さよなら、くろうさぎ
都会の雑踏の中で、くろうさぎが物思いに耽っている。
『悲しい。報われない。暖かいお布団は、ぼくの心を癒してくれるのかな。このまま朝が来る前に、ぼくは眠りにつけるのかな』
いったい、何を考えているのか。それは彼自身にも、はっきりとは分からない。もっさりとした思考の中を行ったり来たりして、言葉にしがたい現実に身を委ねるだけである。
『ぼくが誰かの痛みを知る事ができないなんて、それほど大きな問題じゃない。でも、みんなはぼくから遠く離れていく。やっぱり、ぼくという存在が醜いからなのかな。いっそのこと、すべてをかじってボロボロにしてあげようかな』
くろうさぎは自分の身体を見つめて、少し満足げな気持ちになった。
『ふふ、それほど醜くないじゃないか』
ひとりで笑みを浮かべる彼の隣には、いつのまにかあかうさぎが座っていた。
「キミ、鏡を見たことはあるかい?」
くろうさぎは答えた。
「あるよ。でも、すぐに割っちゃったんだ」