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86.「ストライド・アフター・デイ」

「うん、次のテスト範囲はそんなところかな。御崎さんが僕に聞いているところで合ってるよ。授業の内容がメインだとは思うけれど、教科書に載っていない小さな情報にも目を向けておくと良いかもね。気になる部分があるのなら言ってくれて構わないから」

「……そうだね、ありがとう。小鳥遊君が同じクラスでよかった」

「お役に立てて何よりだよ、まあ、僕も長い時間勉強をしているわけじゃないけどテスト範囲を教えるくらいはできるそうかなって」

 ノートパソコンでネットサーフィンしつつハンズフリーにしたスマホで御崎さんと通話する。

 ことの発端はテスト一日目が終わって自分の部屋に戻って次の日の教科の復習をしようとしている時に珍しく携帯が鳴った。

 ホーム画面に表示される【御崎智佳】の名前に僕は一度深呼吸してから通話ボタンを押す──


 ──少し戸惑ったような彼女の声が聞こえて来る。僕は何となく状況を予想しつつタブレットを操作した。

 御崎さんはテスト範囲の事でどうしても聞いておきたいことがあったみたいだ、彼女は普段から真面目に授業を受けているから心配するような事は無いんだろうけど……。

 必死に勉強している姿を見ている僕からすると困っている御崎さんの力になれれば良いと思った。

「聖蘭寮」 に移ってから“小鳥遊班”の女の子達はそれぞれが僕との将来を真剣に考えて行動を始めている。

 まず、玲さんは自分の部屋で作業する時以外は積極的に僕と関わって色んな事を聞いてくる。僕に関する新情報をを得るたびに「本当にキミは退屈しないなぁ」と微笑みながら呟く。

 相倉さんに影響されたと言ってたけど、女の子達が自分に目を向けてくれたことが嬉しい。僕自身も彼女達と過ごす時間を大切に感じている。

 相倉さんや御崎さんともちゃんと話ができるようになったしメルや牧野さん、周りに集まった魅力的な子たち──彼女たちとささやかな学園生活を楽しみにつつ午前中はプロジェクトの報告レポートをまとめていた。


 **


 学園内の雰囲気が変わってきた頃、周りに馴染めていない一人の女子生徒がいた。

 教室では明るくクラスメイトに愛嬌を振る舞っていてもそれが自分の本心ではないと知っている。

 格式のある名家出身のお嬢様たちが通う恋麗学園で自分みたいな一般人が同じ空間にいる事に疎外感に居た堪れなくなっていた。

 放課後特に仲がいい女子グループはそれぞれが予定を話しながら「ご機嫌よう」と教室を出る。

 何か面白いことがないかな? と校内を散策しても何も見つからない。学園では次第にとある生徒の話題を耳にする機会が増えてくる。


【小鳥遊勇人】女子校に通っている唯一の男子、始めの頃、女子たちはそんな僕に嫌悪感を抱き、まるで見下すような視線を向けて人として見ているのかも疑問符が付くところ。

 そう言った扱いが平気かと言えばそれは違う……。

 僕はただ、気にしていないふりをしていただけだ──気にしていなければ傷つかない、関わらなければ関係が破綻するのを怖がらずにすむ。

 ちょっとした小休止で外の空気を吸う為に部屋を出た。



「ふぅ。風が気持ちいいな」


 居心地のいい風が甘い香りを運んでくる、空に向かって背伸びをして整備された芝生の上を歩く、水やりは最先端の機械で行われている。

「聖蘭寮」は女子寮とは違った雰囲気があるし、何より気を遣わずに暮らせるのがありがたい。青く晴れ渡った空──お日様が照らす陽光に眩しさを感じるけど、不思議と悪くない気分。

 芝生を踏み締める音を響かせて寮の近くにある畔のそばまでやってくる。

 今頃みんなは何をしているんだろう? 御崎さんは勉強頑張っているのかな? 相倉さんは次の休みに女子皆で料理の勉強会を開催するとって言ってたかな。

 牧野さんには僕が昔読んで面白かった小説の情報を教えて、メルとアイリスさんには日本での暮らしで困ることがないように日頃からそうだんにのるつもりだ。


 地面に寝そべって空を見上げた──あいからず青くて綺麗な空がどこまでも広がっている。ポカポカとした陽気に目を閉じたらすぐに眠ってしまいそうだ。

 綺麗な空気を吸い込みながらゆっくりと瞼の竿を下ろす。まどろむ意識はあっという間に優しい空間に溶けていく。


「……あれってもしかして?」

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