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9・盟約

 カームは何やら思案していたのか、指を顎に当てたまま呟いた。


「もしこれがマダラスナヘビの毒なら、ガマ石が効くかもしれない」

「ガマ石?」

「俺の知り合いに、養蛙ようあ農家がいて聞いた話だけど、時折、カエルに茶色い石ができることがあるらしい。それは宝石のように加工して、装飾品として売るのが一般的だけど、トープルカリア地域のスナヘビ系の毒に対して、強力な解毒効果も期待できる。だから頼めば、ガマ石を送ってもらうことはできるけど、その農家が住んでいるのも国の端だからな。取り寄せるまでに少し時間がかかるし、それにもし効果が無ければ、別の方法を見つけなければいけない。せめて、毒の種類だけでも確定させる方法があればな……」


 考え込むカームに、フェアルは声を潜めて、聞いた。


「そのガマ石って、カエルの頭に、時折できるレアな石のようなもので、おいしくはないけれど、なめることができたりする?」

「なんだよ。やけに詳しいな」

「だって先ほど、アドバーグ様が喜んでいたから……」


 自然と、アドバーグに注目が集まる。

 不穏な気配に、アドバーグは視線をさまよわせた。


『な、なんだ、おまえたち……』


 カームが重々しい足取りで近づいてくる。

 野生の本能か、危険を察したアドバーグは動揺して叫んだ。


『まっ、待て! まさか貴様、今までの忠誠を忘れて、ワシの趣味、至福の時間を奪うつもりだな! たとえ石が必要だったとしても、ワシから奪うことはないであろう、ワシは拒否する! ワシは王子だ! ワシは偉い!』


 カームは低く威圧的な声でつぶやく。


「なんかわめいているけど。俺は言っていることがよくわからないから、取るぞ」

『おいっ! 絶対残酷な言葉を吐いておるだろ! 老齢の王子が喉を詰まらせて死んだらどう責任を取るつもりだ!!』


 アドバーグは顔を引っ込めると、全身の針を力のあらん限り逆立て、防衛とも威嚇ともとれる姿になったが、カームは臆することなく近づいてくる。


『おい、フェアル! 木のジジイ! 何とかしろ! おまえたちの愛するワシが、不遜な者によって窮地に追いやられておる!』


 フェアルも老木も意思表示として、妙に穏やかな様子で見守っていた。

 カームはカバンから取り出した、小動物の針など、ものともしないようないかついグローブをつけると、その手をアドバーグに向けて、ゆっくりと下ろしていく。


『ヒィィィ! ワシは王子だ! 由緒あるトープルカリアハリネズミの王子であるぞ!』


 アドバーグがわめくこと、数分後。

 カームによってむしりとられたガマ石が、水辺に投げこまれる。

 効果は明らかだった。

 よどんだ水面が、ほのかに澄んでくる。


『水から立ちのぼってくる空気が、少し変わったな』


 老木が枝葉を揺らしながら、嬉しそうにつぶやくのを聞いて、フェアルは梢を見上げた。


「この木も、喜んでいるみたい」


 カームは水面の変化を見逃さないように目を細めたまま、小さく頷く。


「毒素を分解するときに、少し白濁した色の変化があるから、やっぱりマダラスナヘビだな。よし、早速城に戻って、ガマ石を手配するぞ」


 そう言いながらも、カームは睨みつけるように水面から目を離さない。


「どうかしたの?」


 カームはその場を動かず、思案したまま言う。


「ガマ石が届けば、浄化作業を進められる。ほかにもいくつか、試してみたい方法があるけれど、その準備をするまでの間に、侵入者が毒の排水を運び続ければ、いつまでたっても森が汚染されたままだ。見張りを増やすこともできるけど、完全には防げないし、証拠がなければキーリ領主に文句を言ったところで、しらばっくれるだろうしな」

『なるほど』


 老木は人の言語も理解できるらしく、カームの言葉に反応した。


『我々は移動を苦手とするが、防衛ならば得意なところ。他の木々にも語りかけ、毒を持ち込む人の子らが来る方角、日の昇る側からの侵入に対し、草木の様子を変えて、迷うように仕向けよう。それではどうだ』


「そんなことができるのですね!」


 フェアルが老樹の提案を伝えると、カームはフェアルに詰め寄るように、肩をつかんだ。


「本当か?」


 カームの気迫に、フェアルは少し自信なさげに頷く。


「う、うん。そう言ってるの」


 それを聞くと、カームはためらいなくフェアルを抱きしめた。

 突然の出来事に、フェアルの思考は止まったが、カームは腕に込める力をゆるめない。

 そして、少年のように明るい声を上げた。


「やったぞフェアル! もう毒が運び込まれることで、森の植物が弱ったり、動物も死んだりしない。おまえのおかげだよ!」


 カームは身体を離すと、満面の笑顔でフェアルを見つめた。

 その相手が、かわいそうになるほど顔を紅潮させて震えていることに気づき、一気に表情が固まる。


「え、あ……」


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