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61.「目的の為に」

 優秀な遺伝子を持った男性が少ないと言うのは大きな社会的問題となっている。

 昨今男子生の割合が少ない為、結婚できる女性の数も減少。

 これからの社会子どもが生まれないというのは日本の人口が衰退する一因にも繋がってくる。

 政府もそれは問題視しているが、なかなか良い案が出てこない、貴重な遺伝子を持つ男性を確保するというのが使命なのだろうけど、全ての男性が機関で検査を受ける環境を整備するのに時間がかかっている。

 今活躍している女性は人口減少が始まる前に生まれた世代が中心。ある時を境にめっきり男子が生まれなくなった。様々な研究がされたが遺伝子が関わっている事なので慎重になるしかなかった。世論を影響を受ける為、問題は山積みだ。


 美鈴が企画したプロジェクトに対しても疑念を抱く学者は少なからず存在する。それでも、日本の人口減少を止められるような策を打ち出すまでには至っていない。無理があるかもしれないが美鈴が立ち上げたプロジェクトには成果が期待されている。

 学園に通う生徒達にこの状況を説明するのに様々な時間と資料を準備された。理事長の神崎はそれらを元に目的をしっかりと彼女達に伝える。

 これまで抜けていた部分、そして生徒に行ったヒアリングの結果を受けてプロジェクトの進捗状況や達成目標をスライドで映し出した。


 学園に通う女子生徒に課せられた課題は彼女達が想像していたのよりも大きい、もちろん他の学園へ転校するという選択肢も選べる為最終的に決断をするのは彼女ら自身となる。

 しかし、自分たちの未来の一つの可能性が示されただけで、それを選ぶかどうかは本人達次第。

 生徒達をやる気にさせるにはどうすれば良いだろう? 

 ただ、将来を約束するだけでは不透明な理由づけになる。そこで理事長は生徒達それぞれにある課題を準備するのだった。



 *


 勇人は神崎から金曜日の予定を聞いて部屋に戻ってから色々と思考を巡らせていた。

 父親が自分に会う為に日本へ帰国したこと、幼い頃別れた父とどんな会話をすればいいのかわからない……。


 ずっと家を開けていた父と母、勇人には家族団欒の思い出はない。家族の関係はそう簡単に修復されない。

 もちろん父を恨んでいるわけじゃない、しかし母は父が海外で働いていることすら息子に伝えていなかったのだ。


 僕に会う為に帰国した父さんは一体どんな気持ちなんだろう? 

 昔の事を思い出す──大きくて優しい手に頭を撫でられた記憶、穏やかな笑顔と暖かみのある男性。何となく覚えている、それが父さんに関する記憶。


 神崎さんからは父さんの事は詳しく聞かなかった。海外で働いていた事、そしてようやく日本へ戻ってきたと言う。


「どうしたの? 勇人。難しい顔をして」


 ふとメルに話しかけらた、顔に出てたか……。気をつけないとな。


 彼女に話しても良い事なんだろうか? 赤の他人であるメルにこんな話をして平気かな? 


「あのさ、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」


 誰かに話すことで解決することもあるかもしれない。っと言うよりは僕はメルの優しさに縋りたかったもしれない。

 金曜日に父さんと会うこと──そしてこれまで僕の身の上を話す。

 今まで誰にも言った事がなかったのに、親しい友達すら作らなかった自分が過去の話をするなんてな。


 何も言わずに聞いてくれたメルは最後の言葉を聞くと少し間を置いて話す。


「会うか合わないかはあなたが決める事じゃない? それは他人であるわたしがどうこう言う問題ではないと思うの。ただ、わたし個人の感情なら会った方が良いと思う」


「たった一人のお父さんなんでしょう? 今までは辛いことがあったとしてもこれから先にそれがずっと続くわけじゃないわ。わたしは国を離れて日本に来たけれど、向こうにいるお父様達が心配になることがあるもの。遠くない場所にいて会うことができるなら幸せなことじゃない」


「それにお父さんだって勇人に会いたくてわざわざ学園まで来るんでしょう? そこまでしても息子に会いたいって思っているのよ」


「正直言うと僕は父さんと会って何を話したら良いのかわからないんだ。今までいないと思って過ごしてきたからに急に再会してちゃんとした会話ができるんだろうかって」


「それはお父さんも同じじゃない? 十年以上も会ってないのだから勇人とどんな話をすれば良いのだろうと悩んでいると思うわ」


「どんなささやかな会話でも良いじゃない? 無理しないでゆっくりと関係を修復いていければね、いつだってお父さんには会えるんだから」


「父さんは本当に僕に会いたいと思っているんだろうか?」


「本心を知るのは金曜日になればわかるんじゃない? 最終的にはあなたが決断するべきよ」


 メルの言うことは間違っていない。父さんと会うかは僕が決めないといけないんだ。子供の頃温かさを感じた父さんの手の感触を思い出す。

 あの時優しく見守ってくれたのを今まで何で忘れてたんだろう。


「決めたよ僕、父さんに会うことにする」


「うん、きっとその方が良いと思うわ」


 メルに相談することでもなかった気もするけれど,彼女に話せた事で心の中に残っていたモヤモヤも取り除かれた。

 金曜日、午後からの予定は決まった。僕は父さんとの再会する日を待ち遠しく感じた。


(ちゃんと会ってそれから話をしよう。ずっと言えなかった気持ちを伝えてみよう)

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