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最前線から学園へ

新作です! よろしくお願いします!


「おまえには学園に通ってもらう」



 ノヲヨル王国の学園要塞都市ラワルの執務室に呼び出された俺を待っていたのは、師匠からの思いがけない指示だった。


「……学園ですか?」


 つい、聞き返してしまうほどに、その指示は信じがたいものだった。

 だって、俺は――。


「まあ待て。おまえの言いたいことはよくわかる。戦場の最前線にいたはずなのになぜ目が覚めたらラワルの病院にいて、一年も時間が過ぎていて、いきなりこんな指示を受けた。その混乱はもっともである」


 目の前の元師団長であり現在はゲオルア学園の学園長であり俺の剣と魔法の師匠であるソノン・ラザンは、長い流麗な金髪を靡かせながら不敵な笑みを浮かべた。


 彼女の年齢は二十四のまま永遠に止まっているはずだ。

 それが最高のパフォーマンスを出せる年齢だから、自ら齢の進行を止めたらしい。

 『覇王の魔女』――それが、先の大戦で恐れられた彼女の通り名。


「あの戦いは多大な犠牲を払ったものの我々の勝利で終わった。そして、おまえは魔剣の力を使いすぎた。ゆえに――言うのだ。学園に通え、と」


 短い言葉の中で、師匠は説明をしてくる。

 最後の戦いで窮地に陥った仲間を救うために、俺は全力を出した。

 それが『力を使いすぎた』ということだろう。


「……ひとつ教えてください。俺のいた戦場は……あのトサカミ山地での戦いはどうなったんですか?」


 国境沿いでのバシティア帝国軍主力との山岳戦。

 優勢劣勢が瞬時に入れ替わる、悪夢のような戦場。

 俺は友軍を救うために突出したのだが――。


「……どうしても聞きたいか?」


 それは言外に聞くなと言うことだ。

 即ち、ろくでもない結果になったということだ。

 それでも――。


「聞かせてください。自分の関わった戦場がどうなったのか、それを聞かずに済ますほど俺は無責任にはなりたくありません」


「そうか。まぁ……おまえは、そういう人間だからな。わかった。心して聞け。悪い結果だということは、もうわかっているようだが――」


 師匠は嘆息すると、俺のほうを見た。

 さっきまでの親しげな表情から、幾多の戦場を指揮してきた司令官の顔へと変わる。


「おまえ以外、みんな死んだ」

「……っ!」


 覚悟していたこととはいえ、衝撃が走った。

 俺が生き残っていることから、少しは友軍が生き残っていると思ったのだが。


「おまえはよくやった。おまえが気に病むことはなにひとつない。あの場に誰がいても防げなかったのだ」


 俺から目を逸らさないまま、師匠は戦闘経過の詳細を語り始めた。


「おまえが突出したおかげで味方は救われた。一時は完全に優勢となった。だが、そこで奴が現れた」

「……奴?」


「ああ。バシティアの切り札。ジェノサイド・ドール・零式」

「――っ!」


 人口的劣勢を覆すためにバシティア帝国が作りだした軍事用機械人形。

 それが、ジェノサイド・ドール・プロジェクト。


「これまでも機械人形たちは現れたが、今回の敵は別格だった。それでもおまえは戦い続け――魔法的リミットを外した。その解除信号をわたしに発したあと、おまえは三日三晩修羅の戦いを続けたようだな」


 リミットを外すと、自我も記憶も失われる。

 ……そうか。俺は三日間も戦い続けていたのか……。


「おまえが零式に足止めされている間に帝国はさらに戦力を増強して我が軍は皆殺しにされた。だから、おまえのせいではない」


 そうは言われても、結果として俺は友軍を救うことができなかった。


 俺のことを気にかけてくれていた隊長も、俺に対して臆することなく接してくれた同期も、俺のことを慕ってくれていた部下も――みんな、もう、この世にいないのだ。


「気に病むな。これが戦場の常だ。わたしもこれまでの戦いで多くの仲間を失ってきた。……しばらくは戦いという悪夢からは逃れられる。おまえが命がけで零式を倒してくれたからな」


 俺が生き残っているということは――そういうことだろう。

 最後の戦いで、勝利だけは収めることはできたことは幸いだ。


「おまえが勝たなかったら、この国どころか世界が滅んでいた可能性すらある。だから、おまえが助かってくれてよかった。このままおまえに借りを作りっ放しでは、わたしも夢見が悪かったのでな。この四年間、本当にお疲れ様だった。心から感謝する」


 大戦が始まったのは四年前。


 俺は、その最初の一週間目から戦い続けてきた。

 敵に最初に侵攻された村の生き残りとして。


 どうにか逃げ伸びた俺は、敵軍を迎撃すべく進撃中だった軍に拾われた。

 その前線指揮官が師匠だったのだ。


「あの十三歳の少年が、よくもまぁ、ここまで強くなったものだ。だが、わたしは思うのだ。あのときおまえを拾ったことで、おまえにさらなる過酷な運命を課してしまったのではないかとな」


「とんでもないです。俺は村のみんなの仇を討ちたかった。あのまま後方に無理やり送られたとしても、俺はきっと戦場に戻っていたと思います」


 あのとき軍に師匠がいたことで、俺は魔術と剣術の師匠を得ることができた。

 それだけではない。人生の先輩としても、師匠は俺にさまざまなことを教えてくれた。

 俺にとっては、第二の親といっていいだろう。


「おまえには休養がてら学園で青春を送ってほしい。それがわたしの願いでもある。そして、頃合いを見て軍に戻ってほしい。それまでに、わたしは政敵たちを潰しておく。わたしたちが前線で戦っている間に本営のクズどもは無駄に宮中に勢力を伸ばしたからな」


「……まだ本営の連中は、軍に対して統制を強めているのですか?」

「うむ。先の大戦で国を救った軍の連中は冷や飯を食わされている。無論、わたしもな。ま、これ以上になると前線で好き放題戦えなくなるから、いいのだが」


 最前線で戦ってきたからこそ、この国の上層部の腐敗や家柄主義というものは骨身に沁みてわかっている。上の連中は前線で戦っている俺たちに対して支援をしてくれないどころか妨害すらしてくるようなロクでもない連中だった。


「申し訳ないです、師匠。面倒な役ばかり押しつけてしまって」

「それはわたしの台詞だ。先の戦いでは途中からおまえに頼りっきりだったからな。戦争のあとの面倒な政争は、せめてわたしに任せてくれ」

「頼みます」


 俺としても、政治に関わる気にはなれない。脂ぎった大人たちと料亭でネチナチした腹の探り合いをしているぐらいだったら、体を動かしていたほうがいい。


「学園の生徒たちは次世代を担うエリートだ。おまえが入学することで、彼ら彼女たちに良い影響を与えてほしい。現在の政治家どもが国を牛耳るゴミみたいな状況にならないためにもな。こんな政治状況でなければ、先の戦いもあそこまでこじれることはなかったはずなのだ」


「なるほど」


 今の話で俺の隠れた任務もわかった。

 俺が学園に入ることで、未来を少しずつでもよりよくしていこうということだろう。


「おまえは(さと)くて助かる。わたしは腐った大人たちを排除及び再教育する。おまえは学園の気風を変えていってくれ。とはいっても、普通に生活して友達を作り今使える身体強化の魔法を駆使して授業を受けてくれればいい。魔剣を発動できなくとも同年代相手なら余裕だろう。魔法を撃つことは無理でも身体強化系の魔法なら使えるはずだ」


「ええ、使える魔法はそんな感じですね。内在系は大丈夫かと」


 自分の魔法のことは自分が一番よく分かっている。

 零式との戦いの後遺症で魔法発動に影響を受けているが、肉体強化などの内在系魔法は使えるようだ。それを外から一瞬で見抜くのはさすが師匠だった。


「魔剣がなくとも剣術だけでおまえは古今無双の英雄レベルだからな。まぁ、あまり目立ちすぎるとおまえが英雄だとバレてしまう。気をつけて生活してくれ」


「はい。俺が『最前線の羅刹』だとバレると友達を作りにくくなりますしね。伏せます」


 俺はずっと最前線で戦い続けていたので、王都に行くことはなかった。

 俺の顔を知っているのは、師匠や前線の連中だけだったのだ。

 その前線のみんなは、死んでしまった。


「あまり深く考えず、まずは学園での青春生活を楽しんでくれ。それがこの国を改革する第一歩となるはずだ」


 そんなわけで、俺は休養と青春と改革を兼ねて――名門貴族たちの通うゲオルア学園に転校生として入学することになったのだった。


作品を読んでいただき感謝申し上げます。


面白そう・続きを読みたいと思っていただけましたら、ページ下にある☆を★に変えて評価していただけたらありがたいです。


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