眠り姫で十三女なボッチ令嬢と友達に
「それでは、さっそくですが~、校庭に移動していただきますね~」
ちなみに制服は、そのまま戦闘用になる実戦向きのものだ。
移動するクラスメイトたちの最後尾を、俺はついていくことにした。
……俺の斜め後ろにカナタも続く。
「転校してきたばかりの俺が言うのもなんだが……苦労しているようだな」
「わたし……遅刻魔だから……それに魔法も上手く使えないし……夢の中で女の子と一緒に生活してるなんて変なこと言ってるから周りから避けられてるし……」
自嘲するように微笑む。
しかし、その表情はどこか寂しげだ。
「……その夢の話は、本当なのか?」
「えっ?」
「まさか遅刻の理由のために適当なことを言っている……ってわけではないだろ?」
「う、うん。もちろんだよ。わたし、嘘つくの嫌いだし……」
その表情は嘘を言っているようには見えない。
本当にカナタは夢の中で誰かと一緒に生活しているのだろうか?
「……じゃあ、本当に女の子と一緒に生活しているのか?」
「……うん。わたしは毎日、女の子と一緒に生活してるの。本当にただの夢なのかもしれないけど……毎晩、ちゃんと連続した世界だし……」
そんな症例はあるのかどうかわからないが、まぁ、保留しておこう。
深く関わるべきではないかもしれない。でも、妙に気になる。
「ミツミ家ということは、かなりの家柄だろ?」
この国で『六代貴族』と言えば有名だ。
それなのに、なぜカナタは周りから侮られているのか。
「……わたし、十三女だから……」
「……そんなに姉妹がいるのか?」
「うん……七男十三女。わたしは末娘だし、眠ってばかりいるから周りから疎んじられてるし……」
なかなか貴族の世界も厄介そうだ。
俺のような山村育ちとは住む世界が違う。
「……ごめんね、こんなこと話されても迷惑だよね……」
「いや、特に、そんなことはないが……」
こちらの沈黙を変なふうに解釈したのか、謝ってくる。
本当に自信がないようだ。でも、悪い人間ではないということは伝わってくる。
「まあ、ともかく隣の席なんだし。これからよろしくな。俺、この学園で友達を作ることが目的だから。よかったら友達になってほしい」
「えっ……? 友達?」
俺の言葉を理解できないといういうように、キョトンと首を傾げる。
そんなことを言われるということが理解できないといった表情だ。
「ああ、友達だ。俺としては家柄を鼻にかける貴族よりも、よほどカナタのほうが好ましいと思える。それともカナタも庶民の俺と友達になるのは嫌か?」
「ううん、そんなことない! でも、あたしなんかと友達になったらヤナギくんが苦労すると思う。わたし、クラスメイトに嫌われてるし……」
いちいちこちらにまで気づかいをしてくれるのだから、本当に心優しいのだろう。
こんな思いやりのある生徒なのに孤立してるだなんて、かわいそうだ。
「そんなこと気にするな。俺はカナタと友達になりたんだ。ほかの奴らなんて関係ない。そもそも貴族主義に染まった奴たちと、いきなり友達になろうとは思えないからな」
「ほ、本当に……わたしでいいの?」
「ああ、むしろ、カナタがいいんだ! 俺と友達になってくれ!」
真っ直ぐに思いを伝えると、カナタは顔をみるみるうちに赤くしていった。
「え、あ、う……」
そして、妙な声を出して――モジモジと両手の指を体の前で絡みつかせる。
なんだろう、この反応は? これまで出会ったことのないタイプだ。
「まあ……無理にとは言わないが……」
師匠以外の異性とこれまで交流する機会はほとんどなかったので、どうにもコミュニケーションの仕方がわからない。戦場にいたのは、ほとんどが年上だったし。
「ごめん、いきなり友達になってくれだなんて無遠慮すぎたな」
「う、ううんっ! そんなことないよっ! わ、わたしでよければ友達になって……! むしろ、こっちからお願いしたいぐらいだよっ……!」
こちらの言葉にかぶせるように慌ててカナタは早口でまくしたててきた。
なんか本当に無理をさせているような気がするが……ま、いいか。
「ありがとう。それじゃ、これからよろしく頼む」
「う、うんっ……! よろしくねっ!」
俺は右手のひらを開いた状態で、カナタに手を伸ばした。
「せっかくだし握手しておくか」
俺たちは戦場が一緒になった兵士たちと握手をする習慣があった。
それをしておけば、これまで会ったことのない人物同士でも不思議と連帯感が芽生えるのだ。
「え、あ、う、うんっ……」
カナタは再び顔を赤くしながらも、俺の伸ばした手に自らの右手を伸ばした。
その指にこちらの指を絡ませて、握っていく。
「ひゃっ、ヤナギくんの指、すごく硬くてゴツゴツしてるっ……」
剣を握り続けてきた俺の手はかなり武骨なものになっていた。
一方で、カナタの指と手のひらの感触は、これまで戦場で握手してきたどんな兵士のものよりも小さくて、細くて、柔らかい。あと、温かい。
「まあ、ともかく、これからよろしくな」
「う、うんっ、よろしくねっ……」
軽くシェイクハンドしてから、指を離す。
誰が考えたのか知らないが、この握手というのは、やはり人の心を近づける作用がある。
もっとも、俺がこれまで握手してきた人間は――ほとんど戦死してしまったのだが。
「それじゃ、急ぐか。ちょっと遅れちまったからな」
「あっ、そうだねっ、授業には遅刻しないようにしないとっ……!」
ほかのクラスメイトたちからだいぶ遅れてしまった俺たちは、駆け足で校庭に向かうのだった。
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