63.「小鳥遊班に新しい刺激が加わる」
「勇人、何か気になることがすぐにでも父さんに相談しなさい。いつだっていい、どんな些細なものでいい。父さんは勇人の力になりたいんだ」
「ありがとう父さん。できればまた今度もう一度会って話をしよう。って言っても父さんも仕事があるだろうから都合が良い日があれば教えて」
「そうだな、落ち着いたらちゃんと連絡する。それまでは勇人も頑張るだぞ。無理はしないようにな」
「わかった。それじゃあ学校に行くから切るよ」
スマホに登録された父さんの連絡先、僕はきちんと父とコミュニケーションを取る。
LIMEを使って小鳥遊班の皆とも連絡を取り合う、彼女達の関係が少しくらいは進展したんじゃ無いかなと感じる。真っさらだった僕のスマホの連絡帳は今は女の子の電話番号が登録されている。
何だか夢みたいな話だ。これから先仲良くなる子が増えてきたら管理をしっかりとやる必要があるな。
父さんは今、一人で暮らしているらしくて日本では母さんの仕事を手伝うみたいだ。機会を設けて学園を訪ねる回数を増やしていくらしい。
父が家族の為に行動をしてくれているのを僕は素直に嬉しいと感じている、母さんとはうまくやれてないけど父さんとなら良好な関係を築けそうだ。
男子寮の僕の部屋に同棲しているメルは日々の学園生活を満喫しつつ自分磨きに余念がない。僕自身もきちんとした人間になろう。
背筋をまっすぐ伸ばして歩く。意識してやっていることだけどこれがまた結構きつい……。慣れないうちは苦労しそうだ。お嬢様達に相応しい自分になるためにまずは形から入ってみよう。
クラスメイトとの何気ない会話に混じりつつ交流を深めていく──僕から積極的に行動を起こして周りの人達の評価を上げていかないと、授業中はしっかりと集中して休み時間には少しでも良いからクラスの子と接する時間を作る。最初と比べると彼女達の僕への態度も随分と柔らかくなった、こうやって同じクラスになれたのも何か縁だ。
僕はお嬢さん方に恥ずかしくない人間でいないと! 昼休み小鳥遊班が集合するこうしてお昼を食べるようになったのはつい最近のことだけれど、このランチタイムが好きだ。それぞれの昼食を楽しみにながら会話を続ける、玲さんは相変わらずだけど人付き合いは悪くない。
前にLIMEでこんなことを言っていた。
「小鳥遊班の集まりは嫌いじゃない。むしろ今ままで経験してこなかったからすごく新鮮な気分でいるよ。昼食にありつけるのはありがたいことだからね、相倉さんには感謝している。もちろん君にもね」
なんて事を玲さんは言っていたけれど僕だって同じ気持ちだ。味気なかった昼食が楽しいと感じられるようになった。小鳥遊班に加わる女の子は魅力的な子ばかりだ。
(メルからLIMEへにメッセージが届いているな)
僕は片手でスマホを操作しながらメッセージに目を通す。
「勇人、ご機嫌はいかが? お昼教室にいないみたいだけどどこにいるのかしら? ちゃんとお昼ご飯は食べてる」
「ああ、食べてるよ。実はとっておきの場所があってそこでいつも食べるようにしているんだ」
「まあ、それはいいわね! わたしにも教えてくれるかしら?」
「うーん。どうだろう? 他のみんなに聞いて見ないことには」
この場所は小鳥遊班の皆の秘密にしているし、メルに教えていいものなんだろうかと悩む……。
「あのさ、皆に聞いておきたいことがあるんだけどいいかな?」
皆は僕の方へ視線を向けた──一旦深呼吸してメルがこの場所を知りたがっている事を伝えた。
「嘘っ、あのルークランシェさんが私たちに興味を持ったの?」
「僕たちにかはわからないけどこの場所に興味はあるみたいだね」
「ていうか小鳥遊君はいつからルークランシェさんと友達になったの?」
「つい、この間、彼女の方から『お友達になりませんか』って声をかけてきたんだ」
「すごーい。彼女って有名人でしょ? なかなか友達になれる機会なんてないよ」
「確かに、彼女が学園に来てから他のクラスも随分と騒がしくなっているようだ。某国のお姫様だ一筋縄にはいかなさそうだね。俄然私も彼女には興味がある」
「私は別に教えてもいいと思います……。元々この場所見つけたのは小鳥遊君だから小鳥遊君が決めた方が良いのでは?」
「私も牧野さんと同じ意見。小鳥遊君が決めるべき」
「それじゃあ、彼女にこの場所の事を教えることにするよ。みんなありがとう」
僕はすぐにメルのメッセージに返信をして彼女を小鳥遊班のLIMEグループへ招待した。
各々が違ったリアクションを取って新しい仲間を迎える──相倉さんは早速メルと色々メッセージのやりとりをしていた。ちょこちょこと玲さんも疑問を投げかけたりして和気藹々とした雰囲気。
僕は次のランチの時はメルをこの場所へ招待する役目に任命された。
男子寮へ戻ってからは上機嫌なメルと昼食の話題で盛り上がる。ランチタイムにはアイリスさんも相席するらしいけどこのひとなら大丈夫だろう。
「じゃあ、楽しみしてるわね。おやすみなさい勇人」
カーテンの向こう側、比較的に近い距離にいるけどそこは侵してならない領域な気がして若干メルとの関係に距離があると感じながら自分のベッドに寝転ぶ。
御崎さんもメルとメッセージのやりとりをしているみたいだ。グループチャットを使わないで個人で交友を深めている。
「明日も頑張ろう」
決めたからには良い加減な気持ちではいられない。メルが学園に転校してきた事でプロジェクトは大きく進行していく。お嬢様たちそれぞれが想いを持ちながら向き合っていく、この先の結果がどうなるのかはまだ僕にはわからない。




