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92.「勇人宛の郵便」

「……これはもしかすると」


 部屋に戻ってきた僕は机に封筒を置いた──どうやら僕宛に郵便が届いているようだ。ペンスタンドからハサミを取り出して封筒を開けていく、手にざらりとした紙の感触に触れてからゆっくりとハサミを動かした。

【小鳥遊勇人】へ郵便を送るなんていう物好きはどこの誰だろう? 

 母さんは要件をメールか電話で済ませることが殆どだし……。

 あの人が仕事以外で息子に興味を示すことなんてないだろう。

 もしかして父さんから何か用事でのあるのだろうか? 

 けれども、父さんとはいつもLIMEでもやり取りをしているし、そこまで込み入った話ならあの人なら手紙で伝えるなんて事はしない……。

 立派な封筒を開くと三つ折りされた一枚の紙と返信用の封筒と挟まれていた小さな紙がペラリと落ちる。

 僕はまず最初にさっき落ちた小さな紙に目を通す──病院の診察券? の様な形をしているそれは裏面に該当する医療機関の連絡先が載っている。


「富士ヶ嶺病院か、どこかで聞いたことがあるような名前だけど……」

 思い出せそうで思い出せないモヤモヤとしたなんとも気持ちが悪い感覚だ、その紙を机に置くと次に三つ折りにされた紙を読んだ。


 “定期検診のお知らせ”一番上に書かれている文字を見ると僕はなんとなくだけどこの手紙が届いた意味を察した。


 そうだ、これはさっき同封されていた紙に書かれていた医療機関で検査を受ける様にとのお達しだ。

 例の紙は僕が検査を受ける病院の診察券で郵便の内容によれば【富士ヶ嶺病院】で遺伝子に関する検査を受診する様にとの事らしい。

 学園に入学する前に一度母さんから紹介された医療機関で検査を受けた──その結果で僕の進学先がこの学園に決まってしまったのだった。


 書類だけで、あまり詳しい説明は受けていないけど僕は強い遺伝子の持ち主らしい。それが今後の人類の未来に関わると言う話なのだから自分でも驚いた。


 手紙は誰が送ったものかはわからないけど、検査を拒否する理由はない。プロジェクトに関わる事なら尚更だ。しっかりと自分の体とは向き合っていかなくちゃいけない。

 僕は診察券に書かれた病院に連絡を入れる。電話越しに名前と生年月日血液型を聞かれたからそれに答えるとオペレーターは「すぐに担当にお繋ぎします」と無機質な返答をして電話の先から保留中のアナウンス音が鳴る。待つこと数十秒──


 ──若い声の女性が電話に出た。僕は改めて手紙の内容を説明してから近いうちに病院で検査を受けると言うことを伝える。

 お医者さんはすぐに理解できたようで、僕が都合の良いをマッチングさせてくれた。どうにもプロジェクトの件は医療機関には伝達されているようで、検査もきちんとしたものを受けなくてはいけないらしい。

 移動の時間も考えると学園に戻って来れるのは夜になるかもしれない。

 前のものとは違って病院で本格的に体を調べるのはちょうど良い機会だから持病とかが無いかも検査してもらおう。

 これから先僕に万が一のことがあれば、せっかく仲良くなれている彼女たちにも迷惑がかかる。

 優しい感じの声で検査当日の説明をしてくれる女医さんの話にメモを取りながら耳を傾けた。

【富士ヶ嶺病院】までは向こうが送迎してくれるみたいで、当日は大きな荷物などは必要ないらしい。検査が終われば真っ直ぐに学園に戻ってくるからその後は自由にやれそうだ。

 疑問に感じた事をお医者さんに投げかけるとしっかりとした口調で答えてくれた。この人なら安心して任せてもいいかもしれない。ほっとしながらもほんの些細な事でも聞きそびれないようにと自分に言い聞かせる。


 診察日が決まり、僕はスマホのカレンダーアプリを立ち上げて真っ新な予定欄にスタンプを押して女医さんに教えてもらった内容を打ち込む。


 そういえば、このカレンダーアプリって普段はあまり使ったことが無かったなあ。カレンダーはその日の日付を確認するくらいだし……。メモ帳アプリはよく使うんだけどね。

 そもそも予定を書く程のイベントなんて僕の周りには起こらないから普段から立ち上げる機会もそれほどに多くないや。

 タスクキルせずにバックグラウンドのままのアプリは三つ程だからスマホの機能性を心配する必要もないし。

 検査は学園が休みの日に行くことにしたから授業に遅れが生じるなんていう心配は杞憂に終わりそうだ。


「一応神崎さんには報告しておいた方がいいな」

 すぐに理事長宛に今回の詳細を載せたメールを送信する。もしかしたら僕が病院に行かなくちゃいけないことはもう既に知っているかもしれないけれど、念のために伝えておこう。

 初めて使ったカレンダーアプリの画面を凝視しながら検査日を再確認するのだった。

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