これでお姉様を解放しなさいよーー!!」
【混沌の波力】、【聖魔力】と【反人力】で構成された魔術的な柱の中へと入っていったけれど、取り合えずこれにて何にも悪影響とか苦痛を感じることないようなので、一安心するのも柄の間ですぐにお姉様の安全も確保したい一心で淡い希望を抱きながらイリナに訴えた。
「まあ、まあ、そう焦るなよー?どうせ楽しみはなー!これから始めるだというのによー!」
パチー!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………
「えー?きゃああーーーー!!!ああヴぁっヴぁヴぁっヴぁっヴぁっヴぁヴぁっヴぁヴぁヴぁばばヴぁヴぁっヴぁああヴぁあああああーーーーーーーーーー!!!!!!」
何これなにこれーーー!!
さっき入ったばかりで何にも感じなかったのに、イリナが指を鳴らした後、柱の中でこうも痙攣したまま鋭くてハリネズミにでもなったようなチクチクとした電撃みたいな痛みが全身の皮膚と内側を駆け巡るような感覚に襲われた!
この強烈な痛苦が私を苛みはじめ、まるで地獄の中に突き落とされたような感覚を覚える私は、
「ヴぁヴぁああヴぁっヴぁヴぁっヴぁっヴぁっヴぁヴぁっヴぁヴぁヴぁばばヴぁヴぁっヴぁああヴぁヴぁヴぁヴぁ~~おケエヴェヴぉヴぉけヴぇヴぇヴぇエエエエエエエエエエーーーーーーーーーー!!!!!!」
オケウエーの名前をこんな痛烈な痙攣に苛まれ激しく震えている状態でも呼んで、彼からの助けを強く心の中で念じる私。
助けて、オケウエー。
本当に、本当に痛いわよ、こんなのーー!!
こんな激烈な痛みに晒されるのなら、いっそう死んだ方がいいって……
「おケエヴェヴぉヴぉけヴぇヴぇヴぇケエヴェヴぉヴぉけヴぇヴぇヴぇーーーーーー!!!」
「これで終いだ――!!死ねよーー!!アタイから何もかも全てを奪った貴族の傲慢で特権階級気質の暴
君公爵家のオードリー!!お前が自分の家の理不尽な買い取りをどうにかして止めなかったから、アタイがーーー!!!!とにかくこの世から去れーー!もうお前の顔なんて見たく―」
カチャアアアァァ――――――――――――――――――――ンンンン!!!!!
ピカ―――――――――!!
真っ白い閃光が私の視界を塞いだけど、でもこの純粋な聖魔力の反応はーー!?なんか『先日の一件』のと同じ感じがしちゃうんだけど.......
え?いきなり私の全身を襲っていた激烈な苦痛が止んで、ここを包み込んでいる禍々しい波動してた柱も消えて、…そして、目の前には……『彼』の背中が…見えた!
「よーう、オードリー。もう大丈夫?お前らしくなくてまたもピンチに陥ったな。でももう安心していいよ。この前のバケモンと同様に、今この目の前のあいつも……絶対に許さないから!」
怒りが沸々と窺える声色を帯びながらそんな頼りになる言葉をかけて、私に一瞬で振り向いて優しい笑みを向けてくるのは、最近になってもう馴染みになってる『契約友達』の一人、褐色の男子生徒にして、フェクモからの出身者、オケウエーだった。
彼の全身から漂う聖魔力のオーラはもう膨れ上がってるよう臨戦態勢に入り、両肩を小刻みに振るわせて私のために怒ってくれてるのがはっきりと見て取れたの。
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どうやら決闘で打ち負かして結んだ友情は自然に出会って育んだ友情よりも良いものらしい、オードリーの場合。