うちのネコ、アーモンド
家紋 武範様主催【夢幻企画】の参加小説です。
「これ、うちのネコなんだけどさ」
スマホの待ち受けを友人に見せる。
すると、ネコ好きの女の子なんかはきゃあきゃあ言って喜ぶ。
「美人さんだねー!」
「かわいい! オス? メス?」
「綺麗な白ネコじゃん」
そう、みんな可愛いネコだと言ってくれる。
時には、メスであることを期待されたりする。
だけど。
僕がこの写真を見ると、つり目の茶色い目をした白髪の男の子が見えるんだ。
ズボンからはみ出た尻尾まで真っ白の美少年が、僕を睨みつけているんだ。
「ただいま。アーモンド」
「リョータ、兄さまのことは何か分かったか?」
独り暮らしをしている部屋に帰れば、うちのネコが出迎えてくれる。
ただしそれは、普通のネコがする、ご主人さまだという喜びのためではなく、あるいはナワバリ争いのための威嚇のためでもなく、事務的な確認のためだ。
アーモンドをアパートの裏手で拾ったときに、約束させられたそれを、毎日確認しにくる。
「いや、今日もシアンという白ネコは見つからなかったよ」
アーモンドは露骨にがっかり肩を落としたあと、人間のそれと同じ耳をわずかに揺らして、こちらをねめつける。
開いた口から覗くのは、鋭い犬歯。
「だから、白ネコじゃないと言っておろう! 我らが白虎族を、そこらの家畜化した者共と一緒にするなと、何度言ったら分かるのだ!」
「ああうん、でも人間にはネコの姿に見える可能性が高いんだろう?」
「そうだろうな。ここには、卑しくも尾のない者ばかりだ。賢い兄さまのことだ、きっとこれだけ探しても見つからないのは、巧妙に擬態なさっているからに違いない」
アーモンドは、兄を探している。
もうずっと前に、里に尾のない者……人間が一人やって来て、兄を拐っていってしまったのだとか。
兄は、白い髪に美しい青い目をしていて、時期族長の証である、黒と白の尾を持つらしい。
学生でできる範囲の情報収集はしたけれど、そんな特徴をしたネコは見つからなかったし、シアンという名の人も見つからなかった。
「ご飯にするからどいてくれる?」
「馬鹿者。それならそうと言え。我は腹が減った。今日も兄さまを探したのに、どこにもいなかったのだ。一族に伝わる遠吠えを試しても、応えはなかった」
しょんぼりする美少年はかわいいけれど、僕もアーモンドを愛でているばかりでは、ご飯の支度が進まない。
それに、アーモンドは大変な気難し屋で、僕が撫でようと手を伸ばしただけで――。
「誇り高き白虎族に気安く触れるな。我らは家畜化されたそれとは違う」
ほら、叩き落とされた。
アーモンドの言うことは大半よく分からないけど、家族がいなくなるって考えたこともないくらいつらいから、できるだけ応援はしてあげたい。
「だいたい、こちらの世界に来れば、すべての尾の無き者に正体がバレぬはずではなかったのか。あの嘘つき呪術師め。帰ったら生かしてはおかぬ」
今日は何にしようか。
きっとアーモンドは肉じゃないと文句を言うから、それは確定として。
あまり濃い味付けはペット向けじゃない、ってテレビで言ってたっけ。
まあいいや、塩コショウで。
どうせ、この部屋に凝った調味料なんてない。
「そういえばあの侵入者は、魔術の繋がりがどうとか言っていたな。リョータ、おまえは魔術師か?」
「え? 今時マジシャンでもなければ、魔術師なんていないと思うよ」
「そんな……。では、シアン兄さまはどこに」
「今度はその魔術師について調べればいいんだね? 明日、図書館に行ってみようかな。何か、そうだ。名前とか聞いてない?」
「名前か。一度兄さまが呼んでいた気がする。リョータに近い感じだったな」
アーモンドにそれを発音してもらうと、ソーヤという人のようだった。
……外国人、で魔術師か。
日本人で学生の僕が探すのは、なかなかハードなミッションだろう。
この変わった、他の人には白ネコにしか見えない彼との生活は、もう少し続きそうだった。
ちなみに。
ソーヤさんというのが日本人であるというのが分かって、一気にシアンさんまでの道が開けるのは、まだ先の話である。
読んでくださった方と、家紋 武範様に感謝を。
夢要素ばっかり書いてるから、幻要素出してみた。
活動報告にあとがき的裏話あり。
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