70.「悩み事の一つくらいはあってもいいものだと思う」
「ねえ? 御崎さんはミスコンはどうするの、私たちのクラスだと出場する子の応募が多いんだ。みんなメイクとかに力入れ始めてるしクラス毎に参加できる人数に制限はないからたくさんの子が出ると思うの」
「うちのクラスは多分、ルークランシェさんが出るんじゃないかと思う。あたしが出ても場違いだろうし……。他のお嬢様達と同じ舞台に上がるなんて考えられない」
「そう? 御崎さんだって十分に可愛くて魅力的だと思うわよ? 小鳥遊班がきっかけでこうして話すようになったけど私は御崎さんの事好きだよ。藤森さんや牧野さんも同じように言ってたよ」
「ありがとう。相倉さんのその素直さはあたしも見習いたい」
「そう? ねえ、御崎さんに聞きたいことあるんだけど良いかな?」
「何?」
「あのね、御崎さんって結構オシャレじゃん? やっぱりメイクとかにも普段から気を使っているの」
「……別に意識した事はないけど」
智佳は麻奈実の言葉にふと実家の事を思い出していた──化粧品メーカーだから母親から普段から身だしなみには気を遣うように教育されていた。
意識しているわけではないが、智佳はオシャレには人一倍努力をしていた。
新しいコスメの情報が出るとお店に出向いて試す、元の素材が良いのでメイクで更に可愛さに磨きがかかる。
今まで実家の事を他の人に話すのは憚っていたのだが、この際きちんと理解してもらおうと麻奈実を含めた小鳥遊班の女の子達に自分の生まれ育った家の事を話した。
「そうだったんだ。白鳳堂って有名な化粧品メーカーだよね? じゃあ、御崎さんもお嬢様なんだ!」
「今は昔ほど有名じゃないわ。色々あって続いているのがやっとなの」
「確かにここ最近の経営状況は良くないと聞くね。一時期は日本の女性のステータスだったようだが、大手のメーカーにお客を殆ど取られたみたいだね。と言うことは御崎君は実家を継ぐ為にこの学園を選んだのかい?」
「違う。恋麗学園への進学はあたしが自分で決めたの。親の世話にはなりたくないし……。家を継ぐ気はないよ」
「みんなにも話さなくちゃいけないってずっと思ってた。けどなかなか勇気が出なくて言い出せなかったの……。けれど、彼と話してその考えが変わった。小鳥遊君の過去を知ってあたしだけが小鳥遊班の友達に隠し事するのは嫌だなって」
智佳にとって自分の過去を話すと言うのは勇気がいる行動でもあった。自分の実家の事──誰かに話せるような状況じゃ無かった中学生時代、そこまで仲のいい友達もいなくて、周りからちょっとだけ距離を取っていた。
けれど、恋麗学園に入学してからすぐに悩み事を打ち明けられる友達に出会った。
それは御崎自身が進んでアクションを起こしたわけじゃない。【小鳥遊勇人】と言う男子生徒、彼がきっかけで集まった女の子たち。
それぞれが問題を抱えている、それを共有できる関係なのが小鳥遊班──
──智佳の過去を聞いて麻奈実たちは自分たちの家の事や学園へ進学した理由を話し始めた。
まだ学生の彼女は誰にも言えない秘密を持ちながらも学園生活を謳歌していた、玲は今まであまり人と話す機会が多くなかったと語り、自分がこれまでに体験してきた出来事を語り始めた。
まだ相手のことを知らなかった、それでも徐々にだけど仲を深めていき、小鳥遊班のメンバーは絆を紡ぐ。
今回の女子トークには勇人が参加することはない、まずは女の子達が触れ合う、いずれ彼には彼女達の悩みを解決する為に試練が訪れるだろう。
その日が来るまでは忙しなく学園での生活は過ぎていく、一秒一秒の時間を惜しみながら開催が近いミスコンへ向けて学園全体の雰囲気が変化していくのだった。
勇人は男子寮でPCの画面を見ながらレポートを作成していく、プロジェクトの進捗状況を入力するテンプレートに必要な情報を載せていく。
作業用のPCは簡素なデスクトップ背景が表示されていて専用のソフトだけがインストール済みで画面内に置かれているアイコンの数は少ない。
キーボードを叩きながらレポートの文章を推敲。
父からの連絡が届いていたが今は後回し、完成したレポートをメールに添付にして神崎のメールアドレスへ送信。
送信完了! の文字を見てふぅと一息ついて一旦コーヒーブレイク。
父親からのメッセージに返信をする、息子の将来の為に色々と動いてくれているようだ。もしも恋人ができたら会わせて欲しいとの事だった。
ミスコンの準備の為に業者が校内を出入りする──お嬢様達に作業をやらせるのは本意では無いため学園が委託した業者により、会場の設営や登場のイベントの説明などの打ち合わせで慌ただしく働いている。
そんな様子を見て勇人はLIMEで友佳に連絡を取る──すぐに返信をもらい、他のメンバーへ同じ内容のメッセージを送信して約束を取り付ける。
小鳥遊班で一緒に遊ぶ約束──今度はメルアも一緒だ。日本に来てまだそこまで日の経っていない彼女との親睦を深めるために勇人が企画した。
全員からOKの返事をもらってLIMEをバックグラウンドで起動しながらアミューズメントパークをネットで検索をする。
(メル、楽しんでくれたら嬉しいな)
と、呟いて隣に目を向けるとカーテン越しから女の子の声が聞こえる。
聞き耳を立てるような失礼なことはせず、今後の予定を考えながら、小鳥遊班で遊べる日を楽しみに待つことにした。




