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1話 異世界で雑貨屋開業を目指します!

初投稿です。よろしくお願いします。

 わたしの名前は佐々木すみれ。32歳、独身。突然この異世界に召喚されて、かれこれ3か月ほど経ったところ。

 元の世界と切り離されてしまった悲しみもようやく癒えて、生来の貧乏性というか仕事中毒というか、時間を無為に過ごすのがもったいなくて、そろそろ本腰を入れて動き出さなきゃいけないと思い始めている。


 今日は研究院のレイグラーフ院長の講義を受ける日だったので、講義が始まる前の歓談の際にちょっと私的な相談に乗ってもらうことにした。

 レイグラーフは褐色の肌と耳にかけた深緑色のくせっ毛がちょっとセクシーな精霊族の男性で、その学識の高さと魔力の強さから若くして研究院の院長に抜擢されたという非常に優秀な人だ。

 異世界人の私にもわかるようにこの世界についていろいろと教えてくれるありがたい先生なんだけれど、穏やかな表情だったレイグラーフはわたしが話し始めた途端に眉をひそめてしまった。

 あれ? わたし、何か良くないことを言ったかな。



「ちょっと待ちなさい、スミレ。あなた、今、城下町に住むと言いましたか? この離宮から、いや、城からも出るつもりなのですか? 私は反対ですよ!」



 今や、彼の眉間にはくっきりと深いしわが刻まれている。

 この魔族国に庇護してもらってからずっと考えていた自立の方法についてようやく考えがまとまってきたので、この異世界的に問題なさそうかレイグラーフに聞きたかったのだけど、どうやらわたしは話の出だしでつまづいてしまったらしい。



「ここから出たいと思う程に、今の暮らしに不満があるのですか?」


「とんでもない! こんなに良くしていただいているのに、わたしに不満なんてあるわけがないじゃないですか」


「それならどうして。聖女であるあなたの身の安全を考えたら、城で暮らすのが一番でしょうに」



 そう、わたしは聖女としてこの世界に召喚されてるんだよね……。

 そのせいで非常に面倒な立場に置かれてしまっている。



「レイグラーフさんの講義で魔族国は平和だと聞きましたから、城下町での一人暮らしも特に問題ないだろうと思ったんです。いつまでもここでお世話になっているわけにもいきませんし、いずれは自活したいと考えていました。その方策についてある程度考えがまとまったので、まずはレイグラーフさんに相談して実現可能かどうかご意見を伺おうと思ってお話ししたんですが、ご不快な思いをさせてしまったようで申し訳ありません……」



 わたしの言葉が余程意外だったのか、目を見張ったレイグラーフが「自活……」と小さく呟いた。

 わたしが自活したいと言うのがそんなに不思議なんだろうか。

 突然異世界に召喚された身とは言えわたしだっていい大人なんだから、ある程度身の安全と気持ちの安定を得たなら、可能な範囲で自活しようと考えるのは普通だと思うんだけれど。


 それとも、わたしはそんなに頼りなさそうに見えるのかな。

 350歳のレイグラーフからすれば32歳のわたしなんて赤ん坊みたいなものだから、大人扱いされていないのかもしれない。

 体格的には魔族女性と変わらないのになぁ……。

 心配してくれるのはありがたいけれど、ちょっと過保護な気がする。

 わたしが少し気落ちしたのが伝わったのか、レイグラーフは険しくなっていた表情を緩め、眉間のしわを解いた。



「いえ、どうやら私の早計だったようですね。この魔族国では王都で働く者や魔族軍の任務に就いている兵士以外はたいてい部族の里で暮らしていて、里の中で仕事をしています。相互扶助は当然で保護も手厚いため里で生きる女性が多いものですから、魔王に庇護を願い出たあなたは当然この城を里とし、今の暮らしを続けるものだと思い込んでいました」



 魔王の庇護下に置かれて以来、わたしは魔王城の外れにあるこの離宮で暮らしている。

 会社の資料室で作業をしていたわたしは突然足元に現れた魔法陣に引きずり込まれ、見知らぬ場所へと飛ばされた。

 それはイスフェルトという人族の王国の者たちによる聖女の召喚で、わたしは聖女として無理矢理この世界に固定されてしまい、元の世界へ帰れなくなってしまった。

 その際に振るわれた暴力と、聖女に対する彼らの身勝手な強要にブチ切れたわたしは聖女召喚の魔法陣と城の一部を破壊して逃亡、魔族国へと逃れてきたのだ。



 魔王に庇護されたばかりの頃はわたしもまだ混乱していたから、離宮でのひっそりとした静かな暮らしはとてもありがたいものだった。

 突然の異世界召喚、生き別れとなった家族や友人への思い、引継ぎもせず仕事を放り出す形になったことへの申し訳なさ、押し付けられた聖女という肩書の重さ。

 そういう苦悩とこの先への不安で頭がいっぱいで、更には望郷の念にも苛まれていたわたしの心が少しずつでも癒えていったのは、偏に与えられた静かな環境と、そっと見守ってくれた侍女や護衛、そしてこまめに離宮を訪れては何かと心を砕いてくれた魔王や側近たちのおかげだと思う。


 やがて気持ちが落ち着いてきたわたしはこの世界について学びたいと魔王に願い出て、研究院長であるレイグラーフの講義を受け始めた。

 更に、講義で関心を持ったことをもっと詳しく知りたくなり、城の図書室へも出向くようになった。

 そうしてこの世界を知るにつれ、異世界召喚で得た能力を活かしていけば自活できるのではないかと考えるに至ったというわけだ。



 わたしの説明を、レイグラーフはふんふんと頷きながら聞いている。

 どうやら不満があって城を出ようと考えたわけではないということは理解してもらえたみたいだ。

 良かった、と思わずホッと息を吐く。



「それで、自活するということは何かしら労働をして糧を得るのでしょうが、一体何をするつもりなのですか?」


「実は、雑貨屋をやってみようと考えています」


「雑貨屋……というと、売り物なども具体的に想定しているのですね?」


「えぇと、召喚されたわたしに特殊な能力があるというのは、魔王陛下に庇護を願い出た際の聴取でお話ししたとおりなんですが、その能力の中に、仮想空間でのアイテムの売買というのがありまして」



 そう言いながら、わたしが何もない空間からスッと回復薬の瓶を取り出してみせたところ、レイグラーフは目を見開いたまま固まってしまった。



「な……ッ!? どこから……どこからそれを取り出したのです? ……え、これは魔術ですか? 新種の魔術? あなたが発明したのですか!?」


「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ、レイグラーフさん。魔術の講義はまだ始まってないじゃないですか。なのに新種の魔術だなんて、わたしにそんなことができるわけないでしょう? だからこれもネトゲの仕様の一つでして」


「また『ネトゲの仕様』ですか! 一体何なんですか、あなたの世界の『ネトゲ』というのは!?」




――そう。わたしが召喚されたこの世界は、まるでネットゲームの中みたいだったんだよ。

ストック(現在59話分)を放出しきるまでは、毎朝7時に予約投稿していく予定です。よろしければお付き合いください。

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