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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第四章 聖地と聖女

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251話 罪悪感の解消

誤字報告ありがとうございます。

 わたしは『戻り石』に魔力を流し、一瞬で地上へ戻った。

 置き石を持つ魔王が目の前に現れて、あまりの近さにびっくりしたけど、魔王が『戻り石』の魔術具を使った時もこうだったっけ。

 でも今はそんなことに気を取られてる場合じゃない。わたしは魔王の服を掴んで叫んだ。



「ルード様、大変です! あと10時間で聖地の傷が、要に、聖地の要に到達してしまいます!!」


「何だと」


「ちょっと確認しますね…………よし。ルード様、皆さんに動画を見せてもいいですか!?」



 動画にムービーが映ってないことを確認してから魔王に訊ねた。

 さっき見たムービーが事実なら、今起きている危機の原因を作ったのは精霊族ということになる。そんな重大な情報をこの場で明かしていいのかわからなかった。

 とりあえずその件は置いておこう。今はタイムリミットにどう対処するかを決めてもらわなくては。


 魔王はすぐに許可してくれたので、斜め上あたりの空間にバーチャルなスクリーンを展開し、動画でわたしが見てきたものを皆に見せる。

 ああ、説明の時にネトゲ仕様のことを部族長たちに明かしておいて良かった。



「この黒い亀裂が聖地の傷かえ……」


「嫌な感じじゃのぅ……」


「おおっ? ここは何だ、美しいな。聖地の要? そのような場所があるのかね」


「スミレ、動画を少し巻き戻してくれ。……おい、本当にあと少しじゃねぇか! 亀裂がこの空間まで届いちまうぞ!!」



 ブルーノの指摘で気付いた。あの時は足元からの虹色の光に気を取られていて、亀裂の先端部分がどうなっているか見てなかったんだ。

 皆にもことのヤバさが視覚的に伝わったようで、スクリーンを見上げる顔はどれも表情が険しい。

 追い打ちを掛けるようで気が引けたけど、『聖地の傷が 聖地の要に到達するまで あと10時間です』のログも見せた。



「スミレ、残り時間は今何時間何分になっている?」


「えっと、9時間54分21秒……20秒……です」



 皆が一斉に自分の手首を見つめたので何かと思ったら、デモンリンガで現在時刻を見たようだ。

 そういえばデモンリンガには時刻表示機能があったっけ。わたしはネトゲ仕様でいつも視界の右下隅に時刻が表示されているからほとんど使ったことはないけど。



「到達時刻は午後10時13分あたりですね」


「チッ、状況を把握しづらいな」



 しまった、夜か……。

 カウントダウンがあのタイミングで始まったのは、間違いなくわたしのアクションが原因だろう。予想出来なかったこととはいえ、変な時間に開始してしまったことを申し訳なく思う。



「別にぎりぎりまで粘る必要もないでしょ。対処法はわかってるんだから、暗くなる前にさっさと終わらせればいいじゃん」


「その前に、まず本当にスミレちゃんに癒してもらうのかどうか、そこから検討せんでええのか」


「アディじいさん、他に方法なんてあるの? いつもみたいに精霊の大量投入なんて時間足りなくて無理だよ?」


「第一、精霊の密度が一番高い聖地に精霊を大量投下したところで効果があるか疑問じゃ。かといって、古文書に聖女が何かしらの術を施したという記述はあるが、それが『四素再生』かどうかはわからんしのぅ」


「そもそも聖地を癒すなど前例がない。聖女の魔法は先程初めて『霊体化』を見たが、肝心の癒しの方はどんなものなのかね」


「スミレちゃんの癒しはすごいぞ。以前わたしの足を治してもらったんじゃが、回復魔術は効かず『精霊の特殊回復薬』すら半日しか効かんかったものを、一瞬で完治してくれたわえ」


「ほう。聖女の癒しは不可能も可能にするか。頼もしいですな」



 部族長たちが対処方法について話し合いを続けている。

 シーグバーン以外は慎重な態度だったが、聖女の力もネトゲ仕様にも実績がないから、任せていいのか不安に思うのも無理はない。何せ聖地の存亡に関わるかもしれないんだから、慎重に慎重を重ねるべきと考えるのは当然だ。

 ただ、残された時間が10時間を切っている現状では、結局『四素再生』以外の選択肢はないというのも事実で。

 わたしに任せようという雰囲気になりかけたところで、それまでほぼ無言で議論を見守っていた魔王が口を開いた。



「聖地の傷を癒せるかどうか以外にも懸念がある。癒しが成功すれば今後魔素の循環異常は起こらなくなるだろう。それはすなわち、聖女の力を世界が必要としなくなるということだ。役割を終えた聖女がその力を失う可能性はないのか?」



 皆の視線が一斉にわたしに集まる。

 『四素再生』することに何の迷いもなかったわたしは、彼らの議論を聞きながらもちょっと他ごとを考えていたので一瞬焦った。

 と言っても全然関係ないことを考えていたわけじゃない。もしも「聖地の傷を癒す」というのがクエストだった場合、クエストの完了がわたしのステータスに影響を与える可能性、まさに魔王が口にしたことを考えていたのだ。

 聖女という存在が魔素の循環異常を癒すために生まれたのなら、その原因がなくなれば聖女の力を失う可能性は確かにある。

 だけどそれは、わたしにとってそこまで大きな問題じゃないと思えた。


 わたしの特殊能力にはネトゲ由来のものと聖女由来のものがある。そして、わたしの生活を支えているのは主にネトゲ由来の機能だ。システムに直結している部分なので聖女の力の有無に左右されるとは考えにくい。

 魔法も聖女由来のは回復系だけだし、回復なら魔術にもある。普段の生活の中で意識して聖女の力を使うことって実はほとんどないので、ネトゲ由来の機能が残るならそれほど困らないんじゃないかというのが正直な気持ちだ。

 ああでも、調合には影響するかもしれない。薬効が高くなっていたのがなくなったり、回復薬が『聖女の回復薬』じゃなく普通の回復薬に、『(から)の魔石』も『究極の魔石』ではなくただの『魔石』になったりしそうな気がする。

 でもまあ、これらは後でわかったおまけ的な効果だから、なくなってもダメージは大きくないかな。


 そんな感じでわたしはそこまでシリアスに捉えてないんだけど、魔王の問いに部族長たちは一瞬沈黙した。

 ある意味、聖女の力を犠牲にしてでも聖地を癒すかという問いでもあるので、わたしの目の前で即座にそうだとは答えづらいだろう。

 でも、犠牲なんて思わないで欲しい。

 変に気を遣われる前に意思表明しておこうと思い、そろそろと挙手しながら口を開いた。



「あの、わたしは聖女の力がなくなってもそんなに困りません。むしろ、なくなってもいいから、この際過去の所業の責任をきっちり取りたいというか」


「所業? 何かありましたかな」



 獣人族部族長のニクラスが首を傾げて訊ねる。初対面のこの人はわたしの考え方や価値観をよく知らないだろうから、きちんと伝えなきゃ。


 聖女召喚の魔法陣を破壊したのはわたしだ。

 長い間正しく機能してなかったとはいえ、この世界の理を乱したことに変わりはない。わたしはそのことにずっと罪悪感があった。

 でも、もし癒しが成功して聖地の傷を癒せれば。

 魔素の循環異常がなくなる。聖女を召喚できなくても全然困らない、問題ない。

 つまり、わたしは罪悪感を感じなくてもよくなるわけで。

 だったらわたしは最後の聖女として、自分で乱した世界の理の帳尻を合わせることで、自分のやらかしたことの始末をつけたい。



「だから、わたしは自分のためにも癒しを成功させたいんです。特殊な癒しやアイテム作成はできなくなるかもしれませんし、わたしの価値は思い切り下がってしまいますけど、別の形で貢献していければと──」


「馬鹿なことを言うな。聖女であろうがなかろうが、お前は魔王族で、私の大切な民だ。聖女の力を失ったくらいで価値が下がったなどとは言わせぬ」



 魔王がわたしの頭をくしゃくしゃ──を通り越してぐしゃぐしゃしてきた。眉間に皺が寄ってるのは、わたしが自分を卑下するような言い方をしたからか。

 見ると、ヴィオラ会議のメンバーも同意とばかりに頷いている。ブルーノなんかわたしに向かってデコピンする真似までして見せた。うっ、手が届かないところにいて良かったよぅ。

 でも皆の言葉や態度が嬉しい。もう何だってできるような気分になる。



「まったくだ。聖女じゃなくなってもスミレはオレの大事なあっち向いてホイ仲間じゃないか。永遠のライバルだよ!」


「いや、そんな変な仲間に入った覚えないし。ライバルとかやめてよねー」



 ジ~~ンと感動していたら、シーグバーンが訳のわからないことを言い出したので思わず突っ込んでしまった。少しは空気読んでよ、次期魔王。

 まあ、聖女じゃなくても~って言ってくれたのは嬉しかったけどね!



「そんなわけで、わたしは魔族の一員として、自分にできることなら力を惜しまずにやりたいです。許可をいただけませんか、長」


「わかった」



 魔王が頷き、部族長たちに視線を向ける。それを受けた彼らが互いに目配せを交わすと、グニラがわたしの目を見て言った。



「スミレちゃん、頼めるかね?」


「はい! 全力で頑張ります」



 こうして無事に、わたしの『四素再生』に任せると全会一致で決まった。任せてもらえて良かったよ。

 胸を撫で下ろした拍子に、一つ良いことを思い付いた。

 せっかく罪悪感を解消する機会を得たんだ。ついでにもう一つの罪悪感も消してしまおう!



「あの、差し支えなければ、オーグレーン商会のヒュランデルさんをここへ呼んでもらえないでしょうか。彼に聖女の癒しを見せたいんです」



 わたしがそう言ったら、アディエルソンがびっくりして声を上げた。



「この前迷惑掛けられたばかりじゃのに、良いのかねスミレちゃん。聖女の癒しなんて貴重なものを見せたら、あいつ絶対に大騒ぎするぞ?」


「だってアディおじいちゃん。わたし、聖女信奉者から永遠に聖女を取り上げてしまったことと、重要機密だからそれを伏せざるを得ないことが本当に後ろめたくて仕方ないんですよ」



 もう二度と聖女が現れないのは確定しているのに、いつかまた現れる日を夢見たままでいさせるなんて酷だ。

 だけど、わたしが聖女召喚の魔法陣を破壊したことは明かせないから、どれだけ申し訳なく思っても謝罪できない。

 でも今なら、聖女が現れなくなる理由を魔素の循環異常の解消に紐付けられる。

 魔素の循環異常が起こらなくなるのは慶事なんだから、残念なことではなく発展的喪失と思ってもらえる絶好の機会だ。

 聖女が魔素の循環異常を癒すために生まれた存在なら、『四素再生』を行う時が一番聖女らしい姿だろう。

 だからヒュランデルに見て欲しい。聖女信奉者全員に見せるわけにはいかないけど、いつか彼と部族長のアディエルソンから伝わったら嬉しい。



「聖女の癒しの観賞とセットなら、例えこれが最後だとしても綺麗な思い出にできそうでしょ? ヒュランデルさんの聖女に対する思い入れを美しく昇華して、わたしの罪悪感を少しでも減らしたいんです。どうかお願いします!!」



 非常事態の場へ部外者を入れるのは本来なら避けたいところだろうけど、我儘を通させてもらい許可を得た。たぶん、聖女の力を失うかもしれないわたしへの補填を考慮されたんだろうと思う。

 それに、ヒュランデルは既にわたしが聖女だと知っている。魔族国の物流を担うオーグレーン商会の会長という責任のある地位にある人物なので、信用面でもさほど問題ないと判断されたのも大きい。

 まあ、確かにヒュランデルは普通にしてればとても有能な感じの人だ。

 ただ、聖女が絡むと突然残念な人になってしまうからなぁ……。皆がドン引きしなければいいけれど。



 とにかく、重かった二つの罪悪感を一気に解消できそうな見込みが立った。

 俄然やる気MAXになったよ。よし、やるぞーッ!!

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