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62.「面談」

 今日は父さんと会う日──子どもの頃の父の顔をなんとなく思い出す。

 ぼんやりとした記憶でしかないけれど……。

 会ってどんな会話をすれば良いんだろうか? 神崎さんの話だと父さんは男子寮を訪ねてくるようだ。この部屋で話すことになっている、メルとアイリスさんは学校へ行くだろうから部屋には僕一人だけになる。

 メルと同棲を始めたけど、窮屈さは感じていない。いつも明るくて素敵な笑顔を持つ魅力的なお姫様に僕は癒されている。

 もちろん彼女が目的があって日本に来ていることは知っているし、僕自身がお姫様の恋人として相応しい人間にならなくてはいけないと思う。


 小鳥遊家は決して家族仲が良いとは言えない。僕は母さんを理解できていないしあの人は家族よりも仕事を選んだ人なのだから。

 父さんが来るのは朝の十時過ぎ僕は普段着のままソワソワとした気持ちの中、父が来るのを待った。


「今日は勇人と会う日か……」


 息子との十年ぶり<再会>成長した勇人の姿が見れるのは楽しみだ。海外で仕事をしていても家族の事は忘れた事はない。

 家族がいたからこそ遠い異国の地でも頑張れた。昔みたいな穏やかで温かみのある家庭に戻ろう、そのために僕は帰国したのだから。


「旦那様、お車の準備ができていますよ」


「ああ、すまないね」


 お手伝いさんに見送られて恋麗女子学園へ向かう車に乗り込む──どうやら美鈴が手配してくれたようだ。息子は今、とあるプロジェクトに関わっていて訳があり女子校へ通っている。

 あの子の将来の結婚相手を選ぶ為だというのだが、本当の目的は違う。優秀な遺伝子を絶やさない事、これからの日本社会は男性が少ないことが少なからず影響を及ぼして来るだろう。

 だから勇人の遺伝子を未来へ残していく、これから先の未来に大きく関わっているプロジェクトでもある。

 自分の息子がそんな重要な役割を担わされていると知ったのはつい最近の事だ。

 僕にできることはあの子を支えて行くことだ──勇人が父である僕の提案を拒否したらやむを得ないが……。


 車の外の風景はどれも見覚えのない景色が広がっている。都会ではあるがどこかい侘しさを感じる街、学園は賑やかな繁華街とはそこまで遠くないらしい。学生が繁華街へ行くのは禁止されてようだ。

 やはり街の中は女性が多く窓の外から眺めるその光景に違和感を覚える。


「付きました。それでは定時にお迎えに上がります」


「どうもありがとう。ご苦労様」


 車を降りる前に財布の中からコインを数枚取り出して運転手に渡す。


「あの、これは一体?」


「僕の気持ちだよ。受け取っておいてくれ」


 怪訝そうな顔してチップを受け取る。海外での暮らしが長かったから

 すっかり馴染んでしまっていたチップを渡す習慣、そう言えば日本チップを渡すという文化はなかったんだな。


 日本と海外の文化の違いは様々だが、十年も続けてきた習慣が数日の日本での生活で改善されるわけがない。


 勇人との面談が終わった際に連絡を入れるということを伝えると運転手は頷いて車を走らせる。

 僕は数日前に美鈴から届いたセキュリティカードを取り出してゲートのカードリーダーにかざす。

 ピっという効果音と共に大きくて広い門が空く。平日の朝方ということで他の生徒たちは授業中である。勇人は今日は特別に休む事になっているらしく、僕が校内で誰かに会うという可能性は少ない。美鈴に聞いておいた男子寮の場所へ向かう。

 日本の環境には珍しいほど欧米風の立派な校舎だ。なんでもこの学園は日本中で活躍する多くのOBを排出しているらしい。女子学生にとっては恋麗女子学園に通うのが一種のステータスになる。


 全寮制のお嬢様学校──設立されてからまだ数十年余りというのに学園内には最先端の教育を受けられる設備や様々施設が併設されている。

 学園の運営には最大限にお金をかけているという印象。



「さてと、あの場所がそうか」


 華やかな校舎とは目立たない場所にある一件の建物がある。何でも女子生徒は許可が無いと男子寮へ立ち入る事は禁止されているらしい。

 勇人の為だけに準備されたというその場所を見上げながらドアのインターホンを押す。



 ピンポーン


 インターホンが鳴りモニターで確認すると見覚えない男性が立っていた。

 僕はすぐに通話ボタンを押した。


「はい」


「勇人か? 久しぶりだな。父さんだ」


「今開ける」


 ドアのロックを解除して父を迎えに行く。


「勇人、多くなったな」


「……父さん?」


「ああ、そうだ。十年ぶりだな」


 父さんは部屋に上がると僕の頭を撫でてくれた──優しくて温かみのある手、昔こうして僕の頭を撫でてくれた感触懐かしく思う。


「あまり長居はできないがな、今日勇人に会えて良かった」


 父さんは荷物を地面においてあぐらをかく。僕が出したクッションの上に座ると部屋の中を見渡す。


「意外と広いんだな。けどお前が使っているスペースは少ないのかな?」


「ちょっと事情があってね」


「そうか……」


 しばらく沈黙が続く──ドラマなら感動の<再会>とか何だろうけど僕は父さんとどんな話をすればいいのかわからなかった。メルは父と会った方が良いとは言ってくれたけど僕は父さんときちんと会うのは今日が初めてだから緊張している。


「家に帰ったら勇人も美鈴もいなくて驚いたよ。家にはメイドさんがいたしな、もしかして勇人はずっとあの環境で育ってきたのか?」


「うん」


「そうか……。その反応だと美鈴は仕事で殆ど家には帰ってこなかったみたいだな」


「お前にも随分と寂しい思いをさせたな。すまなかった」


「それは父さんが謝る事じゃないよ」


「これからはずっと日本にいられるぞ。美鈴や勇人の側にな、勇人、父さんはお前と離れた十年を埋めようと思っているんだ。いや、十年だけじゃない、父さんが死ぬまで家族としてお前を支えていく。これからはその為に何でもするつもりだ」


「正直僕は父さんと過ごした記憶がない……。今だって何の話をすれば良いのかわからないんだ。会うのも躊躇ったけど友達に絶対に会った方が良いって言われて決断したんだ」


「そうか、父さんも同じだ。勇人とどんな話をするればいいのか悩んでいた。十年も家を離れていて今更父親になんか会いたくないだろうと、だが、こうやって勇人と話しができて父さんは嬉しいぞ、もちろん今まで言えなかった事、伝えきれなかった思いはたくさんあるだろう、全部今言う必要はないんじゃないか? これから勇人が話したいと思った時に話してくれればいい」


「父さんは勇人の味方だ。お前が今どんな状況におかれているのかも知っている。急にプロジェクトの為に女子校に通うなんて戸惑っただろう。自分で望んだ進路へ進むことも許されていないのだからな。勇人の未来が光り輝くものであればいいその為になら父さんは協力は惜しまないつもりだ」


「まだ父さんに誇れるような人間にはなれていないんだ。これからこの学園に通う三年間でしっかりと結果を残さないといけない。ここにいる女の子たちの将来も僕が背負っているんだから」


「責任感が強いな。お互いが望んだ相手と結婚すること、それが良い家庭を築くのに必要な事だ。日本は一部例外ではあるが一人の男性が複数の女性と関係を持てるみたいだな。ただ、それは本当に稀な事で男性が減った今の社会では適用される機会がほとんどない。まさか、勇人がその対象になるなんてな。三年間というのは長いようで短いだろう」


「僕はプロジェクトに対して真剣に向き合って行くって決めたよ。それが僕がここいる理由でもあるから。たくさんの女の子と恋人になるんてゲームみたいな話で今は実感が湧かないけどね」


「もしも、広い家が必要なら言いなさい。実は父さんは勇人の為に用意した家があってなこれが結構な広さなんだ、向こうでお金を貯めて買った、将来は母さんと勇人、それからこれから家族になるかもしれない相手と住むのも良いかもしれない。何だったら海外でも良いぞ! 父さんが住む場所は準備する」


「その機会が来たら父さんに真っ先に伝えるよ」


「何かあればすぐに連絡するんだぞ? 携帯は持ってるよな。父さんの連絡先を教えておくから最近では便利な機能がたくさん増えてきてるからな」


 僕はとうさんの連絡先を教えてもらう──父さんは実家に戻って日本での仕事を続けるみたいだ。今度は僕の方からきちんと時間を作って会う約束をする。父さんは僕に恋人ができたら教えて欲しいと言った。

 まだこれとして意識してるひとはいないけどこれからは友好な関係を築ける相手を増やしていこうと考えている。


「じゃあ、父さんは帰るからな。何かあったらすぐに連絡しなさない、悩み事の相談でもいい力になるぞ」


「ありがとう父さん。今日は会えて話しができて良かったよ」


 寮を後にして帰宅する父の背中を見送りながら僕はすこし先に未来の情景を思い描く。



「おかえりなさい」


「ただいま」


「ただいま帰りました」


「アイリスさんもおかえりなさい。喉乾いていない? ちょうど冷蔵庫に冷たいジュースがあるけど必要なら準備するよ」


「ありがとう。それじゃあいただくとするわ」


「私も一杯いただきます」


 僕は三人分のコップを準備してジュースを注ぐ。普段は一人だと多いほどたくさんの飲みのもが冷蔵庫に入ってるけど三人いるからちょっと少なく感じる。


 果物の自然な甘さとすっきりとした口当たりが広がる。本来なら果汁が100%のものをジュースと呼ぶらしいけどコーラとかの飲み物のほとんどをジュースと略称している。


 コップを洗って元の場所にしまい、部屋で寛ぐ──メルとアイリスさんは普段着に着替える。カートン越しに服を脱ぐ音が聞こえ僕はごくりと唾を飲んだ。



「それで今日はどうだった?」


「何が?」


「勇人、お父さんと会ったんでしょう? ちゃんと話はできたの?」


「ああ、その事ね。メルに言われた通りだったよ父さんと会って良かったと思う。そこまで込み入った話をした訳じゃないんだけど意味はあったよ」


「そう、良かったわね。もしかしたらわたしもいつか会うことになるのかしら? あなたとわたしが恋人になればご両親へ挨拶をしなくちゃいけないだろうし」


「姫様と、小鳥遊殿がそう言った関係になれば真っ先に私に報告してください」


「あら、アイリス、あなたも例外ではないのよ? この学園に通っている以上はあなただって勇人のお嫁さん候補の一人でもあるんだから」


「わ、私は姫様の護衛で日本に来ているわけですし恋愛とは無関係では?」


 顔を赤くして照れているアイリスさんを可愛いと感じた、スタイルが良くて素敵な女性だと言う最初持ったイメージはプラスに働いているのかもしれない。

 メルやアイリスさんに相応しいと思われるような男にならないと。それから三人でゲームをしたりして遊んだ。誰かと一緒に楽しい時間を共有するのも悪くないな。

 僕は充実した時間を感じながら明日からどんなイベントが待っているかと思うとドキドキしてなかなか寝付けなかった。

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