84.「Golden Bell Time」
「ふぅ。ちょっと休憩しようか。皆も疲れたでしょう?」
「そうだね? あ! もう十三時になってたんだ。朝からずっと休憩勉強してたからもう覚えられないよ」
「あたしはもう頭の中がパンパン」
「はっはっは! 御崎さんは随分と熱心に勉強していたね。テストなんて気構えることはないさ。赤点を取らなければ問題ないわけだし」
「──だって追試になったりしたら恥ずかしいじゃん」
「相変わらず真面目だね。けれど、こうやって“小鳥遊班”のメンバーで勉強するのは悪くないと感じているよ。私は高揚感すら覚えているさ。ねえ? 小鳥遊君もそう思うだろう?」
「うん、僕もこうやって一緒に過ごせるのはすごく嬉しいよ。けれど、女の子だけの勉強会にいつも僕が呼ばれて場違いじゃないかと感じることはあるけれど……」
「気にしなくて平気だよ! せっかく『聖蘭寮』で暮らしているわけだから私たちはもっともっと小鳥遊君と仲良くなりたいなって思っているし」
笑顔を見せてそういう相倉さん、僕は周りを見るとみんなが頷くメルとアイリスさんもニコニコしていた。もうすっかり仲良くできているみたいでよかった。
僕らは貴重な時間を過ごす、そうやってちょっとずつ信頼関係を築いていくんだ。
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「わたしは今のところ日本に来てよかった感じているわ。アイリスあなただってそうでしょう?」
「はい、私は姫様のおそばにいられる時間が増えたのでそれがとても嬉しく感じています」
「うふふ、そうね。ルークランシェにいた時はアイリスはいつも稽古稽古でなかなかわたしとはお話をする気機会がなかったものねー」
「……はい、ですが、メルア様をお守りするのは私の仕事でもありますし、常に鍛錬は重ねておきたいのです。それが使命ですし」
「良い心がけだとは思うのだけれど、あまり無理はしないでね。あなたはわたしにとって大切な人なんだから」
「はい、姫様に気を遣わせないようにと常に気を配っています」
「もう少し肩の力を抜いても良いんじゃない? 日本に来てからもずっと仕事をしぱなっしじゃリフレッシュもできないだろうし」
アイリスはいつだってそう──自分のことよりもわたしの事を優先してくれる。それは嬉しいのだけど、わたしはもっと彼女に自分を大事にしてほしいなと思っているわ。
小さい頃からどんな時でもずっと変わらずにわたしのそばに居てくれた。アイリスがいたからわたしはいつでも自然体のままでいられたの、ただの王女と警護の騎士ってうだけの関係じゃない、それはいつの日か話せる機会が来るのでしょうね。その時までは秘密にしておくわ。
「新しい寮で生活を始めたけれど不自由な部分を感じるところは今のところ無いわ。みんなが良くしてくれるし、それに勇人とまた同じ場所で暮らせるんだもん」
「メルア様は小鳥遊殿を気に掛けていらっしゃいますね」
「ええ、日本にいる以上はしっかりと目的を持っておきたいわね。勇人と将来結婚するって決まった時に彼の事をお父様たちにしっかりと紹介できるくらいにはならないと」
「正直例のプロジェクトが成功するかどうかは私には分かりかねますが……メルア様がご自分で決断なさったのならその選択を私は支持しますよ」
「ありがとう。けれど、前にも言ったと思うのだけれどわたしはアイリスにも勇人と仲良くなって欲しいわ! もしもあなたが彼を婚約者として選んだとしてもわたしは後悔しない。むしろ応援するわ」
「わ、私がですか!? まだ、彼がどう言った人間なのかそこまで知っているわけではありませんよ」
「これから知っていけばいいわよ、そのきっかけはいくらでもあるのだから焦ることはないわ。あなたももっと自分の人生を大切にしてね」
わたしはアイリスの手を握ってそう伝える。その気持ちはわたしの本心。アイリスにも幸せになってほしい。これまで自分を押し殺して姫であるわたしを守る事を優先してきたのだから。
女の子は誰だって幸せになれるチャンスがあるの。そう信じているわ。彼女が勇人を選んでくれたらわたしは嬉しい──
──だって同じ人を好きになるのだから、一人の女の子を選ぶわけじゃないから彼が誰と添い遂げようと恨んだりはしない。
むしろ、大変なのは勇人の方、だって、あんなにたくさんいる女の子の中から自分の結婚相手を選ばないといけないのだから、しかも期限付きの学園での生活、これから先も色んなイベントが起こるのでしょうね。
“小鳥遊班”に加えてもらった充実感でワクワクしながらわたしは午後からひと時がゆったりと過ぎていくのを感じるのでした。
こっそり勇人からもらったマカロンをお部屋で食べてティータイムを楽しむ。次はみんなをお茶会に誘おうかしら? ティーセットはルークランシェで使っていたものをそのまま日本に持ってきたし、時々こうしてお部屋で寛ぐ時間もとってもゴールデンなタイムだと思わない?




