三十三話:急展開
翌日の聖エレオノール精霊術学院、一年B組の教室にて【歴史学】の2時限目:
「今日、中等学院ではまだ教えられてないはずの【レイクウッド独立戦争】の詳しい話について教える。テスト範囲に入ってるから十分に聞いて復習するように。じゃ、【ゼールドリッチ=ヴォールフガング帝国】という巨大な国のことは誰もが知ってるなー?このレイクウッド王国から東にある隣国で」
その国に関しては既に授業と本である程度、学んだことがあるんだけど、詳しい歴史のことはまだ勉強したことないので、【歴史学】のエドワード先生の教えようとしてることに真剣に聞き入ろうとする俺。
「今より376年も遡って…つまり、【聖神歴519年】の時に、このレイクウッド王国全体の領土はまだあの【ゼールドリッチ=ヴォールフガング帝国】の領内にある地域だった。だが、当時のゲーラド皇帝の圧政により、数の多くの地域は貧困状態を極め、それと同時に沢山の民が賄賂にまみれてる帝政の官僚や領主の不正統治と暴君っぷりによって生活環境が著しく困窮を極め、各地域での民の反発が強くなった頃には【レイクウッド地域革命軍】が形成された」
「先生、それは既に中等学院で習ったことある範囲なんですけど?」
誰かの女子生徒から指摘された様子だけど、構わずに続けるエドワード先生が次に解説しようとした内容は、
「まあ、話は最後まで聞くものだぞ、アイリーン嬢!じゃ、当時の帝国において、【レイクウッド地域】は帝国内でも一番の領土を誇る地域で、そこから革命軍が反乱でも起こし、独立運動を始めるとなれば黙るはずもなく、直ぐに【征伐粛清軍】を派遣していった帝国軍。当時、【レイクウッド地域革命軍】を率いていたのは我々の国史における最高級の英雄である、ローンハーッド・フォン・レイクウッドだった」
ふむ、ローンハーッドというのかぁ。あの頃の革命軍を率いていたのは。なんか粋な名前だな。
「当時、ただの男爵家の貴族だったローンハーッド殿は上流階級の殆どがやっていた不正な治政に対し、大いに憤怒を抱いていた。よって、いずれは愛する民たちと一体になって、彼らの不満や正当なる怒りに乗じて、反乱軍を起こし、帝国本国から独立を掲げた演説を行った、それも当時の頃の【ギスールメライネス】という首都にて、詰め所や兵舎にいた数多くの無防備な帝国兵を皆殺しだけじゃなくて、『民を先導して帝国支援者の貴族も家族も老人も分け隔てなく、彼らも皆殺しにした』のだ!」
「「「「「「「ーーーー!!?ば、バカおっしゃい、先生ー!そんなはずないですわ! ローンハーッド殿がそんなー」」」」」」
誰もが信じられないって顔してる女学院生の声が上がった。俺の隣の席にと後ろに座ってるジュディとオードリー二人を除けば。
「綺麗事だけやって通用できる時代じゃなかったんだぞ、皆の者!これは既に王国が数十年も前から公開した情報に則っての嘘偽りない国史であり【歴史学】のカリキュラムにも組み込まれてる真実な話だ。希望ある未来の王国民にそんな暴挙に出ないよう戒めとして教えるために、な」
「「「「「「「そ、そんな…………」」」」」」
「当時、いくら帝国憎しでやってのけた行動だったとはいえ、せめて子供、老人や何の罪もない、『黙々と邸宅に引きこもって旦那である領主の不正や圧政に対して無知のままの貴婦人達』の命だけを助ければ良かったものの、結局はただの無差別な蛮行を行っただけの集団ともいえた。だが、その後、いくつかの試行錯誤を経て低迷期を抜け出して、ローンハーッドが周辺の同盟国と共闘して、長い戦争の末にやっと帝国軍を当時の【ギスールメライネス】の大都市にいた本隊を打ち破って、解放したそれを新しく【クレアハーツ】という新しく命名された名前で首都として、【レイクウッド王国】が525年の時に建国された」
なるほど。つまり、このレイクウッド王国と帝国との間にそんな歴史があるってことなんだね。遥か昔のことに興味はあまりないけど、いずれはここで生活していく上なにかと役立ちそうな情報になるかもしれないので、歴史学の授業に関してはそこまで嫌いって訳じゃない。
「でも、これも昔のことだ。272年前、ここの首都クレアハーツの一画にて、遥か大昔に邪神と戦ったことある聖女エレオノールの手掌紋 が見つかった!だからなのか、その手掌紋が発見したここで、聖エレオノールを敬うためにここを新しい精霊学院を立てることにした。よって、一年半の月日を経てから623年になった時、聖エレオノール精霊術学院が設立され、その手掌紋が伝統として、代々の学院長が学院長室のとある厳重な『隠れた箇所』保管してあるとされた」
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昼休み:
「学院にそんな歴史まであるなんてびっくりしたですね!」
「おう、まさか邪神との決戦に臨んだことあった聖エレオノールの手掌紋がこの学院とそんな関係があるとは初耳だね、ジュディ!」
「うん!そういえば、昨日は私がジェームズと一緒に文芸部に入ったんだけど、オケウエーさんって今日は部活始めるんでしたっけ?」
「まあ、そんなところかな?なんか、先生にもっと単位をもらうために始めてもいいかな~って」
「その心意気、いいですねオケウエーさん!まだ氷竜も討伐してない『客』の立場なのに大聖霊様と訓練するんだけじゃなくて部活動も励もうとかさすがは『奇跡の南地男子』と呼ばれるだけありますよねー!」
「って、その変なあだ名、お前まで使ってくるかよー!?」
「あははは~。ごめんね、なんか親しみやすい呼び名だからついつい呼んじゃいました、えへへ…」
やっぱりジュディはジュディだった。その明るい性格故に、これからも多くの学院生徒と打ち明けて、交流関係を増やしていくムードメーカー的な存在となるだろう。
「ところで、オケウエーさんは今日部活を始めると言ってるんですけど、もう何にするか決まりましたか?」
「うん、大体はな。前に案内書も読んだり部室見て回ったことあるけど、俺が入部したい部活っていうのはオードリーと同じく『音楽部』とかかな。前に彼女がここでの『ダンス部活』はしないっていうような事言ってるんだけど、『音楽部』だけ真剣だって聞いたし、俺も彼女からヴァイオリンぐらい習おうかなって思ったよ。何となくそういう楽器は前々から本で読んで憧れてた頃ってあったから。ピアノより趣がありそうだしな」
「『音楽部』?それはいいですねー!もっと脚の動きを鍛えるフットワークが主な『ダンス部活』に参加しそうなオケウエーさんだったけど女子しかいない部活動に知り合いのオードリーもいないままではきついですよねー?だから、せめてオードリーさんのいる音楽部がいいってことなんですね」
そんなところだね。だって、中等学院の頃からずっと踊ってたらしいけど、ここ精霊術学院に入ってからオードリーはもう学び舎で踊ったりしないと前に打ち明けてくれたしな。王子の誘いを断ったからせめて学院でのそういう活動を控えるようにって。
「おう、そういうことだね、ジュディ。じゃ、オードリー!俺は音楽部に入りたいけど、一緒に行って俺を部員に紹介ー」
「………」
あれ。
後ろの席にいる彼女に振り向いて聞いてみたんだけど返事がないな。
何事かと思い、よく観察するとオードリーはなんか落ち込んでるような、何か問題を抱えそうな浮かない顔してる様子だ。
「おい、オードリー!聞こえてるかー?」
「………」
黙ったままに、ただ教科書を虚ろな目で見つめてるだけで俯いたまま俺の方を見ようとしない。ど、どうしちゃったんだよ?」
「おーいー!」
「オードリーさんーー!!」
もう待たないと言わんばかりに、隣に座ってるジュディはそんな力強い声音で呼びかけた。
「ー!?…え」
「オードリー…。どうしたの、心ここにあらずって感じで。なんか変なものでも食ったか?」
「オケウエー……」
「オードリーさん、深刻そうな顔…というか、なんか落ち込んでるっぽくも見えますし、何か問題でもあれば私達に相ー」
「悪い、私用事思い出したから先に行くわー!」
「っておいー!」
タタタ…………
「もう行っちゃったんですね…」
「……ああ…」
そういう顔のオードリー、始めて見た。だが、
「どうやら、今日は部活はなし、みたいだな。日を改めて伺うけど、今のところはいいかなって」
「あ、オケウエーさん!あなたもですかー!?」
「ああ……どうやら、俺にも用事ができてしまったみたいだ」
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オードリーの視点:
やっぱり私!昨夜はお姉様と会ってきたばかりだったけど、寮に戻って深夜だったという遅い時に寮に帰ってきたことはマティールダに怒られたけれど、今朝起きた時からなんか胸騒ぎがしたわ!
まるで息が詰まりそうな、頭が不安で一杯な感覚が授業一時限目が始まった時からずっと私の中に募っていくばかり………
タタタタ……
何事もないように念じながら、昼休みだけなのに一時的に寮へと忘れ物を取りに来たと寮母のマティールダに許可をとってから、私の自室へ入るとー
「ーー!?」
私のベッドの上に、一枚の封筒が置かれてることに気づいたわー!一体なんなのよーそれー!?
タタ...
慌てて封筒を手に取って開けてみると、
(お前のニールマリエーはもうワタシの手に落ちた)
(コイツを助けたければ王都国立公園の外れにある廃墟の第2区画の屋敷へ来い)
.........
「ーー!!?お、お姉様ーーー!?」
誰がこんな手紙ーー!?
この手書きーーー!?ま、まさか!
いけない!早くお姉様を助けに行かないとーー!!
ズゥーーーーーー!!!
いても立ってもいられなくなった私が【空中浮遊魔術】を発動して、部屋の窓から外へと飛び出て真っ直ぐに手紙に書いてあった通りの『廃墟の第2区画の屋敷』へと飛んだいった。
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オケウエーの視点:
「ええー!?オケウエーさんもですか!忘れ物を取りにって!?」
「ああ、そうだ!どうやら今朝の俺とオードリーはこの前の野外授業で俺らのチームが世界獣の剛力級数体も倒しちゃったことに対して舞い上がった気分のままに揃って教科書を忘れていってしまったみたいだ!」
「なら早く取りに行って!昼休みもすぐ終わって授業の時間が始まるしー!」
「はい!」
タタタタ……
すまん寮母さん!嘘ついてしまって!
お叱りは後で受けるから、今は早くオードリーの部屋へとー!
タタ…
そこかー!
「きゃああーーー!男の人ー!?って、フェクモ男子ー!?」
くっ!運が悪いことにあそこのオードリーの部屋があると聞いた廊下へ走っていく途中に誰かが自室のドアを開けて出てきたようだー!
「すまん!急用があるから友達の部屋へ行かないといけないんだ!もうすぐ済むから落ち着いて下さい!」
反応を待たずにオードリーが住むであろうあの壁から右側にある2番目の部屋へとドアを開け、中へ入ると、
「……一枚の封筒…?」
訝しんだ目をあれへと向けるとすぐに中身に書いてある手紙の内容を確認。
すると、
(お前のニールマリエーはもうワタシの手に落ちた)
(コイツを助けたければ王都国立公園の外れにある廃墟の第2区画の屋敷へ来い)
…………
「ーこれ!誘拐だな!オードリーのお姉さんがー!」
予感が的中したように、最悪な展開になっちまったようだな!
ふん?
あそこの開いてる窓を見てみれば、恐らくオードリーが【空中浮遊魔術】を使って、手紙に示された通りにあの『廃墟の第2区画の屋敷』へと向かってる最中だろう。
オードリーを追うとすると、はっと思い出して、
まずは部屋の周囲に『あるもの』がないかを確認しておく。
この手紙を置いていった人がいるとすれば、十中八九はこの寮に住んでる者であり、同じ学院生なのだろう。多分2年生の子なんだろうな。
なら、念のために備えるように『痕跡』を探してると、
「あ、あったー!」
ドアの近くにある隅だから発見しにくいけど、やっぱりそれを見つけられたことは大いに役立つ、
『この先の展開を予想してるならな』。
そう考えながら、俺は例の物を手に取って、目と鼻の先まで持ち上げて確認する。
「……うむ、確かにオードリーの金髪ではなく、銀髪の髪の毛一本だ」
この髪の毛こそが、オードリーの部屋へ乱入してきて手紙を置いていった犯人のものだ。
そして、恐らくはオードリーのお姉さんの誘拐に関わった一人でもあるのだろう。
よし!これで、『万が一のことになって』も作戦と対策が立てられるし、『切り札』にでもなれる。
そう。
街中にはいくつかの魔術行使探知機器がある。
でも、千載一遇...というか、機が熟するなら、ね…….
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