三十九話:怨念
オードリーの視点:
ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンン!!
「お姉様ーー!!待っていて下さい!すぐ助けにいくからーーーー!!」
国立公園の外れの第2区画っていう廃墟ばかりあるとこでランドマークのひときわ大きな屋敷のはず!つまり、『あそこ』しかないわよねーー!!
【空中浮遊魔術】を使って、第2区画の象徴的な目印となる『あそこ』へと飛んでいくと、
「そこわねーー!!」
拉致した輩がお姉様を人質に取る以上、なるべく相手を刺激せずに、静かに着地してから冷静に徒歩で近づくべきわよね、さすがに!
屋根で着地してから上階から順に下っていく犯人のいる部屋を探すってことは非常識だってことぐらい誰でも分かるわよ!
ターーーーーー!!
だから、他のと違って明らかにそこまで老朽化してない大型級の屋敷の手前で着地した私が呼吸を整えて、静かに両開きのドアを開けて中へ入っていった。
中へ入ると、確かに微かな聖魔力の反応があることを確認できたわね。
お姉様はあんな身体になってからずっと聖魔力量が昔ほど多いわけじゃなくなったし、『管理の大聖霊』を失ってから一般魔術の心得も記憶喪失した後すべて忘れてなくなったので、お姉様からの反応が微弱なのは当然として、問題は『敵』の方。
「出てきなさいよ、人攫いの外道ーーーー!!!気配を察知されにくいように何かの魔道具を使って自身に宿る聖魔力をあまり感じ取られないようにしたみたいだけど、そんな子供騙しの小細工が私に通用するとでも思ってるのーーー!!?」
「これはこれは手厳しい評価で参ったなー!まあ、元々はただの遊び程度のものだったので、望み通りにコイツをお前に良く見えるように出るぞ!」
「ーーー!?お姉様ーーーー!!」
屋敷の中に入ってから赤い絨毯が敷かれた広い玄関向きのホールの先に三角系の階段があり、上階へと昇るために左右で二つに分かれた曲線的な階段になり、上の方を見上げるとメインの中心な両開きなドアじゃなくて、右の廊下の突き当りのドアがちょっと開けられた隙間からさらに大きく開いて中から出てきたのはー!
「(むふ~!むふっ!む~ふっ~!)」
案の定、家の車椅子から移動されたお姉様は今度、別の簡素な車椅子に座らされ猿轡をかまされているようだ!
お姉様のすぐ隣に陣取っているのはお姉様をここに連れてきた犯人でうちの精霊術学院生の制服を着てる銀髪ショートの女子生徒だ!
「お姉様になんてことをしたのよーーーー!!!今すぐ解放しないとぶっ殺すわよーー!!」
お姉様の惨めな拘束されてる格好を見て怒りが沸き上がった私が耐えられずにそう叫ぶと、
「立場の弱い者ほどよく吠えるものだってどこかで言われたことがあったが、お前のそれは正しく弱者の愚行そのものだな!昔のニールマリエー嬢が見てたら飽きれること間違いなしだろうがよー!!あはは!」
「~~!?なんですってーー!!?だからすぐお姉様から離れなさいよ、外道女!!お姉様に指一本でも触れたら絶対に許さないわよ―――!!!何があってもあんただけは絶対に死ぬまで氷漬けにしてやるから!!」
「おっと、そんなこと言っていいのかな~?あまりアタイを刺激するようなこと言わない方がいいぞー?さもなくばー」
かちーーん!
「(ひーっ!んふう~!むふっ!)」
「お姉様ーーーーー!!!?」
どうやらその車椅子は特別性のようで、両手と両切り株(脚だったもの)までもロープで拘束されているお姉様の命を今でも刈り取りそうな鋭利な長くて脅威的な刃がお姉様の頭上から少し上の椅子の背もたれから生え出てくるように突出され、少しだけ下方に動いて今でもお姉様をその気になれば、頭のてっぺんから切り下ろしそうな様相を見せる。
「なんてことを~~!!!今すぐー」
「そこを動くなー!じゃないとすぐかち割るぞ!コイツを死なせたくなけりゃ今すぐ指示に従えーーー!!この刃はなぁー!特別性のものさー!アタイが手の中にある機器のボタンを押しただけで、あるいはお前がそこから飛んできて5メートルまでここに近づいてきたら自動的に高速度で振り下ろされるぞーーー!!後、アタイからの聖魔力量を全くのゼロになるまでに殺された場合、コイツの面まで両断する勢いで自動的にかち割られることになるぞーー!!そして、これも普通の刃じゃないからな!魔道兵器の類で、ちゃんとアタイからの聖魔力の供給があって、尋常ならぬ貫通力を誇るぞー!アタイが死んだ場合の後5分までも残滓が残ってコイツの頭を真っ二つにすることぐらい造作ないさーー!」
「く~っ!……わ、わかったわ…。くっ~!それで!要件は何よ――!!?お姉様を拉致してきたからには何かの要求があるってことでしょうーー!?じゃないとわざわざーーくっ!ひ、人質を取るまでも……ないでしょうーーー!?」
「やっぱりドレンフィールドの『希望の才女』だけあって、立ち回りが上手い女だ。ことを一刻も早く収めるために、自分の不利的な立場を認めてすぐ本題に切り出す度胸だけは賞賛しよう。だが、時間を稼いだって無駄だぞーー!?そうだな、要求をいう前、まずはアタイの顔でも覚えたかいーー!?」
「………え?」
よくよく彼女の顔を見つめていると、
「はっ!………イ、イリナ…?」
間違いないわ!そう、5年前、私が10歳だった頃に、お父様がわたくしとお母様をつれて、ドレンフィールド邸宅を開けて一年間だけで『アイデールス』の町へ引っ越していた際に、
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聖神歴890年、2月一日:
当時、わたくしのドレンフィールド家はニールマリエーお姉様が魔神との一戦で重傷を負い両脚を失って障害者となってから2年も経ってきた頃に、実家の邸宅と家族内での状態が陰鬱な雰囲気を帯びていた。
あの頃、ニールマリエーお姉様を王国の【王宮親衛精霊部隊】 の総隊長にして、『大聖霊術師』という称号をも誇っていたお姉様が重傷と契約精霊を失ったという大事件が経た2年後、私達のドレンフィールド家の経済状況と世間での影響力と立場ががた落ちしていたまっしぐらで、それに危機感を抱いていたお父様が取る復興作戦は実にシンプル、且つ直行的なものだったわ。
そう。
経済状況と影響力を以前のように回復させるために取った行動は、経済状況が伸びない『アイデールス』という王都から南へと15キロメートルも離れた中規模の町の統治権を手に入れるっていう至ってシンプルな作戦だったの。
元々『アイデールス』の町はどこの貴族家の領地でもないような王族直属的な町で、町長の座はいつも王様が自ら任命していた役職だったわよね。
それが、お父様が町の統治権を王族側から買い取るように交渉を国王様に持ちかけていたの!
経済状況が伸びないその町をドレンフィールド家が収めて大幅に改善させる功績を成し遂げた暁に、その倍増した利益の一部を税金に変換して王国をもっと富ませる一助になってあげると王族側に持ちかけた提案。
当然、交渉を続けていた間、長年で直々に統治し、管理していた町がいきなり貴族家とはいえ臣下であるドレンフィールド公爵っていう私のお父様に譲るのは少々憚れるものとし、逆提案を持ちかけられることになったと聞いたわね。
王様からの逆提案っていうのは、町の統治権を二つの勢力に分けること。北の統治権は我がドレンフィールド家に譲っても良いとして、南半分の町の統治権は学院長の家、我が家と同じく四大貴族の『イルレッドノイズ 公爵家』に譲るってこと。
さすがに我が家までおいしい思いをしては四大貴族の中でドレンフィールド家に続く影響力を持つ イルレッドノイズ家を差し置いてはいけないと王様が仰ったので、従うしかなかったわ。
なので、北半分の統治権を得た我が家は5年前の聖神歴890年、2月一日になった日に、初めてアイデールスへと引っ越した(買い取った新たな領地を肌で感じてどう町長を任命し統治させるのがベストなのかを分析するための一環だった)私達ドレンフィールド家が朝についてから、その同日の夜にて、
「引っ越してきたばかりの今日だったが、気に入ってるのか、オードリー?」
「まあ、町は綺麗だし、この屋敷も悪くない感じなので、及第点あげようかしらね」
「ほほほー!そうかそうか!それは良かったな、我が娘よ。さて、この時期での転校は大変だが、明日はがんばって新生活を楽しめ。これからの人生にきっと何か役に立ちそうな経験をお前が見つけることになるだろう」
「お父様のいう通りにそうするけど、もし悪い経験ばかりになったらどう埋め合わせしてくれるのー?」
「ほほほ!そういうことになってもご愛嬌ということで許してくれてもいいんじゃないかな、オードリー!誰がお前のためを思っていつも元気になれるよう特別性満点の訓練メニューを提供してやってると思って?」
「失礼するわね」
と、お父様からの軽口を無視した私は自室に戻って床についたけれど、翌日のことは正に、お父様の言ったことに該当する素敵な出会いがあったのを今でも忘れてないわね。
翌日の早朝、私が転校することになったここの小等学院、『モールトマレー』への通学路を歩いていた私に、いきなり横からの動きを俊敏に感じ取った私がそれを手で摑まえるとー
「おい~!そこの子ー!~はい、キミだよーー!」
「私?それに、こっちへと飛んできたボール…、あんたの物なの?」
「そうだよ、金髪子ちゃん。……って、人を特徴で呼ぶの無礼だったっけー?おっけー聞くね!キミの名は?」
「……これを返してほしいってだけで話しかけてきたわよね?なら、これを受け取って頂戴。私とあんたは住む世界がまったく違いすぎるから、これから接点の保ちようもないし、自己紹介し合っても無駄なー」
「んな難しいことどうでもいい~!ほら、このボールでちょっと付き合って遊びにきてーー!そうしたら本名でも偽名でも何でもいいからついてきてー!」
「あ、ちょー!」
そうだったわね。
目の前で話しかけてきた、如何にも庶民って感じのシンプルなシャーツとショートパンツを着ていたボーイッシュな銀髪少女に手を引かれて、そして、
「あはははは~~!偉い方の子みたいな学校服を着てる割に運動神経はボクよりすごいじゃんー!キミって本当にきぞくっ家なのかよー!?」
「ふ~ん!当然だわ!このぐらいできないようじゃ世界獣の獲物になるだけわよー!」
「あはは~!あんあバケモンと戦うの偉いお姉ちゃんお兄ちゃんの仕事なのに小っちゃいキミの身体しててなにそれー!?」
「ち~!?ちっちゃくないわー!失礼しちゃうわよあんたーー!」
「あははは~~!金髪子っちゃん怒った怒った~~!」
それから、あの日は学院があるってことを忘れてしまい、ひたすらにあの子と遊んでいたばかりだったのを今でも覚えていたわね。
そして………
「……オードリーよ。...私の名は」
「そうか…。良い響きだねー!ボクと違って、名だけ女らしいけど実際の振る舞いはそうじゃないって言われたボクより育ちもいいし、一々の仕草も可愛いので、それに加えて運動神経も良さそうなので何もかもボクより完璧じゃん、キミー!」
「いいえ、そうでもないわ…。だって、訓練は厳しいし、遊ぶ時間もないほどにぴりぴりしてたし、良いことはなんにもないわよ、私なんかの人生で」
「またまた難しいこと言って~実は照れてるだけじゃんー!この~!この~!」
「あ、ちょ~!なに人の脇や胸を擽ってきてんのよーーー!!あっ!~あははは~~!アはっ~!あはははぁ~!あへっ~!?」
………………
「…イリナよ」
「ん?」
「だ、だから!ボクの名前だ、な・ま・え~!イリナ・オールトマンって言うんだ~」
その日、遅刻…というか殆ど欠席状態だった同日の夜にこっ酷くお父様に怒られながらもなんか人生で一番楽しい日だったなぁって今でも鮮明に頭によぎってること。
どうやら、イリナは私より年上で、実家で自宅学習していた子だったらしい。
だから、登校する時間帯でも彼女が授業を受ける時間じゃないということで外へ遊びにいけたようだったの。
その後、何週間も友達同士として、たくさんの楽しい思い出を積んでいたけど、ある日を境に、それら全てが桃源郷にして、長く続かない幻の束の間の儚い一時であったのを思い知らされた運命の日がやってきた。
「何ですってーーー!?お父様ーーー!?イリナのお父さんであるオールトマン一家の一般人民服屋店、『ラピス・ラトヤー』を買い取ったんですってーーーー!!?」
「そうだが?」
「でも、その店はイリナの家族の唯一の家業のはずよー!!母親は病気でいつも発作起こすし、四肢も脆弱性あるって聞いたし、その一点のみの稼ぎ手である彼女のお父さんから生計を奪うっていうことはーー」
「もう決定事項だったよ、オードリー。お前も知っての通り、ニールマが『ああなった』からにはドレンフィールド家の株も急激に没落寸前とまでにいかなくても大幅に発言力も財産力も減っているほど追い込まれてたし、再興するためにはこの町で良い経済向上を目指すしかないんだ!そこで、お前のイリナっていう子の店はその役割にぴったりな位置を占めるんだ、この町で」
「そ、そんな暴挙が通るとでもーー!!?私達が貴族家なのは分かるので、たまには自分達の利益だけ追い求める必要があるのは百も承知だわーー、お父様!でも、なんでよりによって、私の初めて心を通い合わせた初めての『友達』の家にー」
「きっと何かの悪い運命だったよ、オードリー。諦めろ。おれから言えるのはこれだけだ」
バー―――ン!
ただ私を追い出して力強くドアを閉めるお父様がいたことを今でも忘れずに頭の中で回想されている。
イリナ………
ごめんね。
私は何も出来なかった所為で、
私の家の事情があった所為で、あんたを巻き込んでしまったこと。
私があまりにも力不足だったから、お父様を言いくるめることが出来なったから。
本当に、済まないわ。
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「そうだろうなー!忘れるはずがないもんなー!だって、一緒に何百回もあの町の小さな遊園地で遊んだことある仲じゃん~!アタイ達ーー!!でも、てめえの親父さんがな!アタイから何もかもすべてを奪ったんだーー!!15年間も名声と評価を上げて成り立った家業一番の庶民向けの服屋ビジネスを営んでいた我が家だったけど、てめえのドレンフィールド家が出しゃばってきたから、買い取ってきたから、生業を失った父が絶望の果てに、一年後の苦しんだ貧困の極みで何度もアタイに酷い仕打ちした後は自殺して、唯一の希望をも失くしてしまった母さんが!自分だけで養えないからってアタイを売り出してったんだよーーー!!」
「…………」
「でも、運よく、孤児院に売られたアタイの価値を目ざとく気づくとゴッドフリー子爵が訪ねてきて、『身体能力強化』だけずば抜けて得意で他人のと2,3倍の効力を発揮できたアタイの特技を見抜いて、養女にしてもらったさー!おかげで、今はゴッドフリー家の者として、精霊術学院の2年生として通ってる。昔からお前より一年年上だったからな!でも今はイリナって昔の名前を捨てて、ゴッドフリー子爵がつけてくれたユニスって名前で通ってるんだけどよー!そして、昔のアイデールスって町には苦い思いばかりあったから、今になって『それも消し去られることになるかも』って思うと、気分はこうも晴れやかになるとは予想通りに復讐っていいものなんだなー!」
「……な、なにがほしい…の?」
「は―ッ!さっそく本題を切り出しにってとこかー!よっぽどお前のコイツのことが大事ってもんだな、おい!アタイの父の家業がそうだったようにー!今でもオードリーとの感動な再会が目の前にあるっつうのに……でもそこもいいだろう!で、アタイからの要求は至って簡単なものだ!」
改まって、嗜虐性を隠そうともしない冷笑を浮かべた後、
「つまり、……お前、大事な姉ちゃんの命と引き換えに、アタイのために『死んでくれ』。それも、魔神アフォロメロを復活するための儀式の生贄として! 」
どす黒い感情が垣間見えたイリナからの底のしれない憎悪に満ちた表情と冷然たる視線だけが私の心の中へ届いていて、耳を疑うようなことを言われた気がした。
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