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60.「再会へ向けて」

「ルークランシェさんの学園への転入は完了しています。彼女は特別に準備させた部屋で暮らして学園生活を送る事になります。何かあればその都度私の方から報告を上げさせてもらいます」


「分かったわ。歩美も大変だと思うけれど、学園の運営は任せるわ。それで気になることがあるのだけど……」


「何でしょう?」


「勇人の事、あの子はルークランシェ王国のお姫様と上手くやっていけると思う? 彼女を呼んだ理由はプロジェクトを遂行する為の一つの手段ではあるのだけど……」


「それは息子さん自身の問題では? そこは私が介入するべきではないでしょう。あくまでも彼の意志を尊重します」


「私が様子を見に行っても良いのだけど……。あいにくあのこは母親を嫌っているから」


「プロジェクトの進捗状況が気になるのはわかりますが、焦っても良いことはありませんよ、この学園に通ううちは何か大きな成果が上がるとは思いますが、定められた期限でプロジェクトを進行していくにはまだまだ時間がかかります」


「歩美には苦労かけるわね。もしもあの子に何かおかしなところがあればすぐに報告してちょうだい。それと近いうちに直人さんが学園を訪ねることになっています」


「旦那さんが? 一体どういう用事でしょう」


「勇人と会うのよ。あの人が海外での仕事を片付けて帰国したのも息子のため、まだ小さい頃に会ったきりばかりだから勇人がどう言う反応をするのかはわからないけれどね、直人さんに会う時のスケジュールは歩美から勇人に伝えてちょうだい。詳しいことは私からメールを送るわ」


「わかりました。それじゃあ他に何かあればまた連絡ください」


 美鈴さんとの通話を終えた私は丁度仕事を終える、毎日忙しい日々が続いているけれど、嫌な気持ちにはならない。プロジェクトを成功させること──それが私に任された使命でもあるのだから、私は美鈴さんから届いたメールに目を通す。


 小鳥遊君と彼のお父さんが会う日時と場所が載せられている。親子の<再会>は美鈴さんがセッティングしたようだけど、どう言うふうに彼に伝えようかしら? 


 彼自身がどの程度美鈴さんの考えていることを理解しているのかはわからない、ずっと子どもの時から家族で過ごす時間が少なかった小鳥遊家の人、お父さんが帰国してこれから少しでも改善されていけばいいのだけど……。



 *


「おはよう。今日もいい天気ね」


「あ、おはようございます、ルークランシェさん」


 メルアの周りにはすぐに人だかりができる、彼女自身が人を惹きつける魅力があるのだろう。優雅で可憐な姿に憧れを抱く生徒もいるのだとか、Aクラスの女子たちはそんな華やかな空間で過ごせることに優越感に浸っていた。

 勇人は時間を遅らせて登校する──彼が教室に入ると真っ先にメルアと視線が会う。優しく微笑む彼女に挨拶を交わしあくまでもただのクラスメイトの一人として接する。


 お嬢様の通う学園の雰囲気は一人の生徒の転入によって変化する。女子達は羨望の眼差しと時折混じる嫉妬の視線を感じながらクラスメイトとの仲を深めていく。


 そして、全校集会が行われることになり生徒達は移動する──勇人は待機となり一旦自室へ戻る。詳細は後で神崎からの連絡で知ることになるだろうと思い、部屋で休む。


 メルアと勇人が同じ部屋で暮らして来ることは誰にも知られていない。女子は気軽に男子寮へ行くことが許されていないので他の生徒が事実を知る機会はない。


 集会所で理事長からプロジェクトに対して生徒達に質問が飛ぶ。正直、学園に通えることに満足した生徒がほとんどだったので未だにプロジェクトに関しては半信半疑な子が多く存在していた。


 歩美の口から伝えられた内容をそれぞれの深層心理へ落とし込む。目的があって学園にいるというのを生徒たちに再度認識させるためだ。

 そして歩美はアクションの一つとしてメルアを全校生徒に紹介した。もちろん彼女の目的は留学だというのを伝えた。


 三年間という短期間で成果を上げなくてはいけない。勇人が仲良くなった女の子は現状五人しかいない、もっと積極的になるように生徒達を促す。先程の美鈴との会話で焦っても良い結果にはならないと言っていたが、のんびりと進めている暇もない。

 勇人と同じクラスに所属する女の子だけが優先されると言うことはない。誰にだってチャンスはあるそれを生かせるかは彼女達の行動次第なのだからプロジェクトが成功すれば得られるものが大きい、プラスの面を考慮しても真面目に取り組んでおいて損はない。

 日本の未来がここにいる少女達にかかっていると言えば大袈裟かもしれない。


 女子達は改めて自分たちの置かれた環境を理解する──生まれ育った環境に違いはあるけれど、学園に通っている間に彼女らに身分差はない。


 勇人は部屋で眠っている、午後からの授業に間に合うように目覚ましもセットしているので仮眠をとっても平気。


 教室へ戻った女子達は彼がいないのを見て自分たちの現状を話し始める。


「正直、まだプロジェクトに関して疑いを持っていましたわ」


「わたくしもです。急に言われても受け入れられないでしょうし、それに望んで通っている学園でそんなことをやらされることになるなんて……」


「ただ、変わりない学生生活を送って卒業できればいいのにと考えていいましたけれども」


「けれど、殿方とお話しする機会なんて今ままでなかったですしどうするでよろしいのでしょうか?」


「わたくしも同じですわ。あの方に自分から話しかける勇気が持てません」


「クラスが同じという面では有利だと思いますわ。他のクラスの子が彼とお話しする機会は限られているでしょうし」


「一人の殿方に複数の女性が……。あまりいい気分ではありませんね」


「嫌悪感を抱くのも無理はないですわ、本来決められた相手と結婚するべきでしょうし」


「わたくしは両親からお見合いを勧められたことがありますわ。男性が少ないので相手を探すのに苦労していたみたいですが」


「ですが、理事長に最初に言われた言葉を忘れていますの?」


「なんでした?」


「この学園へ通う生徒には他にはないチャンスがあると言う事です。小鳥遊様と恋仲になれば将来が約束されます、女性としてワンランク上のステップに進むことができるのですよ?」


「嫌な方はそれでいいのではなくて? 私はこの好機を逃すつもりはありません、抜け駆けというのは存在しません。私たちが彼に選んでもらえるような女性にならないといけませんの」


 お嬢様方は自分たちの容姿と家柄を確認する──しかしここでは例え高貴な家に生まれていようとその差はゼロであり、生まれで決まるわけじゃない。

 一人の男性に恋人として選ばれるかそれが一番重要なポイントでもある。


 家柄を盾にプライドを振りかざしていた子は自分の身の振り方を考えなくてはいけない状況に、そんな子たちに冷ややかな目で見られていた子は身分差という仕切りが取り払われた事で多少気分が楽になるだろう。


 全校生徒たちが改めて自分の立場を理解する──学園側のヒアリングで他校への転入を望む生徒が存在する場合は申し出るようにとの指示を受ける。


 *

 僕は教室に戻り午後に授業に合流する──何だろう? クラスメイトの視線が以前よりも柔らかい感じになった気がする。

 授業に集中しているとあっという間に時間が過ぎた、メルは日本の勉強にも十分ついていけてるのはすごいと思う。特に英語の発音は流石外国人だなって感じた。

 少しずつクラスメイト共仲良くやっている、お嬢様ばかりだからやりやすいのかな? 

 放課後女子寮へ戻る他のクラスの女の子たちとささやかな会話を楽しむ、地道だけどこう言ったやり取りで交友関係を広げていかなくちゃな。


 男子の僕が女子寮へ気軽に行く事は無いけど、どんな子が住んでいるのかは興味はある。

 午後からの予定を考えているとスマホが鳴る。

 マナーモードに設定してあるからバイブレーションがブルブルと震えただけなんだけどね。


 理事長の神崎さんから用事があるとのメールを受け取った僕は男子寮へ向かう途中から引き返した。



「ふぅ」


 理事長の扉の前で一旦深呼吸──そしてドアをノックする。


「どうぞ」


 中から神崎さんの声を聞いてドアを開けた。


「放課後なのに呼び出してごめんなさいね。小鳥遊君にちょっと大事な用があるの」


 僕はソファに座ると理事長はプリンアウトした一枚の紙を持ってくる。


「用件だけならメールでも良かったのだろうけどやっぱり直接会って話すべきだと思ったの」


 神崎さんは印刷した紙を僕の前に突き出した。


「今週の金曜日、小鳥遊君に会って貰いたい人いるの」


「はぁ?」


 僕はその紙に目を通す──学園内のとある場所の情報が載っている。


「相手の方がどうしてもあなたに会いたいと言っているの、午後からの授業は公認欠席になると思うから準備しておいてね」


「これだけですか? 内容的にはメールでも良いような気がしますけど」


「そうね、金曜に小鳥遊君が会う人、私の口から伝えても良いかしら?」


 神崎さんは僕の反応を気にしている。ゆっくりと頷くと次の言葉で衝撃を受けた。


「小鳥遊君が会うのはあなたのお父様よ」


「……父さん?」


 神崎さんの言葉を僕はすぐに理解できずにその場に固まった。

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