80.「女子会〜親睦を深めよう〜」
「相倉さん。お風呂場では走らないようにね。滑って転んだら一大事になるよ」
「わかってるよー。ねえ、それよりもこれ見て最新型の洗濯機があるよ! 小鳥遊君言ってた事、本当だったんだ! あ! あれは自販機じゃない? 何があるかなぁ」
「元気ですよね。相倉さん」
「……えっ? そうね」
「私もあれくらい何でも好奇心を持って行動できると良いんですけどね」
牧野さんは苦笑しながら脱衣所のロッカーを開ける──銭湯よりも豪華なロッカーは番号式のダイヤル錠を回して鍵を開ける方式みたい。
藤森さんと相倉さんは脱衣所に置かれている自販機がどうとか洗濯機の性能がどうとか言う話をしている。牧野さんは恥ずかしがりながらキョロキョロと周りを確認してから服を脱ぎ始める。あたし達はそれぞれ固まってロッカーを使う。
そう言えばメルとアイリスさんの姿はまだ見てない。彼女たちも同じ寮で生活する事になっているから顔を合わせていないのが気になる。
お風呂に入る準備が終わってセンサーの前に立つと「ピッ」という機械音でドアのロックが解除された。
このセンサーは生体反応を認識してるらしいけど、基本的女の子しか使わないのに必要な機能なのかな?
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「ふぅ……」
温かいお湯に浸かって一息つく、聖蘭寮にお引越しが終わってからのんびりと過ごす時間がなかったから。
「おお! 浴場は広々としているじゃないか! 流石と言ったところか。しかしまあ、私達だけしか使わないので半ば貸切みたいなものだね」
藤森さんはご機嫌そうにお風呂の中を見渡している──あたしたち四人で一緒に入ってもかなりの広さを感じるっていうか、二十人以上が使ってもまだまだスペースがあるんじゃないかな?
今のところ“小鳥遊班”の女の子しかいないみたいだけどこれから人が増えたらお風呂に入る時間も考えないといけないのかもね。
「隣に座っても良いですか?」
「……うん」
体を洗い終わった牧野さんがあたしの横にゆっくりと腰を下ろして湯船に浸かる。彼女はしっかりと洗顔やシャンプーをしていて入浴の順番が一番最後になっちゃったみたい。
あたしたちの間に沈黙が続く。牧野さんは何かいいたげにチラチラとあたしに視線を送っている。
「あのっ! 聞きたい事があるんですけど……」
「何? て言うか同い年なんだから別に敬語じゃなくてもいいわよ」
「すみません。これは生まれつきでー。でも、私は御崎さんとも仲良くなりたいなと思っているんです。敬語を使いますがこれが私の素の状態なんですよ」
「……そう」
牧野さんは体をグッとあたしの方に寄せてくる。身長はあたしよりも低いけど発育の良い体は羨ましいなって感じる。それにすごく肌も綺麗でスキンケアには気を遣っているんだなぁ。
「私、正直こんな事になってちょっとびっくりしてるんです」
「?」
「“小鳥遊班”のみんなにも少し話したましたが、私は小鳥遊君とは中学生の頃同じクラスだったんです」
あたしは牧野さんの話を黙って聞く事にした。
「彼は進路とかのことは全然話しませんでしたし、中学生の時は仲のいいクラスメイトもいなかったんです。いつも一人で過ごしていて、何だか寂しそうにも見えました。けれど、それは小鳥遊君が自分で選んでいた。私は彼とは親しい仲じゃありませんでした」
「それでも、高校生になった彼の事が気になってました。両親の勧めで女性らしさを磨く為に恋麗女子学園に進学を決めたんです」
「周りが名家のお嬢様ばかりで私みたいな子が通っていて平気なんだろうかな? って考えてました。現に私の所属するDクラスはプライドが高い子がたくさんいますから、その中での自分の振る舞い方に悩んでいるんです」
「ふぅ」と一息ついた牧野さんはあたしの身体をまじまじと見る──女の子同士だから別に隠す様なことはないけどじっと見られるのは恥ずかしい。
「御崎さんは小鳥遊君の事が好きなんですか?」
「えっ!? どうしたのいきなり……」
「彼と話している時に御崎さんの様子を観察していたんですが 何だか普段とは違った表情をしてましてー。それで小鳥遊君の事をどう言うふうに思っているのかな? って気になってたんです」
「あ、あたしは別に」
牧野さんに指摘されて考えてみる──あたしは彼の事が好きなんだろうか? 前に藤森さんにも似たような事を言われたけど……。他の人から見ても分かりやすい態度を取ってるのかなぁ。
「隠す事はないですよ、私は彼と親しい仲になれてませんが、好意を抱いているのは間違いないです、自分の気持ちには嘘はつけませんから」
「あたしはまだ分かんない……。今まで『恋』なんて経験していないからこの感情が何なのか整理がつかないでいるの。あなたみたいに率直に自分の気持ちを伝えられるのは羨ましいなと思う」
「誰かに気持ちを伝えるのは簡単な事じゃないって思います……。ですが、真っ直ぐな想いは曲げたくない、御崎さんももっと向き合う時間が増えてくれば自然と分かってくると思いますよ」
彼女は笑顔でそう教えてくれた。あたしも「そうね」と返事をしてお湯に浸かり直す、身体の疲労が一気に取れていく──このまま眠っちゃいそうなくらい心地が良い。
相倉さんと藤森さんがニコニコしながらお風呂に入っている。あたしたちの側に近寄ってきて四人で同じ場所に固まってお喋り。
相倉さんは相変わらず元気で積極的に話しかけていた。藤森さんはお風呂の分析を始めて入浴の豆知識を披露する。牧野さんとあたしは笑いながらその輪の入る。最後は男湯の温泉の会話で盛り上がって牧野さんが「こっそり入っちゃいます?」って冗談を言いつつあたしたちは同じ時間を共有する。
お風呂から上がった後は相倉さんのお部屋に集合してから軽く女子会を開く──甘いおやつと飲み物はまるで夜の些細なティーパーティー。
時刻が二十三時を回ってもあたしたちの女子会はお開きにはならず。結局〇時過ぎに終わるのでした。




