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失われた幸せを求めて

作者: sordmany

【オンヨアマーク】

 「この仮面を着ければ君の願いを叶えてくれる。」

恐る恐る仮面を着けて、僕は願った。

「失われた幸せを取り戻したい!」

その時、仮面に付けられた宝玉が瞬く間に輝き、僕は全身に力が漲るのを感じた。どこまでも走っていけそうな程に。

「君と仮面は一心同体だ。君は願いを叶える為に走るんだ。その名は仮面ランナー」

一時間前。僕、マタサブロウは、勤めているドリーム社から出た。

「今日は定時で帰れた。働き方改革のお陰か。今から向かえば、夕方には着けるはずだ。」

僕は大学の同級生ゴショガワラヒナギクさんを訪ねる予定でいた。彼女は、宣託市はずれの丘に一人で暮らしていた。田園に囲まれた場所にある為、電車を乗り継いでさらに最寄り駅から徒歩で三十分は歩く必要があった。駅まで走ろうと思った時、電話が鳴った。

「はい。」

電話の相手は、ドリーム社の上司ボランティーノさんだった。

「どうしました?」

ボランティーノさんは急用があるから来てほしいとだけ伝えて電話を切ってしまった。

「一体何だ?」

僕はヒナギクさんに心で謝りながら、ボランティーノさんがいる宣託支店に向かった。支店に入ると、たくさんのパソコンが並んでいた。今はあまり使われていないように見えた。奥に明かりが点いた部屋があり、そこに向かった。

「よく来た。待っていたよ。ミスターマタ」

ボランティーノさんは、僕が来たことに気づき、言った。

「一体何の用ですか?」

僕は文句を口にした。それよりも一つの物に目を奪われていた。

「既に君が見ている物、これが完成品だ。」

「この仮面が・・・」

ボランティーノさんは、ある極秘プロジェクトに取り組んでいた。そのプロジェクトは、ボランティーノさん個人だけで行われ、その事は社内でも噂になっていた。僕も耳にしていた程度だった。

「そうだ。我がボランティーノ家に伝わる宝玉、これは神のお告げを聴くことが出来た。祖父タランティーノが神のお告げを聴いたり、そのお告げを受けて夢世界の装置を発明したり、超常現象を扱えたりしたのは、全てこの宝玉があったからだと私は信じている。」

「あの宣託市中を巻き込んだ事件がすべてですか。」

「ああ。その宝玉を使用した私の極秘プロジェクト、それは人の願いを叶える神の御業を実現する事だ。」

「そんなこと、出来るんですか?」

「仮定では出来る。あとは、実証するだけだ。それを君に頼みたい。」

「なんで僕に?」

僕とボランティーノさんは社内でも時々会う程度だった。

「何となく、前に君を見てピンときた。」

「何となくって・・・。悪いですけど、僕だっていろいろと予定があるんですよ。今日も同級生で元同僚の彼女を訪ねる予定でしたし。」

「いいじゃないか。その彼女の為に願いを使っても構わない。」

「そう言われても急には、」

「何かプレゼントしたい、困り事を解決したいでも何でもいい。」

そこで、僕は少し考えてしまった。

【セット&蹴り出し】

僕が彼女と初めて会ったのは大学の構内だった。彼女は体が弱く、体調を崩しやすかった。その時も体調を崩していて、僕が保健所まで案内した。大学卒業後、ドリーム社の入社式で彼女と再会した時は僕も驚いた。僕たちは何かの縁だと思って連絡先を交換した。ある日、彼女の祖母ゴショガワラマフユさんが病で亡くなってしまった。その後、彼女はドリーム社を辞め、マフユさんの家で暮らすことにした。それが宣託市のはずれにある丘の家だった。僕は時折彼女に電話をした。彼女の体調を確認する為で、昨晩もそれで電話をした。どうも体調が優れないらしかった。彼女には人を幸せにする不思議な魅力があった。だからこそ、彼女は元気でいてもらわないと困るんだ。

「僕は、彼女の元気を取り戻したいです。」

ボランティーノさんは、大きく頷いた。そして、冒頭に戻る。

「この仮面を着ければ君の願いを叶えてくれる。」

恐る恐る仮面を着けて、僕は願った。

「失われた幸せを取り戻したい!」

その時、仮面に付けられた宝玉が瞬く間に輝き、僕は全身に力が漲るのを感じた。どこまでも走っていけそうな程に。

「君と仮面は一心同体だ。君は願いを叶える為に走るんだ。その名は仮面ランナー」

「仮面ランナー・・・?」

「そうだ。強そうだろう。実際強い。その宝玉が力を貸して超人的な力を発揮できる。」

その時、仮面から発せられる何かが僕を覆う感覚があった。

「一度出発したら、願いを叶えるまで止まることは出来なくなる。」

「後戻りはできないというわけか。面白い。」

僕はゆっくりと支店の外に向かった。ボランティーノさんは見送るためついて来た。僕は地図アプリで方向を確認した。

「あっちか。」

「極秘プロジェクト完成の為に必ず帰ってきてくれ。」

僕は頷くと、足を踏み出した。

【加速】

 僕はいつもより足が速くなったことに驚いた。このまま走れば、日暮れ過ぎには着けるだろう。それにしても、周りの視線が気になった。過ぎていく人たちが僕を不思議そうに見るのが走りながらでも分かった。僕は人通りの少ない方に行きたかった。線路沿いの道は人通りが少なくて一安心した。気づくと、電車が横から通り過ぎて行った。この時、驚くことが起こった。僕を追い越したはずの電車が徐々に遅くなっていった。電車と並走した後、いつの間にか僕が電車を追い抜いていた。もう直ぐ次の駅に着くから電車が減速しているのか、と思ったが、そうではなかった。周りの景色が電車に乗っている時と同じように流れていた。僕は電車より速くなっていた。このままでは人にぶつかって大けがを負わせてしまうかもしれない、と思い、咄嗟に僕はジャンプした。

「とお!」

僕は、フェンスを越えて線路内に侵入した。今の僕は電車より速かったので、轢かれる心配はなかった。僕は駅に差し掛かった。前に停車する電車があったのでジャンプして飛び越えた。僕は速度を上げるつもりはなくても足はどんどん速度を上げた。あっという間に宣託市のはずれの丘が見えてきた。僕はどうやって止まるのか、本当に止まるのか不安だったけど、一つの家にぶつかる寸前で止まった。そこは彼女の家だった。大きなリンゴの樹がある庭に僕は倒れた。まだ夕方で、オレンジ色の空が目に入った。仮面の力で不思議と体に疲れはなかった。

(仮面?そういえば、この姿じゃ彼女に会えないじゃないか!)

そう思った僕は、仮面を外そうとしたが外れなかった。僕は怖くなって無理やり仮面を外そうとした。その時、仮面から声が聞こえた。

(そんなことをしてもむだだ。)

「誰だ!?」

(俺はバリエルだった者だ。仮面に付けられた宝玉は、バリエルの分身といえる。それが俺だ。)

「意味が分からない。とにかくこの仮面を外してくれ!」

(それなら、なおさら俺のいうことを聞いてもらう。)

「どういうことだ!」

(むかし、バリエルは消滅するとき石化した。その一部を人間が持ち帰った。それが俺だ。)

「どうしたいんだ?」

(俺はもとの場所にもどりたい。それだけだ。)

「そうすれば仮面が外れるんだな?」

(そうだ。もう少しだけ体を借りたい。)

「・・・仕方ないな。もう少しだけだぞ。」

僕は立ち上がった。すると、目の前にリンゴが落ちてきた。僕は喉が渇いていた。大きなリンゴの樹を見て、お辞儀をした。

「有難うございます。頂きます。」

僕はリンゴを一口齧った。甘い果汁が口を潤した。

「回復した。今回は精神が。」

(人間もたいへんだな。)

「方向はどっちだ?」

(あっちだ。)

宝玉から光が伸びた。僕は、屈伸をして、足を踏み出した。

【ゴール】

 それから、僕は仮面の射す光の方に向かって走った。山を越え、谷を越えた。目の前に海が現れた。

「おい、どうするんだ?」

(何も問題ない。そのまま走れ。)

「走れって、水の上を走れるわけがない!僕は人間だぞ!」

(今のお前は、仮面ランナーだ。)

「待て・・・」

僕の意思に反して、足は速度を上げた。海に差し掛かった。僕は思わず目を閉じた。バランスを崩しかけたので、目を開けた。

「水の上を走ってる。走ってるぞ!」

(だから、問題ないといっただろうが。)

「すごい!このまま一気に行こう!」

(落ち込んだり、元気になったり、いそがしいな。)

僕は怖いものが苦手で、夜の海は真っ暗で物凄く怖かった。眠かったけど、寝たら海に落ちてしまうので、寝るわけにいかなかった。半分意識を失いかけながらも、僕は走り続けることができた。寝かける度に、仮面が声をかけてきたからだ。

(お前、ここで死んでもいいのか。彼女に二度と会えなくなってもいいのか。)

僕は仮面のせいで彼女に会えなくなったのだが、この時は仮面のお陰で助かった。そして、ついに海を越えた。すでに朝になっていた。

「やった…」

(よく頑張った。あと半分もがんばれ。)

「・・・」

僕は絶句した。それからも、無言で走り続けた。人にぶつからないように海沿いを走った。ほとんど意識はなかった。次に意識を取り戻したのは、仮面の声が聞いた時だった。

(生きてるか。)

「・・・あっ、今生き返った。」

(良かった。あと少しだ。)

「ラストスパートか。」

(そうだ。最後に言うことがある。)

僕は別れの挨拶をすると思っていた。

(帰りはどうするんだ?)

僕は予想外の言葉にショックを受けた。

(着いたあと、仮面が外れる。そしたら、お前はただの人間だ。)

僕ははっとした。帰りも同じように帰れると思っていたからだ。僕は言いようの無い怒りで満ち溢れた。

(がんばれよ。)

僕は限界を超えた疲労で怒りを制御できなかった。そして、見えてきた遺跡を目掛けてジャンプしたあとキックを入れた。

「やあ!!」

崩れ落ちる遺跡の中を僕は通り抜けた。その時、宝玉の光は消えた。

(よくやってくれた。俺の真の願いはこの遺跡を破壊することだった。帰りは問題ない。さらばだ。)

そう聞こえた気がした後、仮面が外れた。その後、光の巨人が僕に手を差し伸べてきた気がした。気づいた時、僕は彼女の家の前にいた。

「あれ?どうして…?」

家の中から、彼女が出てきた。

「あっ、サブロウさん。」

「いやあ…遅れてごめん。もう大丈夫なの?」

「はい。それより、中にどうぞ。」

僕は彼女の家に上がった。

「座ってて。紅茶を用意するから。」

僕は座り、部屋を見た。ソファーの上に猫のぬいぐるみが見えた。

「これ、君が作ったの?」

「そう。」

「すごいな。」

「そんなことないよ。はい。庭のリンゴで作ったアップルティー、良かったら飲んで。」

「ありがとう。おいしい。」

「良かった。」

「元気になってて嬉しいよ。」

「こちらこそ来てくれてうれしい。あら、頭に何かついてる。石?」

「あ、それは…あ!今日は何日?」

「今日は12日。」

「良かった。休みだ。」

「どうしたの?」

「あ、いや、そうだ、上司に伝えることがあったんだ。それじゃ、お邪魔しました。」

僕は慌てて彼女の家を出た。僕は宣託支店に着くと、ボランティーノさんに声をかけた。

「ボランティーノさん、すみません。仮面を失くしてしまいました。」

「いいんだ。これでやっと極秘プロジェクトは完成した。」

ボランティーノさんは映像を僕に見せた。

「これは…!」

それは、世界地図で一時間ごとに僕が移動した地点を記録したものだった。行きもかなりの速さで進んでいたが、帰りはその何倍も速かった。

「昔、祖父タランティーノが見たという光の巨人。恐らく君は彼に連れられて帰ってきた。宝玉が言っていた遺跡に眠るという光の巨人、レイに。とにもかくにも、君に頼んで良かった。僕では出来る気がしなかったから。これはお礼のしるしだ。」

僕は、彼女に電話をかけた。

「あ、ヒナギクさん。また行ってもいいかな?」

「いいよ。私もまた来てほしいと思ってたところで。」

「良かった。お土産を持っていくので、お楽しみに。じゃあまた。」

僕はボランティーノさんにもらった人形を鞄に入れた。


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