89.「私の新しい居場所」
「さ、新しい仲間が増えたことだし姫城さんに寮の中を案内しよっか」
「いいんですか?」
「うん! だってこれから一緒に住むんだし、私はもっとあなたの事知りたいと思うんだー。今とっても嬉しいんだもん」
ニコニコした顔で私の手を握る相倉さん。そんな様子を他の子たちも微笑ましそうに見ている。
彼女の明るさに触れていると寮に来る前までの不安なきもちなんて一気に吹き飛んじゃった。
「聖蘭寮」に住んでいる子たちは新しく仲間になった私に興味を持ってくれた、今まで身分を差し引いて接してくれる友達なんていなかったから……。
私の実家──姫城家は日本でも有名なお茶を作っている老舗の茶舗。幼い時からお祖父様や両親の仕事を見てきた私は跡取りとして育てられた。お嬢様言葉を普段から使うようにと教育されてきたけど本当の私は違う、こうやって女の子っぽい口調で話すのが本当の私なの。
だけど、それは他の人の前では曝け出さないように振る舞ってきた。愛想の良い人になろうと無理をしてきた。今の自分の居場所を守る為に、学園に通っている理由は将来の為、姫城の名に恥じない女性に成長する為、自分のやりたいことを我慢し続けてきた。
定期的に両親に学園での状況を報告することになっているのだけど、例のプロジェクトの件は隠しておくわけにはいかなかった。
お父さんたちはどうせなら学園に通っている間に私の結婚相手を決めておきたいという考えがあるみたい。
子どもの時からお見合いはたくさんやらされてきた。家の為に一刻も早く跡取りを見つけたい、娘の将来をしっかりと見据えて手を打つ、生まれた時から自分の未来は決められていた。
私だってその期待に応えようと頑張った。他のお嬢様よりも優れた結果を出さないと納得させられない。
何をするにしても姫城の家を背負ってぃるという重圧は大きくなるたびにつれて私の心を締め付けていく。
自由になりたい。家の為にじゃなくて自分の為に生きていきたい。そんなふうに思う。学園に通う三年間で私は変わることができるのかな? 将来にやりたいことを見つけられるのかな?
ふと御崎さんと目が合う──彼女は表情は変えないけど、真剣な視線で私の顔をじっと見ている。自信に満ちた眼差し、羨ましく思う……。
彼女たちは地に足をつけて生活しているんだろうなぁ。それに比べて私はどうだろう? 親に言われるがまま、自分の気持ちを押し殺して良い子であり続ける、手のかからない子どもほど親が苦労しないですむのだら、名前を教えても寮の皆は私を普通の女の子として接してくれる。それが一番嬉しいの。
綺麗で新しい建物は最先端のセキュリティがガードしてる。この場所が今の私の居場所──
──楽しそうに寮の設備について説明する相倉さん。”小鳥遊班“は彼女が中心なんじゃないかな?
「どうしたんだい? 姫城君、浮かない顔をしているようだが」
「えっ……?」
藤森さんが不思議そうに尋ねてくる。彼女は学者さんみたいな話し方をしている変わっている女の子っている印象だけど、自分に素直に生きているから飾らない姿を他の人にも見せられるんだろう。
「ええっと、その……」
「なーに、これからは時間はしっかりとあるから無理をすることはないさ。私だって初めて彼女たちと出会った時には緊張したものだ、だけど、今はこの寮に移ってきて良かったと思っているよ。前よりも『小鳥遊班』のメンバーとも仲良くなれた気がするしね。相倉さんが言った通りさ、私も姫城さんとは仲良くやっていきたい」
飾らない素直な言葉──藤森さんは自分の意志をちゃんと持ってここでの生活を選んだんだ。
「それは私も同じふうに思ってますよ」
私の肩に手を乗せて頬を緩ませるのは牧野さん。小鳥遊君を探してた時に彼女とはお話ししたけどとっても良い子だと思う。
「そうね、それじゃあわたしは姫城さんを芳乃って呼んでも良いかしら?」
「ふぇ? ルークランシェさん!?」
長くて美しい金髪の王女様はライトグリーンの瞳で私を捉える。外国人のお友達なんてできたことはないけれど、ルークランシェさんはおとぎの国のお姫様みたいに現実離れした可愛さが際立つ女の子。
彼女のそばにいると何だか魔法にかかったみたいなぽわぽわとした不思議な感覚。
女の子なのにこんな気持ちになるのは変かな? それにしても綺麗な髪で羨ましいなぁ。
小鳥遊班では定期的に女子会を開催しているみたいで私も参加できるかどうか聞かれた、女の子同士の仲を深めるっているのが目的みたい。
相倉さんは私たちの中で誰が小鳥遊君の恋人に選ばれたとしても純粋に応援できると言っていた。
学園に通う三年間──長いようですぐに過ぎていく時間、一日一日を大事にしなくちゃね!
私はここに来たからは彼をもっと知りたいないと思うの。
相倉さんはそれぞれのお部屋を紹介してくれたあとに最後に彼のお部屋の場所を教えてくれた。
女子の部屋は同じフロアに固まっているのだけど、彼の部屋は別のフロアにある。って言っても同じ寮の中だからそこまで離れているわけじゃない。
女の子しか空間で彼はどんな風にすごしているんだろう?
小鳥遊君のことが気になったけど寮の中を案内してくれるみんなには言い出せずに先に進む、時間を作って一度彼ともお話をしてみたいなぁ。
**
「聖蘭寮」に新しい仲間が増えた──確か名前は姫城芳乃さんって言ったっけ?
僕はまだ彼女とちゃんと話をしたわけじゃないからどういう子なのかはわからないけれど、こうして寮で一緒に暮らす女の子がいてくれるのは嬉しく思う。
*
「ねえ? どうして彼っていつも一人でいるの? クラスにも全然馴染んでないしね」
「しっ! 本人に聞こえるわよ。クラスにいても影が薄いし、誰も気にしてないんだからよくね?」
「言えてるー。こっちから話しかけても反応が悪いし、キモいよね」
「ギャハハ! アンタそういうこと言うんだー」
「女子連中みんなそう思ってるっしょ。事実なんだから仕方なくない?」
僕は自分が望んで一人でいることを選んだ──だけどそれは同調思想の強い学校生活では逆に目立ってしまう行動だった。
クラスで浮いた存在、誰からも気にされずにその場所に自分がいないという認識でクラスメイトはスクールライフを過ごす。
時々声をかけてくる生徒は罰ゲームだったり、面白がったりして友達としてではなく学校生活から抜けたハミダシ者の僕を見下す為だ。
そんな期間を中学まで過ごし、僕はそう言った悪意のある人たちから余計に距離を置いた。それが逆にクラスでの孤立を生んで、どんどん悪い方向へ進んでいく。
味方なんかいない。だったら、関わる必要のないじゃないか。高校受験の為、教師からの評価を上げるために学校でやるべき課題は確実にこなしてきた、クラスでの評価は最低クラスだけど、幸いに教師から問題児というふうに思われずに済んだ。
義務教育であるとしても高校を受験するなら内申点も重要だし,僕は勉強ができたから苦労することはなかった。
担任教師は下手に干渉せずに着実に課題を終わらせて模範生として過ごしている僕に問題は無いと考えていたんだろう。
卒業を間近に控えた時期──クラスでは進学や就職の話題が離される中で今まで空気みたいに扱ってきたクラスメイトが「勉強を教えて欲しいの」と頼み込んできた。女子が多い中で男子の僕はその空間に居心地の悪さすら感じていたから早く抜け出したかった。
これまで見下していたくせにいざとなれば頼ってくる。こういう人たちはみんなそうなんだ。だからこそ僕は自分の評価がさらに貶められようとしても彼女らの要求を断り続けた。
中学まではろくな思い出も無いし、正直忘れたい気分だ……。
今は僕に興味を持ってくれている子たちがいる。それだけが昔とは違う所だ、卑屈にならず彼女たちの想いに応えられるようにならないとな。
忘れたかった嫌な記憶を引き出しにしまい込んで訪れた新たな出会いを大事にしていこうと思うのだった。




