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2・家族との確執

 フェアルの父は10年前と変わらず、貴族らしく多少は値の張る、しかし下品な色使いの服を身につけていて、貧しい旅人風の若者であるカームを見ると、社会的に地位の低い相手に対してよくするように、横柄に指さした。


「おい、貴様! 貧乏な旅人が由緒ある我が敷地内の宿泊施設を利用した恩を忘れ、我が家の恥を外に連れ出すとはどういうつもりだ!」


 彼の背後にいたフェアルの母も夫に負けず、くすんだ肌に似合わない鮮やかなバラ色のドレスを身につけ、美的感覚などお構いなしにやたらと着飾っている。

 母は宝石だらけの指をフェアルの妹に伸ばして、娘を気づかう母親を演出しながらも、口調は皮肉に満ちていた。


「まぁ、あなた。そんな大声を出すのは控えてください」


 神経質な母は夫の無駄にでかい声が、先ほどからちらほら現れ始めた野次馬の宿泊客に、悪い印象を与える可能性ばかりを気にしてしている。


「アレのことを、うちの宿に泊めているお客様に知られでもしたら、我が家のイメージが……」

「うるさい! 人目を気にするくらいなら、あんな姿の化け物が出られないように、お前が厳重に管理しておけばよかったはずだ!」

「まぁ、城の管理を女がするのは嫌だと、くだらないことをこだわっていたのは誰かしら」

「また私のせいにするのか! いつもそうだ、自分は何もしないくせに、文句ばかり言いやがって!」


 相変わらず軽蔑しあっている両親は、八つ当たりする何かを探すように視線をさまよわせ、それをカームで止めた。

 フェアルは人々の注目を浴びる恐怖も忘れ、思わず声を出していた。


「お父様、お母様、申し訳ありません。私が勝手に出、」


 フェアルの言葉を遮り、カームは颯爽と父の前に跪いた。

 その優雅な所作と雰囲気に、周りから話し声が消える。

 自然と注目が集まった。


「キーリ領主様」


 カームはよく響く声で告げる。


「お嬢様のいらっしゃった部屋の錠が開いていましたので、ご城主様と直接お話する機会を設けていただこうと、勝手ながら私が頼んでお連れいたしました。しかし、ご城主様たちの事情まで考えが至らず、申し訳ありません」

「ふん。力のない旅人風情が気取ったところで、なんだというのだ」


 父の偉そうな言い方にも、カームは涼しい表情で続ける。


「お願いがございます。お嬢様を私の付き人として預かりたいのです」


 それを聞いた母親の目の色は、うまい話に食いつくように様変わりした。


「まぁ、それは本当? どこかに処分してもらうにしても、モノがモノですから……嫌な噂が立つのではと迷惑しておりましたので、旅人さんがどこかへ持って行ってくれるのなら、助かったわ! ねぇ、あなた」

「ふん。そう簡単にはいかないだろう」


 汚物を回収してもらえるといった喜び方の母に対し、自分の思い通りにしないと気が済まない父は、カームを値踏みするようにじろじろと見回す。


「それに娘を預かるって、君。ソレは身勝手で化け物になっために、割と金回りのいい平民との婚約が決まっていたのを破談させた、とんでもない親不孝なのだよ。つまりだね。金銭的に、我が家にはとてつもない被害が出ていて迷惑している。私の優しさから、殺さずに閉じ込めておいたし、人様に呪いがうつらないように気も使った。一日一度は食事を運んでやるために、使用人の手間やら金銭もずいぶんかけてやった……10年間もだ! 私だって、失った結納金とまでは言わないが……見世物小屋に引き渡す程度の心付けは用意してもらう権利があると思うのだが、どう思う? まぁ、あんたには金、ないだろうがね。まだ若いみたいだし」


 フェアルの父が言い終えた直後、その腹に札束が投げつけられた。

 すぐには理解できなかったが、父は起こったことに気づくと、唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。


「貴様! 私はこの地方を治めるキーリ領主……っ!」


 父は言いながらも、足元に落ちた札束に気づくと、言葉を失う。周囲にいた侍女や妹、母も、その厚みに息をのみ、遠巻きに見ていた野次馬たちもどよめいた。

 父は金に飛びつくように、地面にあさましく這いつくばる。

 カームからは先ほどまでの紳士的な様相は消え、侮蔑を隠そうともせずに、父を見下ろしている。


「フェアルは見世物小屋に行くわけじゃない。俺の付き人として雇う。つまり、彼女をこれ以上侮辱するのなら、それはオッグス家に対する侮辱とみなす」

「オッグス家!」


 父は札束を握りしめ、あからさまにうろたえた。


「まさか、我が領土と禁忌の森を隔てて接する、オッグス領の長男か? あの、やり手だと有名な……」

「フェアル、来い」


 カームは返事もせず、その場を去る。

 フェアルはその後を追いかけたが、フェアルの家族の興味はすでに、父の手の中にある金の分け前や使い道の話へとうつり、二人を気に留める様子もなかった。


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