94.「アフタヌーン・ティー」
「それじゃあ小鳥遊班の女子会を開催しまーす。みんな大丈夫? ジュースとお菓子は行き届いてるよね?」
「問題ないですよ相倉殿、まさかルークランシェから日本に持ち込んだティーセットがこんな形で役に立つなんて思いもしませんでした」
「そうね。わたしは日本に来てからもアフタヌーン・ティーを楽しみたいとは思っていたのだけれど、こうして日本のお友達とお茶会を開くのはなんだか新鮮な気分だわ」
「メル、本当にありがとうね! わー。お菓子どれもとっても美味しそう」
「うむ、というか“小鳥遊班”で集まるのはもはや恒例行事になっているね。相倉さんが最初に言い出したことではあるのだけれど、私もこの空間は気に入っているよ。あ、お菓子私にも貰えるかい?」
「どうぞ。姫城さんも遠慮しないでね? これから一緒に寮で暮らしていくんだしもっとあなたの事知りたいと思っているの。仲良くしてくれるかな?」
麻奈実の言葉にゆっくりと頷く芳乃──もう定例となった女子会はお互いの事を理解するために開かれるだけじゃない、ちゃんとした理由がある。
「もぐもぐ、そういえば夏休み前に学園が開催するミスコンとかいうのがあるみたいだね。調べてみたんだけど、去年はそう言った行事は実施されていなかったみたいなんだ」
「へえーそうなんだ、ていうか藤森さん食べながら喋るのはお行儀悪いと思うよ? ミスコンかー。どうして急にやるようになったのかな」
「おそろくだが、ああいや、これはあくまでも私の推測なのだが、例のプロジェクトが関係してるんじゃないかと思うんだ? ほら、去年恋麗女子学園はまではただの女子校だっただろう? ミスコンなんて開催する理由もなかったんじゃないかな? それが今年からは違う」
「あー。小鳥遊君がいるからか」
「ご名答! 彼が学園に通っているのだから目的としては十分だろう? 小鳥遊君が恋人を選ぶ為の判断材料になるわけだし」
「……けど、そうなると参加する子は多そうね」
「詳しい内容は学園側から説明はあるとは思うけどね。どのくらいの規模でやるのか未知数だ。参加者が多いと審査の時間や項目も増えて手間がかかるだろうしね」
「あたしたちはどうするかだよね。ねえ? もしもミスコンが開催されるとしたら藤森さんは出るの?」
「いや……本来私はそう言ったイベントは苦手なんだが、もしも彼から出場を頼まれたら断れないかな。だが、結局は自分の意志で参加することにするのだろうけど。小鳥遊君という存在は大きなものになるからね」
「うーん。私も藤森さんと同じですね。人前で目立つのはあまり好きではないです……。でも、小鳥遊君が望むなら頑張ってみようと思います」
「わたしは参加してみても良いかと思ってるわ。面白そうだし、それに勇人も何かしら関わって来るかもしれないし、少しでも好印象は与えておきたいの。もちろんみんなを出し抜くって言うことなのだろうけど、わたしは彼に選んでもらえるように最善を尽くすつもりだわ」
「姫様が出るなら話題にはなりそうですね。ご自分で決めるのなら私は特に何も言うことはありません。メルア様のご意志が一番大切ですから」
「あたしはどうしようかな」
「あの。皆に話しておきたことがあるんです……」
全員の視線が彼女に向けられる中で牧野さんは一旦深呼吸をしながら昔の話を語り始めた。
「私、小鳥遊君とは中学時代同じクラスだったんです」
「ほう、それは興味深いね。彼はどういう中学時代を送っていたのかい?」
「……いつもひとりでいる事が多かったです。クラスメイトと距離を置いて、遠くから眺めているような感じ、敢えて関わりを持っていないようにみえました」
「それは意外ね、彼、あたしたちとはちゃんとお話ししてくれるのに」
「私も最初は信じられませんでした。中学時代に彼と仲がいい子なんて全くいませんでしたから。私も少しだけしか話した事がなかったですし、小鳥遊君自身が一人でいるのが好きな風にも思われてました。クラスの人も彼を話題にする事はありませんでした」
「授業が終わればすぐに帰っていたので放課後に何をしているのかも知りませんでした。小鳥遊君にとって私の存在はただのクラスメイトの一人だったのかも」
「わたしが日本に来て勇人と話した時、気になる部分はあったわ。なんて言う風に説明すればいいのかわからないのだけれど、どこか他の人とは違う感じ? 本心を探られないようにあえて気丈に振る舞っているのというのかしら外から見れば人当たりは悪くなさそうに見えるのだけど。相手に不快感を与えない距離感で関係を築こうとしている風に見えた」
「過去のことを語りたがらないのは何か理由があるかしら……。ちゃんと話してくれる時が来るのを待つしかないのかもね。小鳥遊君ならきっと話してくれると思う。そう信じてるわ」
「そうだね。まあ、彼とはこれから長い付き合いにはなりそうだからいつか判明することだろう」
「あー。藤森さんその言い方だと自分が恋人に選ばれたいと思ってるんだー」
「もちろんだろう。それが学園にいる意味でもあるのだから。みんなは違うのかい?」
「それは──」
「藤森さんの言うとおりですね。女子寮から『聖蘭寮』へお引越ししたのだって少しでも小鳥遊君と過ごしたいと言うのがありますし」
「誰が選ばれても恨みっ子なしだよ? ていうかプロジェクトの方針だと一人に決めないといけないってわけではないのだけどね」
「勇人の意志を尊重しなくちゃね。どういう結果になったとしても」
緩やかに過ぎて行く時間の中でデジタル時計の数字が変化するのを眺めながらそれぞれの想いを胸に抱いて未来に希望を描くのだった。




