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74.「タイムオブピース」

「やあ、みんなおはよう。相倉さんは引っ越しの準備は順調に進んでいるかい?」

「ばっちり。私の部屋にはそこまで荷物が多くからないすぐに終わると思う藤森さんはどう?」

「うむ、私は色々と運ばないといけないものが意外と多いんだ。部屋を変えても自分がやるべき事は変わらないからね。けれども、新しく住む棟は私が予想していた以上にいい場所らしい。あの後理事長から色々と話を聞いたんだ」

「そうだったんだ! 私は小鳥遊君と一緒に住めるなんてとっても嬉しいわ」

「そうだね、私も彼と同じ空間で過ごして自分がどう言うふうに変わるのか? 興味はある。小鳥遊班のみんなは同じように感じているんじゃ無いだろうか?」

「そうだね。御崎さんとメル、それに牧野さん。彼女たちが何を考えているのか知りたいわ。だけど、一番の目的はもっと小鳥遊君と仲良くなりたいってことかな。恥ずかしいけど私の彼への気持ちは真剣だから」

「なるほど。自分の気持ちを隠さずに真っ直ぐに伝える事ができるのは素晴らし事だと思うよ。相倉さんの明るさに私達も何だか元気をもらっていると感じている」

「そう? えへへ。嬉しいなぁ」

「御崎さんも彼への想いは真剣だと私は思う。彼女はあまり自分の感情を表に出すタイプでは無いのだろうけど、じっくりと観察していれば分かるよ」

「そうだね。あとはメルかな? まさか小鳥遊君と男子寮で同棲していたなんて……」

「あの事実には私も驚いたよ。彼女とは数回程しか会っていなかったし、二人の関係が分かるようなものは無かったからね。小鳥遊君もそう言うことをペラペラと口外するような人ではないし、しかし、二人が同じ場所で暮らしていたと言うのは実に興味深い話だよ」


 小鳥遊君とメルと同棲していた事は小鳥遊班のみんなが知っている。彼は機密事項だったので言えなかったと誤っていたけれど、私は外国から来たお姫様が羨ましいなと思った。


 もしも、私が彼と同じ部屋で暮らしていたら毎日ドキドキして会話すらままならないんじゃないかな? 

 藤森さんや御崎さんは私の素直さを褒めてくれるけど、私だって女の子だもん、男の子を意識すると緊張することだってあるんだよ? 

 小鳥遊君は誰かを贔屓にすることはせずにみんなを同じように接してくれる、だからこそ、メルがすごく羨ましい……。


 転校してきてからずっと男子寮で生活してきたわけだし、今思い出すと小鳥遊君も彼女と接している時は微妙に態度が違っていたし、その<変化>はじっくりと観察していれば気づく。


 私たちが学園に通っている意味──もちろん例のプロジェクトのためなんだろうけど、私は純粋に【小鳥遊勇人】君に興味があるの。

 初めて異性を意識した、クラスは違っていても私は彼のことが気になっている。


 まだ、そこまで仲が良いってわけでもない。三年間っていう限られた時間の中で一日一日を意義があるものにしなくちゃいけない。

 気づいたら過ぎていたなんて後悔はしたくない……。


 学園に通う他の女の子達がどれほど真剣に考えているんだろう? 小鳥遊班の子は私と同じ考えなのかな? 


 自分たちで彼と一緒に住む事を希望した。それは少しでも小鳥遊君の事が知りたいと思ったからでそれは御崎さんたちも同じじゃないかな? 


「女子寮での生活も凄く楽しかったんだだけどねー。お嬢様達に囲まれての日常って豪華なように思えるけど時々肩が凝るんだよね……」

「そうなのかい? 私はお嬢様方とはあまり話したことがないかな。身分差があると彼女達はそれを誇示しようとするからね、名家に生まれ育っていない子は総じて庶民として扱われる、そういうのはうんざりしないかい?」

「……そうね」


 何か思い当たる節があるのか、御崎さんは藤森さんの言葉に頷いていた。この学園に通う子は一般的な家庭の子と比べると裕福な人が多い。

 某企業のお嬢様だって平然と通っているし付き人同伴で寮に暮らしている子だっている。


「ごきげんよう」って言う挨拶を交わす、西洋の物語に登場するお姫様みたいに綺麗な女の子ばかり。自分の家柄に誇りとプライドを持っている。


 だからこそ、ごく普通の家庭の子は肩身が狭い思いをしていた──お嬢様達から階級で区別され、クラスメイトなのに声をかけることすら許されない、そんな身分差に教室での空気も重苦しいものだった。


 私も笑顔でクラスメイトと接していたけど、彼女達がまず最初に聞いて来たのはうちの事──実家がどういう家で貴族や上流階級の出身なのか? それで本人と付き合うのか判断するらしい。


 見栄を張って嘘を吐くような子はいなかったけど、クラスでは一種のランク分けみたいなのが行われていて、上のグループに所属するお嬢様たちは傲慢な態度を取るようになった。

 教室の空気が息苦しい……。楽しいはずの学園生活が居心地悪く感じる。


 理事長がプロジェクトの事を全校集会で話してからはそんな重苦しい学園内の空気が一変した。

 今まで家柄や生まれを武器に横柄な態度を取っていた一部のお嬢様方は学園に通っているうちはそれが何の意味も持たないという現実を知らされた。

 苛立ちと不安を感じているお嬢様たちもいるみたいだけど、私は彼と仲良くなれるきっかけが掴めてラッキーだと思う。

 小鳥遊君は自分の事を周りに話すようなタイプじゃない。私たちも彼の過去の事や今まで暮らしてきた生活、まだまだ知らないことがたくさんあるの。


 だからこの同棲はいい機会じゃないかなって思う──もっと小鳥遊君の事を知りたい。私は自分が恋人として選んで貰えるように頑張る! 

 それは小鳥遊班の女の子はみんなそう言うふうに感じているんじゃないかな?


 藤森さんや御崎さんとも彼の事で話をする。私たちは新しい場所での生活を待ち焦がれながら放課後の校舎を後にして女子寮へ戻るのでした。

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