56.「Golden encounter」
綺麗な金色の髪が風に揺れて良い匂いが運ばれてくる──僕は目の前にいる女の子の綺麗さに驚いた、彼女は日本人ではないっているのがすぐにわかった、もしかしたらあの金色の髪は地毛じゃなくてかつらで、彼女はコテコテの日本人かもしれないなんていう疑問を心の片隅で持っていた。
「はじめまして、小鳥遊勇人君」
一歩進んで僕に挨拶する翡翠色と言えば良いのかな? 漫画とかでよくみるライトグリーンの瞳が真っ直ぐと向けられる。
好奇心の混ざった眼差しを受けても僕は彼女から目を逸らすことはしなかった。
僕はこの子を知らないけれど向こうは僕の事を知っているようだ。昔どこかであったことがあるのだろうか?
そうだとすれば思い出さないと──けれど、あんなに綺麗な金髪の女の子の顔を忘れるわけないとは思うんだけどなぁ。
「はじめまして」
女の子の後ろにいた子からも挨拶される──つり目でクリムゾンレッドの瞳、そして同じく金髪、この子も過去の僕の知り合いなのかな?
思い出そうとしても検索結果にヒットするものはない。だとすればまるっきりの初対面なんだろう。
「はじめまして。どうして僕の名前を?」
「うふふ、それは順を追って説明するわ。今はまず最初に部屋の中で休みたいのだけれど……長旅で疲れてしまって」
彼女は申し訳なさそうにそう言った。まだ状況が飲み込めない僕は一旦自分の部屋に彼女達を招き入れる。ついでに外にある荷物も運び入れた。
「なかなかの広さね、ここにあなた一人で住んでいると言うのはちょっともったいない気がするわ。他の生徒の部屋もこれくらいの広さなのかしら?」
「いや、この部屋ほど広くはなかったと思うよ」
以前御崎さんの部屋に入ったことがあるのだけれど、僕の部屋ほど広くなかったと思う、あの時は彼女のお見舞いを優先していたからそこまでじっくりと見たわけじゃないんだけどね。
「荷物はこれで全部ね。ちゃんと届いているみたいで安心したわ」
金髪の女の子は大きめの段ボールの山を見て感慨深そうにしていた。
ブルブル
「おっと、ごめん。電話みたいだから少しだけ外すね」
僕はポケットからスマホを取り出して通話ボタンを押しながら部屋の外に出た。
「もしもし?」
「もしもし、小鳥遊君? 神崎です。今時間は大丈夫かしら」
「はい。何かあったんでしょうか?」
「そうね、どこから話せばいいのかしら……。今あなたの部屋に女の子が二人来てると思うのだけれど」
「ええ、ついさっき会って挨拶されました。今は僕の部屋で休んでいます」
「そう、じゃあもう彼女達には会ったのね。えっとね、こうなった状況を説明するけど大丈夫?」
「お願いします」
「分かったわ。彼女達はねとある国のお姫様とその警護を務める騎士団の団長さんなの。今回プロジェクトの為にわざわざ来日してもらったっていうわけ」
「プロジェクト……となるとやっぱり母さんが関わっているんですか?」
「ええ、その通りよ。美鈴さんがプロジェクトが企画された頃からずっと親交を深めて来た相手でもあるの。あなたの結婚相手の候補として相応しいからと選ばれたの。彼女の祖国は今、この国と似たような状況に置かれているの。王族に跡取りがなかなか生まれないらしいのよ」
「今の王様にやっとできた子どもが女の子だったの。それでも国中の人に祝福されて恵まれた環境で育ってきたわ。だけど、すぐに後継問題が問いただされることになったわ。国を繁栄させる為に自分の置かれた立場とか色んなしがらみを抱えて生きていかなくちゃいけない。それはまだ大人になれない少女には厳しいことでもあるの」
「世継ぎの問題が最優先にされるから早い段階で縁談の話がいくつも来ていたらしいのよ。けれど、相手はそんなに良い人ばかりではなくて王家を乗っ取ろうとする輩もいたみたいね。そんな相手を排除しているうちに国に彼女と釣り合うだけの男性がいないと言うのがわかったの」
「王家は代々女性の家系が多かったみたいだし親戚に男性がほとんどいないらしいのよ」
「それが今回あの子が日本に来ている事に関係があるんですか?」
「そうね、あちらの親御さんから自分の娘を日本に留学させたという話を持ちかけてきたのよ、表向きはそれが理由だと語っているけど、美鈴さんがプロジェクトの件を話したみたいね、それであなたが王女様の結婚相手として不足がないか色々と吟味するみたい」
「あの子は大変な運命を背負っているんですね。国の繁栄が目的だとしてもさっき初めて会って彼女には裏表の無さそうな印象を抱きました」
「これからなんだけど、実はお姫様の強い希望であなたの部屋で同居することになっているの。今日まで伝えられなくてごめんなさい。どうしても実際に小鳥遊君に会うまでは秘密にしておいてほしいと頼まれていたの」
「そうだったんですか……じゃあ、僕の部屋の前に積まれていた見覚えのない荷物はあの子のものだったんですね」
遠くの国から遥々日本へやってきた金髪の王女様──おとぎ話みたいな出来事だけどそれが今現実になっている。
神崎さんから聞いた話を直接彼女の口からも聞かされる事になるのだろけど、僕が王女様の結婚相手として相応しい人間になれるかはわからない、プロジェクトに関わると言うことはあの子も学園に通って他の子たちみたいに決められた期限の中で自分の将来について考えていくんだろうな。
神崎さんとの電話を終えた僕は青く晴れ渡った空を眺めたー太陽が眩しくて目を細める「よし」っと気持ちを改めて部屋に戻る。
「おかえりなさい。段ボールだけど勝手に開けさせてもらっているわ。殆どがわたしたちの荷物でもあるから」
「うん」
荷解きをしている女の子側に座って手伝う事に──その前にやらないといけないことがある。
「あのさ、ちょっと良いかな?」
「何かしら」
作業の手を止めてこっちに体を向ける金髪の女の子。すごくチャーミングだという印象を持った。
「改めて自己紹介させてもらうよ僕の名前は小鳥遊勇人。君の名前を聞かせてもらえるかな」
「わたしの名前は……」
これからこのゴールデンな出会いを大事にしていこう。そして今日から始まる同居生活にドキドキしながらゆっくりと彼女に手を差し伸ばすのだった。




